「……はい」

 が立ち止まり、ゆっくりと振り返った。早鐘を打つ心臓に気付かないふりをして、クリフトは息を吸い込んだ。

「私にできることは、もしかしたらの期待していることとは違うかもしれない」
――私にできること。

「私は、止めることしかできません」
――さんに渡すことなんて、できない。

さんと付き合ったりしないでください!」
――私は、あなたが好きだから。

「私は、が好きなんです。誰にも渡したくない。ずっと、そばにいてほしいんです」
――あなたの隣は、これまでも、これからも、ずっと私でありたいんです。
共に歩み、いろんなことを分かち合いたいんです。だからどこへもいかないでください。お願いです。


「クリフトは、アリーナ様が……」
「ええ、姫様のことが好きです。けれど、それ以上に好きなんです。離したくないんです。そしてこの感情は幼馴染としてのそれとは違う」

 の瞳が戸惑うように揺れた。

「最初はわかりませんでした。けれど、漠然と、これからも一緒に生きていけたら、と思っていました」

 けれどある日、これまた漠然と思ったのです。

「もしも、さんが付き合って、これからが隣を歩くのが、さんになってしまったら……と」

 当然幼馴染として祝福すべきだと思ったのです。……いいえ、思おうとしたのです。けれど、ムリでした。

「この気持ちは一体なんだろうと、考えました。けれど答えは見つからず。そしたらミネアさんが気付かせてくれたのです」

 私はのことを、好きなんだと。

「当然戸惑いました。だって、ありえないでしょう? 生まれてからずっと一緒にいる幼馴染を、好きになるなんて。しかも、アリーナ様という心に決めた人がいながら……」

 けれどもやっぱり、この気持ちを抑えることができなくて、

「今、私はに気持ちを伝えているのです。実は、アリーナ様に聞いたのです。さんがに告白していた、と。心臓が止まったかと思いました。やっと自分の気持ちと向き合えて、好きだと気付けた。と思ったらさんに先を越されてしまった。正直、ダンスも誘えずめげていた私には大打撃でした」
「そう、でしたか」

 へと歩み寄り、少しずつ距離縮めていく。近づくにつれ明らかになってくる彼女の表情は、呆然としているようだった。無理もないだろう。まくしたてるようにに告白をしているのだから。

「……の期待に添えたかはわかりませんし、とても急なことなので、混乱しているでしょう。すみません」

 けれども、やれることはやれたと思っていた。正直、の期待とか、もうそんなこと考えている余裕はなくて自分が心に抱いている気持ちを、どう正確に言葉にできるか精一杯だった。
 頭の中でどう順序だてて伝えようかも考えずに、ひとまず言いたいことを全部言ったような形なのではすべてを理解できなかったかもしれない。だが、遠くへ行ってしまいそうな彼女との淡い絆を繋ぎとめる最後の手段として、なんとかやりきれたと思った。あとは、祈るだけ。も、願わくば同じ気持ちであるように。



淡い が 消えゆく 前に

(僕の精一杯をあなたへ捧ごう。)