「お前らふざけんなよ! こンのバカップルどもが!!」 なんて怒鳴り散らしてた頃。あの頃は毎日のようにあのバカップルたちと一緒にいたものだから、あいつらにからかわれたり、いたずらされたり、逆にいたずらし返したり。とにかく修行修行の毎日だったけど、隙を見つけては三人でバカやって、笑いあっていた気がする。 そしてあいつらは、わしを残して死んでいった。 そして悼むように 目をつぶった。 気が付けば、そよそよと風の吹く草原にいた。ああ、死んだんだなあ。と即座に理解する。承太郎は、DIOに勝ったのだろうか。ひとつ、またたきをすると、いつの間にか10Mほど離れた場所に、シーザーとがいた。 「……迎えか、ん?」 発した声が、しわがれたそれではなく、二人と笑いあってたあの頃のように、若々しいものになっていた。よくよく体を見れば、身体もあの頃に戻ったようだった。 「久しぶりだな、JOJO」 シーザーが言う。もう何十年も昔に聞くことができなくなったその声が、久々に耳にやってきて、わしは不意に泣きたくなった。けれど、ぐっとこらえる。 「あの頃の、ままだのう」 声が、身体が戻ったからと言って、口調までも戻るわけもなく、自然と今の喋り言葉でしゃべる。けれど奇妙な違和感を感じるので、次言葉を発するときは意識しよう、と決めた。 「わたしたちはあの頃のままだもん」 屈託ない笑顔で言ったの年齢は、18歳。あの頃自分と同い年だった少女とも、もう何十年、差が開けたのだろう。生きていれば同い年の彼女との年齢差はすなわちが死んでから何年経ったかを物語る。 「どうだ、懐かしいだろ?」 俺よりも二個年上だったシーザー。あの頃20歳だったアイツの年を追い越したのはもう何十年前だ? 年上面してきたあの頃が懐かしい。二人が生きてたら、どんな姿で、どんなその後を送っていたんだろう。そう考えたことは、数えきれない。 「わざわざ迎えにきてくれたなんてな。ありがてーこった」 「礼には及ばねえぜ」 「まったく、元気なおじいちゃんだねえ。まだ現役だったなんてさ。波紋の修業をしてた頃が懐かしいでしょう?」 「……ああ、懐かしい」 あの頃周りを囲んでいたたくさんのものは、年を重ねるごとに姿を消していったが、同時に増えていきもした。ジョースターの血を継ぐ、ホリィが生まれ、承太郎が生まれた。 「もう、俺もそっちに行くんだな」 「……そうだったんだけどね、でもジョセフ、あなたこっちに来るにはまだ早かったみたい」 「え?」 「マンマミヤー。なんてこった。おい老いぼれ、残り少ねェ時間せいぜい楽しめよ」 「あっはっはっは! 老いぼれって!!!!」 いたずらっぽく笑ったシーザーに、老いぼれという言葉に爆笑する。 「だァーれが老いぼれだって!!?」 あの頃のように自然と反論する。しかし、どういう意味だ? まだ早かった? 「ほら、孫が待ってるぜ」 シーザーが改まった顔で言う。 「スージーQによろしくね」 が言う。 そしてすっと意識がもどった。別れを惜しむ間も与えられなかった。夢を見ていたような、そんな気分だった。どうやら生きながらえたらしい。わしを覗き込んでいた承太郎がそのポーカーフェイスを一瞬崩した。 そんな承太郎や、周りのものを少しからかって、上体を起こした。するとあの頃の二人が、楽しそうに笑いながら駆けてきて、そして一陣の風と共にわしのそばを駆け抜けていった。ばっと振り返ると、二人はもうどこにもいなかった。 幻は、すべて消えていた。 また会う、その日まで。 わしは静かに目をつぶった。 (2013.01.10) |