![]() ![]() 「あら、誰かと思えば炭治郎くん。こんにちは」 さんの匂いがしたから辿っていけば、案の定、甘味処で桜餅を買っているさんがいた。 「お買い物ですか? 桜餅美味しいですよね!」 「そうなの。今日は休暇だから、3時のおやつに蜜璃さまと桜餅を食べようと思ってて……」 会話をしているうちに桜餅が渡される。二人で楽しむには随分と多いけど、甘露寺さんの食べる量を考えれば妥当なところだなと思った。さんは桜餅をまとめて風呂敷に包み、左手で持った。よくよく見ると、右手には既にぱんぱんに膨らんだ風呂敷がもう一つある。匂いからして、みたらし団子だろう。相変わらずすごく食べるみたいだ。 「重そうですね。俺、持ちますよ!」 「ええ〜〜そんな悪いよ」 「いえ! 持たせてください!」 「う〜ん。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。片方お願いしてもいい?」 「もちろんです!」 さんは桜餅の方の風呂敷を渡してくれた。結構重い。これを一人で持とうとしてたなんて、力持ちだなあさん。 「炭治郎くんはこのあと時間ある? お礼と言ってはなんだけど、もしよかったら一緒に食べない?」 「いいんですか!? ありがとうございます!」 「もちろんだよ〜。蜜璃さまとこの間、竈門兄妹は元気にしているかしら? ってお話していたの」 「わあ、それは嬉しいです!」 お二人の会話の中に俺が出てきたなんて、なんだかくすぐったいなあ。てくてく、てくてく、甘露寺邸への道を歩く。 「さんと甘露寺さんって、すごく似てますよね」 「ええっ!?」 途端に顔を真っ赤にしたさん。 「ほっ、ほんとに? わたしと蜜璃さまが、似ているの……?」 「はい。匂いもほとんど一緒だし、雰囲気がとても似てると思います」 俺は最初、さんと甘露寺さんは姉妹かと勘違いしていた。 「そんな! わたしなんて蜜璃さまの足元にも! いえ、つま先にも及ばないです!! でも日夜、蜜璃さまになりたいと頑張っているの。近づけてる気は全然しないのだけどね! わあ〜〜でも嬉しいなあ〜〜〜!!」 すごい! 物凄い嬉しそうだ!! 感情が物凄く分かりやすいぞ!! こういうところも甘露寺さんととても似てると思う。嬉しい気持ちと申し訳なさげな気持ちが、顔からも匂いから伝わってくる。さんだったら、俺の鼻が詰まってても、どんなことを考えているか分かると思う。 「さんは本当に甘露寺さんのことが好きなんですね」 「大好きです!! 大好きだし、尊敬もしてるし、蜜璃さまを傷つけるやつらは許さないの!」 甘露寺さんのことを語るさんからは、甘い匂いが漂ってくる。この匂いは恋をしている人の匂いととても似ている。善逸が女の子を見かけるとよくこの匂いになるんだ。 ああ、善逸と言えば、善逸が前に、さんと甘露寺さんが笑い合う姿を見て、『あの二人は絵画の世界の住人っ!? 女神なのっ!? 浮世離れしているんだが!!』と早口に捲し立ててたのを思い出した。そんなことをさんに言えば、面白そう声を出して笑った。 「確かに蜜璃さまは絵画の世界の住人だよ。本当に女神だし、美の化身。でもわたしは全っっくそんなことないよ! 面白いね善逸くんって」 謙遜とかじゃなくて、心の底から面白いみたいだった。全然飾らない人なんだなあ。 「いやいや、さんも綺麗ですよ」 「うっ……」 「ど、どうしました?」 突然呻くように言うものだから俺は思わずさんの顔を見る。わ、顔が真っ赤だ! すっごく照れている! 照れが伝染して、なんだか俺も照れてきた。 「わ、わたし、あの、こういうときなんて返せばいいのかわからなくて……あの、もちろんお世辞ってわかっているのだけどね、炭治郎くんみたいな子にまっすぐ言われちゃうと、本当に言ってくれてるんじゃないかって思いあがってしまって……ご、ごめんね変なこと言って!」 ど、どうしよう。俺、なんか、なんだこれ。胸がギュって痛い。変な気持ちだ。とにかく今は、ただひたすら、さんは綺麗なんだって伝えたくて仕方なかった。 「お、俺、嘘つけません! だから本気で言ってます!! さんは綺麗です!」 「わーわー!! いいから! からかわないで!」 「何回でも言います!! さんは!! 綺麗です!!!!」 さんが走り出すから、俺も走り出す。そうこうしているうちに、甘露寺邸に辿り着いた。 「おかえりなさい……あら、ちゃんすごく髪が乱れてるね? それに炭治郎くん! おいでませ! ちゃんが男の子を連れてくるなんて、なんだかキュンとしちゃうわあ」 「蜜璃さまぁ!! 変な言い方はおよしになってください!」 「きゃ〜っ! お紅茶煎れてくるね!!」 蜜璃さまぁ〜〜〜と、あとを追いかけるさんは、いつものさんの匂いだった。なんだかそれが残念だと思う自分に、少々驚いた。もっと、照れて取り乱したさんのことを、俺だけに見せてほしいって思うんだ。 |