ババ抜きしませんか? 突然来訪してきた怪盗キッドこと黒羽快斗が、そんなことをいった。わたしは「あ、うん」と返事をし、部屋に招き入れる。お茶をだし、向かい合って座る。快斗はあぐらをかいてトランプをシャッフルしている。 「なんでまた」 「いけないか?」 「いけなくないけど……突然、ババ抜きって」 「よし、ほれっ」 手際よくわたしと快斗と交互にカードを分けていく。さすが怪盗だけあって、トランプ扱いは長けてるように見える。(ん、怪盗関係ないかな)きっちり分け終えた後、快斗はカードの束をとり、同じ数字二枚組みをどんどんと抜いていった。わたしも少し遅れてその作業をし、最終的に四枚残った。げっ、ババがある。快斗の手札を見ると、五枚残っている。 「からこいよ」 「いいの?」 「おう。ほれ、早く」 ずい、と手札を出されてわたしは手を少しさまよわせた後、左端のカードを選んだ。ハートの5。あ、5あった! ぺい、と勢い良くカードの山に捨てる。残るカードは三枚。手札を構えて、じっと手札を見つめる。快斗、お願いだからジョーカーもってって……! 「おし、これ」 わたしの願いむなしく、快斗は迷いなく左から二番目をとった。ちっ! その横、とってよ! 快斗もそろったらしく、二組を軽快に捨てる。残り、四枚。再び快斗の手札の左端のカードを取る。んー揃わない……。残り三枚。さあ、次こそジョーカーを! 「いただきまーす」 鼻歌混じりにやはりジョーカーの隣を抜き取った。すると快斗はまた揃ったらしく、とうとう快斗の手札は残り一枚。対するわたしは残り二枚。ここでジョーカーをとってくれればわからないけど……どうだろう。とれ! とってくれ!!! どうせ快斗のことだ、勝ったら何か無理難題を突きつけるのだろう。そんなの真っ平ゴメンだ。 快斗の手がふわふわとジョーカーを取ろうとした。よし! それだよ!! それとって!! と思いきや今度はふわふわとスペードの3へと移動しとろうとした。こ、これまでか……。 と思いきやまたまたジョーカーへ!! それよ!! それをとれば勝負は楽しくなるよ!! と思いきやまたまたまたまたスペードの3へ……それをとったら勝負は面白くなくなるんだよ…? 快斗、空気読んでよお願い…… 「これにしよーっと」 楽しそうに快斗はトランプを抜き取っていった。途端わたしの手から力が抜けていく。ゆらりふわり舞い、やがて地上へと降り立ったカードはジョーカー。つまり、わたしの負け。つまりわたしは敗者。快斗は勝者。 「な……なぜだ………」 わたしはカードの山へと倒れこんだ。 「なんだその芝居がかった台詞」 頭上から快斗の笑い声が聞こえる。気分悪い。唇を尖らして目を開くと、ジョーカーが憎たらしい顔で笑っていた。ち、ちくしょう! 破きたい!! 「さ、ほら、顔を上げろよ」 しぶしぶ顔を上げる。うわあ、ジョーカーと同じくらい憎たらしい顔で笑ってるよ。 「負けたんだから、当然勝ったものの言うこと聞くよな?」 「……そんなこといつ決めたっけ?」 「世の摂理がそうなんだよ」 「世の摂理と来たか……まあ大方そんなことだろうと思ってたよ。で、なあに?」 「明日、デートな」 「……へ? それだけ?」 「おう。なんだ、もっとすごいことがいいのか?」 「めっめめめ滅相もない! デートさせてください!」 「それでよし、じゃあ明日迎えに来るからな」 快斗のことだ、もっといやらしいことを要求してくると思っていたけど、健全で拍子抜けだ。 「ひとつ、忠告しておこう」 「ん?」 「お前、すぐに顔に出るから。改善したほうがいいぜ」 「何が、出るの?」 「俺がジョーカーをひこうとすると、思い切り嬉しそうな顔してるってこと」 !!!! だ、だからババ抜き負けばっかだったのか!!! そりゃ、今回の勝負も負けるに決まってる! 「それともう一つ」 「は、はい」 「明日は泊まりだからそのつもりで」 ……訂正、なんだか健全じゃなくなりそうです。 |