「ひぎゃあああああああ!!!!」

 そいつは唐突に、奇妙な叫び声を上げて卒倒した。周りにいた女子たちが何事かとうろたえ、やがて人だかりができた。オレはなんとなく気まずくなって、来た道を引き返す。だって、そいつは、オレの姿を見て叫んだんだ。そりゃ、気まずいだろ。

『ヒカル、さっきの子、ヒカルの事見て叫んでましたね』
(……佐為もそう思った? オレ、誰かが意識失うほどひどい何かがあるか?)
『私はないと思いますけど。なんでしょうね。それに気のせいかもしれませんが、私も目が合ったような気がします』
(まさか! そりゃねぇだろ)

 また今度廊下であったら、何気なく、なぜ倒れたのか聞いてみようかな、と考えながらオレは教室に戻った。と、同時にチャイムが鳴ったのでオレは席について机につっぷした。

(あ、さっきの一件で小便いきそびれちった。一時間持つかなー……)



巡り会いのとき



 その日の授業も終わって、囲碁部へ向かう道すがら、あかりと合流した。いつもどおり理科室への道のりを歩いて行くと、階段で女子とすれ違った。特になんてことないことだ。だが、その女子はオレ俺の後ろを見て驚いたように息を呑むと、いきなり腕を掴んで、そのまま俺をどこかへ連れ去る。困惑気味のあかりの姿が目に映る。

「先いっててくれ」

 かろうじでそれだけあかりに告げると、やがてあかりの姿は見えなくなった。オレは、一体どこに連れて行かれるのか。見知らぬ女子に。

 結局、閑散としている図書室へ連れて行かれた。窓際にやってきたと思ったら、彼女は手を離してオレの後ろをじっと見つめた。……まさか、コイツ。

『ヒカルゥ、なんか私、目が合ってるような気―――』
「しゃ、喋った!!!」

 女子は目を見開いて後ずさる。予想した通り、コイツは、多分、佐為が見える……。佐為も驚いて後ずさりしている。やっぱりそうだ。

「……あのさ、オレの後ろに何か見えるの?」
「う、うん! か、か、髪が長くて、き、綺麗な!! おおお着物の、お、女の人!」

 やけにどもるのが特徴的な髪の短い、可愛らしい女子だった。こんなやつはじめてみたな。にしても佐為を女って……まあ、無理もないよな。オレは苦笑いして、その部分を訂正する。

「佐為は女じゃねーよ」
『―――あ、はい。私、男です』
「お、男の人? す、すごい綺麗です……。あれ、さ、佐為っていうんですか?」
『はい。佐為、藤原佐為です』
「わ、わたし、です……。あの、あなたは、えと、あなたは、佐為さんのこと、見えるんですか?」
「おう。ああ、オレは進藤ヒカル。佐為のことは見えるぜ」
「ご丁寧にドウモ……。あの、どうしてこんなことに?」

 だんだんとどもりがなくなってきた代わりに、落ち着きを取り戻してきたはちら、と佐為を見てたずねる。オレは仕方ないので、佐為がオレに憑いているいきさつを簡単に話す。

「なるほど……。でも、わたし、なんで佐為さんのこと見えたんでしょう……」
「さあな。は幽霊とか見える人じゃないわけ? あ、てか気を使わなくていいぜ。オレにも、佐為にも」
「わかった。……わたし、自慢じゃないけど幽霊なんて生まれてこの方見たことないよ。なんで、だろう?」
「そうだ!! これもなんかの縁だ。なあ、囲碁部こねえ? 部員足りないから困ってるんだよ」
「囲碁部……? いいよ。でも、わたし、囲碁とかやったことないよ?」
「だーいじょぶ! そういうやつらばっかだからさ!」

 さあ、いこうぜ! と、オレたちは理科室に歩き出した。

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