伝わらないでほしかった。もしも、幼馴染と言う関係すら危うくなってしまったら、と自分をつなぐものは脆くも崩れ去ってしまう。だから自分の気持ちを伝えたくはないし、伝える気もない。 はずだった。 でも、とを見ていると、言いたくて言いたくて、いてもたってもいられない衝動が襲うのだ。目に見えない何かが「言ってしまえ」と自分の体を突き動かそうとする。恐ろしい衝動だった。気持ちが肥大しすぎて、もう自分の胸にとどめて置くことが困難になってきているのかもしれない。吐き出して、楽になれたらどれほどいいだろうか。それができないのは、……なぜ? これからも幼馴染としてありたいから? ―――違う。これはきっと建前だ。本当に幼馴染としてありたいなら、言いたいなんて絶対思わない。 では、なぜ? ―――怖いからだ。伝えて、拒絶されるのが怖いからだ。それはきっと、と付き合ってしまうことよりも恐ろしい。自分自身を拒絶されると言うのは、そこの見えない恐怖のように思えた。 それでも伝えたいと願う、この気持ちは一体? 自分を拒否されることも嫌だが、に渡したくない。という我侭な気持ちなのだろうか。 「クリフトさん」 「……ミネアさん?」 宿屋のウッドデッキでぼんやりしていたのだが、ミネアがやってきた。クリフトの向かい側のいすに座って、「いい景色ですね」と景色に視線を馳せながら微笑んだ。「ええ」と、クリフトも頷いた。 「まだ、迷っているようですね」 ミネアの指していることは、とのことだろうということはすぐにわかった。 「怖いんです。笑ってしまいますよね。に気持ちを伝え、拒絶されることがとてつもなく怖いんです」 「そうですね。人は誰も、傷つきたくなどありませんから」 「でも、伝えたいとも願ってしまうのです。さんに渡したくないとも。……支離滅裂です」 「人の感情なんてそんなものです。論理的に説明できないから、それを感情と呼べるのです」 ミネアの言っていることは難しく、理解できそうもなかった。彼女はここに存在しながらも、実態は遥か彼方にいるのではないかとも感じた。 「いいですか、クリフトさん。傷つくことを恐れてては何も始まりません。それどころか、きっといろいろなものをなくしてしまうでしょう。ですからあなたは何も恐れずに現実に立ち向かっていく強さを持ってください」 傷つくことを恐れてては何も始まらない。確かにそのとおりだった。ミネアの言葉は説得力があり、クリフトは呆然とした。ミネアが女神様のように見えて、神がかった存在のようだった。 そうだ。 自分の気持ちを嘘で塗り固めるのもやめた。 傷つくことから逃げるのもやめた。 へ一途になろう。 たとえ傷ついても、たとえだめでも。 「ありがとうございます。ミネアさん」 「いえ。頑張ってください」 最後に優雅に微笑んで、ミネアは席を立った。 「届かなくてもいい」 なんて嘘 (ようやく真正面から君と向き合えそうなんだ。) |