わたしには年下の彼氏がいる。相手は大学生で、わたしは社会人で、ご縁があって一緒になったわけです。わたしも学生の時は、今よりも恋にのめりこんでいたような気もするけど、社会人にもなるとそういう情熱はどんどん沈下していき、恋の優先度は下がっていった。 好きになりすぎると自分が自分でなくなるような気がするし相手のことばかり考えてしまい、ほかのことに手がつかなくなる。そんな風になるのはいやだから、自然と気持ちをセーブするようになった。まあ、仕事も忙しいし、社会人になると恋をメインには生きていけないのだ。 もしかしたらそんなところが、彼の今の発言につながったのだろうか。 「さんってさ、ほんとにおれのこと好きなのかよ」 缶ビールを飲みながらぶすっとしている大学生探偵が言う。ソファで並んで座っている彼が工藤新一、わたしの彼氏。 「もちろん」 こちらも缶ビールをあおる。なんならこっちが聞きたいくらいだ。君みたいな若くて、賢くて、かっこよくて、有名で、モテモテな大学生がなんでわたしなんかと? 「いっつも余裕そうでよ、おれがいなくたって平気みたいな顔してて……」 おーおー酔ってるなこりゃ、新一ったら。わたしはね、余裕そうに見えるだけ、平気みたいなふりしているだけ。あなたは探偵だけど、大人の女の心の奥までは見抜けないようだね。余裕じゃないし、新一がいない生活なんて考えられないよ。なんだかくすぐったくて、新一の肩に寄り掛かる。体あったかい。 「新一がいないと毎日頑張れないよ」 「そんな風にみえねーけどな、は」 「あー今呼び捨てにしたな? さんでしょ?」 いつもはさんって呼ぶくせして、たまに呼び捨てにしてくる生意気な大学生。ちょっとドキッとしたりもするんだけど、勿論そんなことは新一には言わない。 「へーへー。サン」 「そういう新一くんこそ、さんいなくても大丈夫そうですが?」 「いなくて大丈夫だったらこんなにさんちにこないっつーの」 がしがしと乱暴に頭を撫でられ、寄り掛かっていた肩をぐいっと押し返されて、元の姿勢に戻される。 「ちょっと心配だったりするのか?」 缶ビールを置いた新一がじっとわたしの顔を覗き込んだ。ニヤっと、余裕綽々でキザな笑顔。 「べっつにー」 唇を尖らせて言えば、不意にキスをされて心臓が跳ね上がる。ちょっぴりガサツだけど、熱っぽいキス。 「んっ」 思わず声が漏れる。ゆっくりと唇が離れて行けば、熱に浮かされたみたいな新一の顔がそこにあった。 「なんつーエロい声出すんだよ……」 「エロセンサー過敏すぎでは」 「さんが可愛すぎるんだよ、そういう気にもなるっつーの」 「何それ。ねえ新一、今日は金曜日だよ。明日は休みだよ」 ちゅ、と新一に口付ける。可愛い可愛いわたしの彼氏。誰にもあげない。 「今夜は長くなってもいいってことだな」 「うん、そういうこと」 ぐいっとソファに押し倒されて、視界には新一がいっぱいになった。 「で、俺のこと好きなのかよ」 「もちろんだって言ってるじゃん」 「もちろんじゃなくて、好きって言えよ」 「……」 こんなに心待ちにされると、なんだか急に気恥ずかしくなる。 「」 耳元でささやかれる。この男は本当にずるい。 「……新一のことが好きだよ」 ぽそっと言えば、そのまま耳を甘噛みされる。 「よくできました」 楽しい楽しい金曜日の夜はまだ始まったばかりだ。 LOVE ME |