蜜璃に今日のことを事細かに報告すれば、のぼせてしまったのかと思うくらい顔を真っ赤にして、事あるごとに黄色い悲鳴を上げ続ける。

「もうそれって! ちゃんは冨岡さんのことが好きってことでいいのかしら!?」
「恐らく……」
「やだもう!! きゅんが止まらないわぁ!!」
「蜜璃さまぁぁ!! わたしは怖いのです。気がつけば冨岡さまのことを考えてしまいます」

 甘露寺邸まで送っていただき、別れてからずっとだ。もう屋敷に帰られただろうか? おはぎは召し上がってくれただろうか? なんてとにかく止まらないのだ。今日で確実に冨岡に対する想いが深く、強くなったと思う。

「冨岡さんをお慕いする気持ちが、きっとちゃんの力になるわ。何が何でも生きて帰って冨岡さんに会うの! って気持ちをしっかり持つのよ」
「はい! しかし蜜璃さま、危ない時はいつも蜜璃さまが脳裏に浮かぶんです。蜜璃さまより前に冨岡さまが浮かぶなんてなんだか想像できないんです」
「なんていじらしいの……!」

 ぎゅぎゅっと蜜璃に抱き付けば、応えるように蜜璃が抱き返してくれる。

「じゃあ暫くは冨岡さんにあげないわ! 私と一緒にいましょうね」
「はい〜!」
「今日のお夕飯は何にしようかしら?」
「鮭大根を作ってみてもよろしいでしょうか?」
「勿論よ! 買い出しに行きましょうか」

 この日からは鮭大根を毎日のように作り練習を始めた。お店で鮭と大根を大量に買うことから、あだ名が一時期、鮭大根ちゃんになったとか。
 冨岡にお礼の手紙を送ってから暫く月日が経ち、近況を報告する手紙を持たせて鴉を飛ばした。勿論その間冨岡からの文はない。
 あの日から鮭大根を作る練習していること、まだ冨岡に食べてもらえるほど上手ではないこと、最近は難易度の高い任務に蜜璃と就いていること、身体に気を付けて日々を過ごしてほしいこと。震える手でしたためた手紙は何度も失敗したが、漸く満足のいく出来のものが出来た。
 鴉が戻ってくる間に隊服に着替えて今日の任務の準備をする。背中に背負う滅の文字を見ると身が引き締まる思いがする。居間に向かうと蜜璃も隊服に着替えていて、今日も今日とて可愛いが過ぎる師範を見て、は引き締まった思いが一瞬にして緩むのを感じた。いかんいかんと再びきゅっと引き締めた。

「今日も任務頑張ろうね、ちゃん」
「頑張ります!!」

 ああ、蜜璃さま今日も生まれてきてくれてありがとうございます。と神に感謝した。

+++

 それから数日後。今日は蝶屋敷にお呼ばれをしていた。冨岡からの手紙は来ていない。そのことを少し残念に思いつつ、蝶屋敷への道を蜜璃と歩く。

「胡蝶さまにお会いするのお久しぶりで緊張します……」
「私も久しぶりに会うなぁ。このチョコレート、喜んでくれるといいけど」

 蜜璃が手に入れた西洋菓子のチョコレートは、見た目は土のような茶色をしているのだが、口に含めば幸せな甘さが口いっぱいに広がる。あんことも違うあの甘さは、クセになりそうだ。
 蝶屋敷の門をくぐると、入口へと続く道のりに沿うように花が咲いていて、蝶が優雅に舞っていた。どこか浮世離れしたようなこの蝶屋敷は、家主の胡蝶しのぶをそのまま現すような美しさだった。立ち止まり、花を堪能する。

「きれい! お花って素敵ね〜うちのお庭もお花植えようかしら」
「いいですね! 蜜璃さまの美しさを花が引き立てていて、蜜璃さまの女神感を助長しますね……!」
「やだもうちゃんったら!」

 頬をリンゴのように染めて蜜璃が照れる。

「こんにちは。蜜璃さん、さん」

 家主の胡蝶しのぶが、きゃっきゃと華やかな女子たちの話声につられて外に出てみれば、案の定蜜璃とが到着していた。
 
「わあ〜〜〜!! 胡蝶さま、相変わらずお美しい……!」
「可愛いわあしのぶちゃんっっ!」
「……お二人も相変わらずで」

 二人はしのぶを見るなり両手を合わせて賛辞の言葉を投げかける。彼女たちは会うたびにこのように褒めちぎってくれる。しのぶとて悪い気はしないが、勢いに少々引いてしまうときはある。

「こんな所ではなんですから、どうぞ、あがってください」

 蝶屋敷には療養している隊士もいれば、機能回復訓練に励む隊士もいた。蝶屋敷に運び込まれる隊士は、かなり重症な怪我や、重篤な毒を患った隊士が多い。出来るだけお世話にならないことを祈りつつ縁側を歩けば、中庭ではしのぶの妹である栗花落カナヲが蝶と戯れていた。

「あら、カナヲちゃん! こんにちは」

 蜜璃が手を振る。もそれに倣い手を振ると、カナヲが気づいて手を振り返してくれた。

「カナヲちゃんとっても可愛いですね……!」

 が興奮気味に蜜璃に言う。カナヲはしのぶの妹だが、血のつながりはない。身寄りがなく売られていたところを、しのぶと、今は亡きしのぶの姉であるカナエが奪い取ったとのこと。(正確に言うと売っていた男にお金を投げつけたらしい)

「カナヲもおいで」

 しのぶのお誘いにカナヲは頷いて、入口の方へと歩いていった。
 客間に案内されて暫くするとカナヲも合流した。落ち着いたところで蜜璃が持参したチョコレイトを渡すと、しのぶとカナヲがおお、と声を上げる。

「とても美味しそうです。カナヲ、紅茶を淹れてきてちょうだい」
「はい」

 暫くしてカナヲが紅茶をもってきて、女子会が始まった。