工藤新一と。二人は同日に行方不明となった。そしてその日にやってきた真新しい人物。小学生の男の子、コナンと、高校生の男の子、。二人は似ていた、失踪したその二人に。工藤新一と
 それもそのはずであった。なぜならコナンとは、失踪した工藤新一とであるからだ。彼らは好奇心からとある事件に首を突っ込み、運悪く見つかり毒薬を飲まされたのだった。その毒薬の作用で、工藤新一は幼児化し、は男体化したのであった。同じ薬を飲んで、なぜ副作用がこんなに違うのか皆目見当もつかないが、とにもかくにも今となってはコナンも小学生ライフも板についてきたし、も男の振る舞いもできるようになっていた。
 そして今、ことはとある問題に直面していた。

「ねえ新一、悩み事があるんだけど……」

 毛利探偵事務所の下にある喫茶店、ポアロ。コナンとが二人でお茶を飲んでいた。

「オメーよ、いい加減その女っぽい喋り方どうにかしろよ。おれの前だからって気ィ緩みすぎだっつーの」
「だって女の子だよ? でも、低い声でこの喋り方、自分でも違和感感じてます。仕方ない、男になるか」

 んん、と喉を鳴らし、は一つ咳払いする。

「ズバリ、気になる子がいるんだ」
「へぇ〜、オメーにもそういう感情あるんだな」
「しかも、女の子」
「ハァ!?」

 コナンが目をこれでもかと言うくらい見開いてを見た。

「誰なんだよ……?」
「そ、園子」
「ハァ!?!? よりよって園子!? なんで!!」

 もともと女性と言うこともあり、彼の男体化した姿はどこか中性的で、綺麗な顔立ちの男性になっている。女の子からモテモテなんだよ〜なんて自分で自慢げに言っていたのをコナンは覚えているが、その自称モテモテの男が、まさか園子を好きになるとは。園子には失礼な話だが、どちらかと言うと園子は良い友達タイプである。

「いやわかんない、でもなんか最近園子のことが気になるんだよ!!! いけないか!!」
「いや別にいけなくはねーけどよ!」
「園子ってさ、お転婆だけどどこか上品だし、結構ああ見えて気ぃつかいじゃん? なんかそういうとこいいなーって」
「気ぃつかいか?」
「ばっか、新一は男だからそういうのわかんないんだよ、女のわた、いや俺だからこそわかるんだよ。園子の気の使えてる感じがさ」
「へー」

 女だからわかるのか、それとも恋は盲目状態なのか。いずれにしても、赤い顔で必死になって言っているには何を言っても無駄だろう。

「でも……さ、おれ女じゃん? なんなら園子とはずっと友達だったわけじゃん? もう、抱えきれなくてさ。つい同じ境遇の新一に悩み相談しちゃったわけ」
「まあ、似て非なるものではあるがな」
「そういわないでよ〜ねえどうしよう。この気持ちは封じ込めたほうがいいかな」
「……ああ。いつか、元に戻った時、正体を明かすときに、こじれちまうからな」

 女性に、に戻った時に、園子はどんな顔をするだろう、どんな気持ちを抱くだろう。男だと思っていた人が実は女で、自分の友達だったなんて知ったら。

「あら〜、この後姿はくんにガキンチョじゃない!」
「園子姉ちゃんに蘭姉ちゃん」

 の背後から園子と蘭がやってきて、声をかけた。は分かりやすく肩を震わせる。

「そっ、園子ちゃん!?」

 彼がだったころは、園子がやってきたところで「園子〜偶然じゃんやっほー!」ぐらいで済んでいたろう。それが今はどうだ、情けない声で彼女の名を呼び、頬を赤らめている。照れ方がまるで中学生である。恐る恐ると言った様子では振り返ると、園子は大きく手を振りながら、こちらの席へと歩み寄っているところであった。

「コナンくん、くんに相手してもらってるの? よかったね」
「うん、兄ちゃんと偶然会ったから」
「あんたたち本当に仲いいわねー」
「まあねー」

 ニコニコ笑いながらコナンは受け答えつつ、ちらっと目の前のの様子をうかがうと、見たことないほど緊張に満ちた顔でテーブルの上で固く握っている拳を凝視している。思わず吹き出しそうになったのを、コナンはかろうじで堪えられた。

「ねえねえくん、ご一緒してもいい?」
「あ、ウン。どうぞ……」

 四人掛けの席を、真ん中に座っていたはこれでもかと言うくらい端に寄り、スペースを開ける。の緊張なんぞどこ吹く風の園子が隣に座り込み、メニューを見ながら「何にしようかな〜」と楽しそうに選んでいる。蘭もコナンの隣に座り、一緒になって「夕飯前だから軽めにしないとね」なんて言っている。

「なんかくん学校にいるときより大人しいね? それになんか真っ赤だよ、もしかして風邪引いてるの?」

 蘭が心配そうに眉を下げる。は、「あ〜」なんて言いながら何かうまい具合の言い訳を言おうと考えを巡らせるが、どうやら出てこないらしい。見かねたコナンが助け舟を出す。

「なんか兄ちゃん体調悪いみたい。帰ろ?」
「へっ、あ、うん。そだね。ごめんね蘭ちゃんに園子ちゃん」

 蘭と園子が退いて、コナンとは伝票を持ち、いそいそと席を立った。

「また明日学校でね」

 ぎこちなくは微笑み、手を振ると足早に会計に向かった。

「相変わらずかっこいいわね〜くん」

 園子がの後姿を見つめながら、ポツリを呟いたのをコナンは聞き逃さなかった。いつもの、怪盗キッドやそのほかの有名人に向けて発する黄色い声ではなく、限りなく冷静で、リアルな呟きであった。

(ふーん……知らねーぞ、

 と園子。これは神のイタズラだ。けれども神の思し召しに逆らえないのだ。コナンは切なそうな、恋に焦がれた顔での後姿を見守る園子の様子に口元を釣り上げると、のもとへと駆け寄った。

「ナイスアシスト、新一。今日はおれの奢り」
「サンキュー」

 ポアロを出てすっかり元の調子のがにかっと笑った。

「なあ、正体がばれたとき、こじれるってさっき言ったけどよ、まあいいんじゃねえ? 俺はもう止めねーぜ」
「へえ? 急にどうしたの新一」
「神さまには逆らえねーからな」
「?? 何言ってるの? っていうか新一って神とか信じてるんだ? いがーい」
「……やれやれ」





神さまのイタズラ