「蜜璃さま、今日のお夕飯は何を作りましょうか?」
「そうねえ……ちゃんがつくるご飯はなんでも美味しいから、迷っちゃうわあ」
「そっそんなことないです! 蜜璃さまはいつでも美味しそうに食べていただけるので、作り甲斐があります!」

 ちゃんかわいいわあ、と言いながら蜜璃が、お台所に立つのことを後ろからきゅっと抱きしめる。甘くて、柔らかくて、愛おしい蜜璃の匂いが漂ってきて、はどきっとするのだった。
 甘露寺蜜璃は恋柱で、のことを継子として稽古をつけている。師範の蜜璃のことがは大好きだった。師範としても、人としても、同じ女性としても。
 はあ幸せ、と心の中で桃色の吐息をつきつつ、身体にまわされた蜜璃の腕をきゅっと掴む。と同時に蜜璃に言わなければならないことがあったのを思い出す。

「蜜璃さま、そういえば蛇柱様からお手紙が届いていましたが、お気づきになりました?」
「ええっ! 気づかなかった〜〜ちゃん、ちょっと読んでくるわね!」
「はい〜」

 蜜璃が離れてしまったことはちょっぴり寂しいが、でも蜜璃が幸せな気持ちが伝わってきてまで嬉しくなる。
 嬉しそうな後姿を見守りつつ、手紙を読んで幸せな気持ちになった蜜璃が、もっと幸せな気持ちになれるように美味しいものをたくさん作らないと!! と意気込む。そしてはご飯を作り始めたのだった。

(蜜璃さまはあんなに細いのに、お相撲さんよりもご飯を召し上がるからたーくさん作らなければ!)

 うおおおおお! と気合の雄たけびを叫びながら、質も量も追及したご飯を大量に生産するのだった。
 一緒にご飯を食べ、一緒にお風呂に入り、身体が温かいうちに、日課の柔軟をする。は決して柔らかい方ではなかったが、蜜璃の鬼の特訓もあり、だいぶ柔らかくなった。継続は力なりだ。

「あのねちゃん、この間のお手紙でね、ちゃんのことを紹介したの。そうしたら、ちゃんのことを見てみたいって書いてあったのよ。今度一緒にご挨拶に行きましょうね」
「わあ、蜜璃さまと伊黒さまの文通の中にわたしの名前が出たなんて光栄です! 蛇柱さんとお会いできるなんて楽しみです」
「ネチネチしててとっても素敵なのよ!」

 “伊黒さん”のことは蜜璃のお話で何度も出てきているので知っているのだが、実際に姿を見たことがない。だから伊黒といずれ会えるのはとても楽しみだった。蜜璃が履いている縦じまの靴下は、伊黒からもらったとのことだ。蜜璃のすらっとした足を、更にすらっと見せる素敵な靴下なものだから、伊黒は蜜璃のことをよーくわかっていると思う。

「蜜璃さまは人の良いところを見つけるのが本当にお上手ですね。素敵です! わたしも見習わないと……!」
「そ、そんなことないのよ? もうちゃんったら褒め上手ね!」
「本当のことですもん」

 柔軟を終えると蜜璃は、お返事を書くわ〜〜! と嬉しそうに自室に向かった。蜜璃は筆まめなのだ。いいなあ伊黒さま。蜜璃さまにお手紙もらえて。と、は再びため息をつく。同じ家に住んでるから、はお手紙をもらえない。

「そ、そうだ! わたしも蜜璃さまに手紙を書けばいいんだ!」

 欲しがってばかりではだめ! 欲しがる前に、自分からよ!!
 パァン! と、手を叩いて、早速も自室に入り、手紙をしたためた。何を書こうか、色々と考えながらも震える手で筆をとる。久々に文字を書くのでなんだか緊張する。

「……次回蜂蜜が収穫できましたあかつきには、ぱんけえきなるものを、また食べたいです。  拝」

 できたー!! と書き上げた手紙を天に掲げた。の周りには書き損じてぐしゃぐしゃになった手紙が散らばっている。あとで片付けよう。急激に襲ってきた睡魔は、集中力が切れた証拠だ。全集中の呼吸、全集中の呼吸、と何かの呪文のように唱えながら、なんとか布団にもぐりこんですぐに意識を手放した。
 翌朝、朝ご飯の準備を済ませ、朝ご飯を食べたのち、はもじもじしながら、あのう……と口火を切る。

「どうしたの? もしかして私、ご飯粒がついてる?」
「いいえ! 何もついてません! いつも通り、美しい顔があります!!」
「そ、そんな美しい顔だなんて! ちゃんってばもう、ほめ過ぎよお!!」
「ほめ過ぎなんてことはないです! だって本当のことだから! 蜜璃さまは桜の精です!!」

 拳を握って力説するが、はっと我に返る。違う、今は蜜璃がいかに美しいかを伝える時間ではなく、例のものを渡すのだった。
 
「すみません話がそれました。あのですね、わたしも蜜璃さまからお手紙欲しくて……それで、書いたんです。受け取ってくれますか? お時間ある時に、お返事いただけますか?」
「かっ、可愛いわあ……! どうしましょう、今とってもちゃんのことを抱きしめたいの!」
「すっっ、すでに抱きしめられてます!」

 抱きしめたいと言ってるそばから抱きしめてる蜜璃さま可愛すぎませんか。ほわ〜〜と頭の中にお花畑が浮かぶ。

「本当はね、今すぐにでも読みたいの。でも、お稽古が終わったらあとのお楽しみにとっておきたいから、お稽古が終わったら読ませてもらうわね」
「あまり期待なさらないでくださいね……」
「期待しちゃうわよ! だって、ちゃんがくれた初めてのお手紙よ!」

 どうして蜜璃は、こんなに素敵なキラキラした言葉をかけてくれるんだろう。ぱっとから離れた蜜璃は、きゅっとこぶしを握って力説してくれるのだった。

「ありがたく頂戴するわね。今日もお稽古頑張ろうね、ちゃん!」
「頑張ります、師範!!」

 そんなこんなで、恋柱と、その継子の一日は、また始まるのだった。 



恋柱とその継子



ちゃん〜〜〜〜!!」
「どうなさいました!? ご飯ならまだですごめんなさいってどうしたのですか蜜璃さま!! 目に涙を浮かべて……!」

 稽古も終わり、ご飯の準備をしていたらただならぬ声が聞こえてきたものだから振り向けば、蜜璃が目に大粒の涙を浮かべているではないか。誰が蜜璃が泣かせたのだ! 許さない!! と思ったのも束の間。

「お手紙読んだわよ。んも〜〜〜、可愛すぎて涙が出てきたの!」

 ちゃん〜〜〜〜〜! とわんわん泣きながら蜜璃に抱きしめられる。犯人は自分だったようだ。泣かせたのは自分だが、泣いている理由が理由なのでなんとも言えない。
 は蜜璃の背中に手を回して、抱き付く。

「蜜璃さま、大好きです」
「やだあ〜〜もっと涙出ちゃう! 明日の休暇はパンケーキを食べようねっ!!」
「はい〜。楽しみです!」

(2020.08.08)
ついに始めてしまいました。
冨岡さんお相手ですよ。勿論ですよ。でも、殆ど蜜璃さんとの日常になりそうですよ。
8割蜜璃さんとの日常、2割が恋愛くらいの気持ちでお考えいただければ。(笑)