工藤新一と。二人は同日に行方不明となった。そしてその日にやってきた真新しい人物。小学生の男の子、コナンと、高校生の男の子、。二人は似ていた、失踪したその二人に。工藤新一と
 それもそのはずであった。なぜならコナンとは、失踪した工藤新一とであるからだ。彼らは好奇心からとある事件に首を突っ込み、運悪く見つかり毒薬を飲まされたのだった。その毒薬の作用で、工藤新一は幼児化し、は男体化したのであった。同じ薬を飲んで、なぜ副作用がこんなに違うのか皆目見当もつかないが、とにもかくにも今となってはコナンも小学生ライフも板についてきたし、も男の振る舞いもできるようになっていた。
 そして今、ことはとある問題に直面していた。

「ねえ新一、こないだのことなんだけどさ……」

 学校からの帰り道、が眉を寄せて新一に言う。

「オメーよ、何度言えばわかるんだよ。いい加減その女っぽい喋り方どうにかしろよ。おれの前だからって気ィ緩みすぎだっつーの」
「……だよね? 仕方ない、男になるか」

 んん、と喉を鳴らし、は一つ咳払いする。

「今度、文化祭あるじゃん? 帝丹高校の」
「あー、もうそんな季節か」
「それでさ、今度の土曜に買い出しをすることになったんだけど……園子と二人なんだよね、ねえどうしよう!?」
「はあ!? なんだそれ、なんでそうなった?」
「わからないよ……なんでか押し付けられた……どうすればいいの? おれ緊張しすぎて可笑しくなりそう」

 以前、ポアロで打ち明けられたことはコナンの中でも真新しい出来事だ。が園子のことを好き。人の恋路にどうこう言うつもりなどないが、この場合いろいろと問題がありすぎる。は本当は女で、そしてもともと園子と大変仲の良い友達だ。いつ戻るのか分からない状況である以上、非常に問題である。
 それにしても、どうして二人で買い物に行くことになったのか……理由は何となく察しが付く。おおよそ、二人はクラスでも噂になるほどいい感じの中で、周りから囃し立てられて買い物係に任命されたとか、そういうところだろう。あるいは、園子か、どちらかの好意がダダ漏れでこれまた面白がったクラスメイトが任命した、などだろう。

「どーするも何も、いくしかねーだろ」
「やだよー! いや、ヤじゃないんだけど……緊張してどうにかなっちゃうって。ねー新一、一緒に行かない?」
「はあ? なんで俺が」
「だってどうすればいいかわからないし!」
「頑張れよ、逆に言うとチャンスだろ? 二人でお出かけなんてさ」
「そう言うなって。チャンスとか、他人事だと思ってさー」
「あ、コナンくーん、それにくん」

 この声は。コナンは振り返れば、予想通りの光景が広がっていて思わず口角が上がる。蘭が大きく手を振ってこちらに小走りで駆け寄ってきている。蘭がいるということは、つまり―――
 ちらり、の様子を伺えば、まっすぐ先を見据えながら真っ赤な顔で固まっている。学校でもこんな感じなのだろうか。だとしたら相当重症だし、好意がダダ漏れなのはのほうかもしれない。

くん、だよね?」

 呼びかけても振り返らないのを不審がり、蘭が再び声をかける。がちがちのロボットのような動きで振り返った。

「蘭ちゃん、それに……園子ちゃん」

 そう、園子も一緒だ。強張った顔では手を挙げた。

くん、今日は災難だったねー。押し付けられちゃってさ」

 園子が声をかけると、は、「そだね」と非常に小さな声で頷いた。園子はと言えば、少しばかし顔を赤らめて、「ねー」と同じように頷いた。何なんだこの二人は、観察していると面白い。蘭の様子を見れば、蘭も同じらしく、二人の様子を見守りながら幸せそうに微笑んでいた。

「ねえねえ二人とも、携帯の番号交換したら?」
「え!?」

 蘭の提案に対して、と園子の素っ頓狂な声。寧ろ番号を交換していなかったことに驚きであった。

「だって連絡先を交換しといたほうが、土曜日スムーズにいくんじゃない? ね、コナンくん」
「あ、うん。交換しなよ、兄ちゃん」

 園子がおずおずと携帯を取り出す。

「じゃ、交換しよっか。番号教えて?」
「あ、そだね……えっと―――」

 が番号を読み上げて、園子が携帯に打ち込んでいく。打ち込み終わるとその番号に鳴らして、が携帯を取り出して、オッケー。と頷く。

「よろしくね、くん」
「うん、よろしく。園子ちゃん」

 二人がはにかみあう。なんだかむずがゆい光景に、蘭とコナンはニヤっと頬を緩める。

「ショートメールでアドレスも教えてくれる? ほら、メールも知ってたほうが何かと便利かなーって!」
「ん、そだね。家帰ったらすぐ送るよ……あ、ていうか面倒だったらおれ一人で行くし、大丈夫だからね」
「面倒なんかじゃないわよ! くんこそダイジョウブ? 用事とかないの? ほら、彼女とかとさ……」

 おーおー、園子が探りを入れてやがる。なんてコナンが心中で笑う。

「彼女なんていないって!」
「あ、そうなんだね! なんだ、くんカッコいいからてっきりいるのかと……ほら、前の学校とかにね!」

 は阿笠の計らいで転校生として帝丹高校にやってきたのだ。

「いないいない。いたことないよ、あ、コ、コナンくん、少年探偵団の皆と待ち合わせしてるんだったよな? よし、行こうか」
「あ、いや別に―――」
「ほら、いくぞ! じゃあね、蘭ちゃん、園子ちゃん」

 意地悪な笑みを浮かべるコナンの手を引いてはこの場から強引に立ち去る。ずんずんと離れていき、角を曲がって蘭と園子の姿が見えなくなると、はぱっとコナンの手を放して、わー! と頭を抱えて叫ぶ。

「見た!? 新一、わたし園子と電話番号交換した上に、アドレスも聞かれたよ!」
「オイオイ、素になってるぞ。興奮してるのは分かるが、外なんだから気を付けろっつーの」

 嬉しそうに顔を綻ばせている目の前の男子高校生を見て、苦笑いする。神さまも気まぐれで面白いことをするぜ。なんて思いながら、土曜日の尾行計画を密かに立てるコナンなのであった。
 と園子。これは神さまのイタズラで、神さまの気まぐれ。けれどもやはり、神の思し召しには逆らえないのだ。

「せいぜい園子の前でにならねーようにな」
「うん、気を付けるよ! 園子におねえだと思われたらややこしくなるしね!」
「……おう」




神さまの気まぐれ