理科室へ連れて行くと、三谷を見るなりは「あ」と声を漏らした。は「祐輝とは同じクラスなの」と説明した。名前を呼び捨てにしていることに引っかかりつつも、三谷のほうもに気づくと、驚いたような表情をした。 「。なんだお前、囲碁に興味あるわけ?」 「え、いや、そういうわけじゃないけど……。成り行きで」 「ふうん。まあ、いいけど。俺のほうが先輩なんだから、敬えよな」 「嫌。なんで祐輝の事敬うしかないの!」 心なしか、と会話する三谷の表情が柔らかいのは、気のせいだろうか。だがそのことについては深く考える事もなく、ヒカルはそういえば、と部長である筒井の姿を捜した。筒井は窓際の席であかりと碁を打っていた。 「筒井さん。新入部員だよ」 「あ、進藤君。女子部員? すごいや! ありがとう!」 「、あの人が部長の筒井さん」 「わたし、っていいます。ヨロシクお願いします」 「よろしく、さん。筒井公宏です」 「んで、隣の女があかり。仲良くしてくれよ」 「藤崎あかり。よろしくね!」 「うん。よろしく」 こうしては囲碁部に正式入部することになった。筒井がヒカルに、に囲碁の基本を教えるように言ったので、今日のヒカルの部活動はの先生だ。誰かに囲碁を教える、ということをしたことがなかったヒカルなので、その活動はとても新鮮に感じた。そして教えた事を素直に汲み取っていくに、深く親しみを感じた。 「よし、じゃあ今日のところは帰ろうか」 オレンジ色の柔らかい光が理科室に差し込むようになってきたところで、部長筒井の一言で今日の部活はお開きになった。 「今日はありがとう、ヒカル」 「どってことねーよ。また明日もいろいろ教えてやるよ」 「うん。わかった。じゃあ、また明日ね。 ――祐輝、一緒に帰ろう」 「しゃーねえな」 と三谷は理科室を立ち去った。それを確認し、あかりがヒカルのもとへやってきて、小さな声でおもしろそうに言う。 「ねえ、ヒカル、あの二人つきあってるのかしら?」 「さあ。同じ小学校で、家が近いとか、じゃないの?」 なんとなく、なんとなくだけれど、彼らが付き合っている、という可能性が嫌で、そんなことを口にした。あかりは残念そうに、そうかもね。と呟いて、私たちも帰ろうか。と微笑んだ。 たとえるならそう、彼らの関係は自分とあかりのような関係であってほしい。そう少なからず願っている自分がいた。 刹那ロマンス 『ヒカル』 「ん?」 『私の話を聞いてくれますか?』 「いつだって聞いてんだろうよ」 ごろん、とベッドで寝返りをうち、床に正座している佐為を見た。彼の表情は、いつもと違って真剣な顔をしていてヒカルは佐為のこれからする話に興味を持った。 『昔、まだ私が生きていたころ、私には恋人がいました。もう、声も、顔もぼんやりとしか思い出せなかったのですが……を見た瞬間、声を聞いた瞬間、ふと私の中に蘇ってきたのです。彼女が……』 「なんで? がその人に似てるの?」 『ええ。似てるなんてものじゃありません……。あれはそう、』 生き写し。 『そのような言葉を使うのが適切だと思います』 「へえ……」 『そして、には私が見えたと言う事実……これはもう、』 「もう?」 『運命、としか言えません!』 立ち上がり、本当に嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプする。そんな佐為の様子を見て、ヒカルは苦笑いする。 (コイツ、囲碁だけがすべて……ってわけでもなかったんだな) そのことに妙に安心感を抱いた。 「三谷と付き合ってないといいな」 『ああ……そうですね。でも、が幸せなら、それでもいいような気がします』 「へえ、お前って大人なんだな」 『ヒカルとは違いますからねっ。ふふんっ』 「んだとてめー!」 +++ (ふじわらのさい) 生まれて初めて見た幽霊の名を心の中で呟いて、自然と微笑んだ。あんなに綺麗な人を、生まれてはじめてみた。最初見たときは、ただ単に恐ろしくて意識を飛ばしてしまったが、二度目会ったときの、あの息が止まりそうな感動は死ぬまで忘れられそうにない。少しだけ残った桜の花びらが舞う、春の日のこと。きっとあの日のことを、忘れることはないだろう。 「佐為……」 明日から、楽しみだ。 |