走った。短い距離なのだが、とにかく走った。一刻も早くのもとへといきたかった。ウッドデッキに出ると、がぼんやりと夜空を眺めていた。勢いよく扉を開けたため、すぐに誰か来たことはに伝わったらしく、あけたと同時にがこちらを見た。 「クリフト……?」 の隣へと駆け寄った。彼女は心底不思議そうな顔をしていた。 「がいると聞いたので」 なぜあなたがここに? と表情でたずねているような気がしたので、説明する。すると「その理由、よくわかりませんね」と目を細めて笑った。 「ダンスをしていたんで気付きませんでしたけど、今日のお星さまはとても綺麗なんですよ」 見てください、との視線が夜空へ移動した。それに習いクリフトも夜空を見上げてみると、本当に満天の星が夜空を彩っていた。とても、美しかった。地上へ視線を馳せれば、あたたかなランプのあかり。左隣には想い人である。なんと美しい世界なのだろう、とクリフトは思った。 「本当に、ステキですね」 「でしょう? つい、見とれてしまいました」 この美しい世界で、はに想いを伝えたのだろう。 「私と、だけの世界のようです」 「クリフト」 名を呼ばれ、を見る。は相変わらず空を見上げていて、クリフトを呼びながらも向き合う気配はない。 「わたし、に告白されました」 ずき、と心臓にナイフが突き刺さった。知っていることだけれど、心に痛いのはなぜだろう。 「返事は待ってください、と言いました」 「そう、ですか」 (私はどうすればいい?) 自分の気持ちを、伝える? そのまえに、の気持ちを、聞く? はのことを好きだったとしたら、自分の気持ちは迷惑になる。いらぬ気だって遣わせてしまうだろう。それなのに思いのまま自分の気持ちをぶつけるというのは、ひどく一方通行で、勝手な気がした。ここにきて、己の気持ちを伝えるぞと勇んでいた気持ちが穴が開いたみたいに萎んでいく。 「クリフト、わたしはどうすればいいんでしょうか?」 ようやっとの視線がクリフトを捉えた。彼女の双眸は悲しげで、沈んで見えた。その瞳に魅せられて、クリフトの思考は止まり、何も言うことができなかった。ただ体だけが、執拗にのことを抱きしめたいと願った。沈黙が、二人を占める。 「……何、聞いてるんでしょうか」 悲しげな瞳が細められ、泣きだしそうな顔。視線はずらされて、はクリフトに背を向けた。 「こんなことクリフトに聞いたって困ってしまいますよね。本当は、クリフトに期待してたんです。……ごめんなさい。おやすみなさい」 が、中へ入ろうと歩き始める。その瞬間クリフトの体が、思考が、魔法が解けたかのように自由になった。結局何も言えないまま、が帰っていってしまう。一方通行でも、勝手でも、いいじゃないか。返事は待ってとが言った。つまり彼女は迷っている。まだ自分にも勝機があるのではないか。何より彼女は、自分に期待してくれていた。もしかしたら、彼女の期待とは違うことかもしれないけれどもしかしたら、もしかしたら――― 「待ってください!」 これが最後の選択肢 (言うか、否か、どちらを選択するかなんてもう決まっている。) |