「あーあー、雨だよ……。新一、傘持ってる?」 「持ってねぇけど、適当にここらへんの傘借りればいいんじゃねぇの?」 そういって傘立てから持ち主不明の透明なビニール傘を抜き取って、勝手に我が物にした。 「だ、だめだよ。戻しなさいっ」 「でもよぉ、もう学校に残ってるのなんてほんの僅かだし、雨が降り出したのはついさっきだ。つまり、今日借りて明日返せば誰も困らねぇよ。仮にこの傘の持ち主がまだ校舎にいたとしてもそいつも賢く他の誰かの傘を拝借して帰るだろうよ」 「……はいはい」 つらつらと噛みもせず自論を述べられ、は呆れながらも少し感心し、結局新一の悪行を見逃すことにした。といっても、一緒の傘を使うと言うことはつまり、も共犯なのだが。 「ほんじゃ、いくぞ」 昇降口を出て、すかさず新一が傘を広げる。はすかさずその中に入り、二人を身を寄せ合う。さすが雨が降っているだけあって、外気は肌寒かった。 「さすが、寒いし雨だし、との距離も縮まるな」 「……じゃあ離れるよ」 「ちょ、待て待て、誰が離れろなんていった? ほら、ぬれっからもっと近寄れよ」 そういって少し距離を置いたの肩をつかみ、抱き寄せる。先ほどよりもずっと二人の距離は縮まった。 は急に騒ぎ出した心臓にあせりを感じつつも、真っ白になった頭でなんとか沈黙を切り抜けようと話題をひねり出そうとするが、なかなか出てこない。そのことにさらに頭は白くなっていき、そして焦っていく。そんなの内部紛争を閉戦させたのが、新一の話題提供だった。 「そういえばよ、おめーこのまえ、他のクラスの男とアドレス交換してたろ?」 「えっ、なんでそれをご存知で?」 いまだにおかれた新一の手に戸惑いつつも、先日の一件について知っている新一に驚いた。確かあれは、誰もいないところで行ったはずなのだが。 「偶然みちまったんだよ。すぐ、ばれないうちに退散したけどよ」 「なんだ、みちゃったんだ。でもね、別にその人とは何もないんだよ? ただ、アドレスを聞かれただけで、」 新一に何か言われる前に先手を打とうと、彼との関係を告げるが、新一の横顔はどこか怒っているようだった。胸にちくりと鋭い、小さな痛みが走った。 「何もわかってないんだな」 突き放すような一言。言葉の意味は理解できなかったが、声色が、泣きたいくらい見放しているようだった。肩におかれた手が、離れた。その手に傘を持ち替えた。 「どういうこと?」 かろうじで搾り出した言葉には、自分でも驚くくらい悲しみが滲んでいた。雨音が、やけにうるさかった。 「普通男が女に連絡先を聞くときっていうのは、好きだからって決まってるんだよ」 「そんな、一概にそうとは言えないよ。それに、彼が私を好きだったとしても、関係ないことだよ」 「関係なくないだろ」 「新一、怒ってるの?」 突然新一は傘を放り、私が”え?”と思った瞬間には、新一に抱きしめられていた。絶え間なく降り注ぐ雨粒が、いまだに状況を飲み込めない私の顔に無遠慮に降りかかってくる。 「怒ってるよ」 「な、んで」 ドキドキと今にも爆発しそうなくらい過激に動く鼓動が、新一に伝わってしまうんじゃないかと思うと彼を突き放してしまいたいと思うが、身体が魔法にかかったかのように動かなくなってしまった。 「何もわかってないんだな」 本日二度目の言葉。だがさっきと比べて非難の色は薄くなっていた。 「俺、おめぇのこと……」 まさか、これは、もしや……? 「好き……なんだよ! ちくしょ」 もしも外れたら、とんでも恥ずかしいであろうの予想は、見事に当たった。なぜ最後に悪態をつかれたのかは、わからないが。 「だから、おめぇが他の男にアドレスを聴かれてるところを見たとき、とんでもなく焦った」 雨のせいでぴったりと張り付いた前髪が、濡れてくさくなってしまいそうなブレザーが、頭皮までたどり着き、伝っていくぬるい雨水が、不快でありながらも不快と感じないのは、きっと今自分の心が高揚しきっているからだろう。 新一が、私を、好き。 この事実がを快楽の海へと誘う。溺れるのも、そう遠くはない。 青に、溺れる |