市街地を駆けずり回って探すが、なかなかは見つからなかった。のよくいく店を一店一店見て回ったのだが、そのどこにもいなかった。時間が経過するにつれて焦りと不安が増えていく。たとえメイドでも、万が一のことがあったら最悪だ。 (、どこにいるんだ……?) 最後の最後、馬車乗り場の列に沿って歩き、確認していると、見慣れた後姿が目に飛び込んできた。髪を結わう赤いリボン、このサイズ感、間違いなく彼女だ。思わず名前を呼ぶ。それを受けてびくっと小さく肩を揺らしたところでの髪をくいっと引っ張ると、ひぇ! と、少々間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。 「ディオさま!?」 はディオの顔を見て目を丸くした。 「お前……心配したぞ!」 「ご、ごめんなさい。今から帰ろうと思ってまして……。」 「………ったく、生きた心地がしなかった。、買い物もいいがな、暗くなる前には帰れよ。心配するだろ?」 「はい、すみません……。」 ディオの説教を受けつつ、列の動きに合わせて前進する。ディオはもってきていた傘を開いてを中にいれる。が、ありがとうございます! と礼を述べる。 「切り裂きジャックのことは知らないわけじゃあないだろ? 夜は危ないんだからな。」 「はい、知っております……。」 「―――まあ、無事だったから、よかった。本当に、本当に、心配した。」 「ありがとうございます、ディオさま。」 「ジョジョも今頃血眼になって探してるぜ。」 「ええ! ジョナサンさまも!? ……そんなにおおごとに?」 「父さんには知らせてない、だが執事が心配していた。」 「うう……帰ったら謝りに行きます。」 やっとたちの番になり、二人は馬車に乗った。行先を告げて再び会話を再開する。 「あ、あの! ラグビーの試合……見てました、優勝おめでとうございます!」 「ありがとう、だが、見に来てたならなんで声をかけてくれなかったんだ?」 「ええ! そんな、だって、なんか悪いじゃないですか。」 「悪くなんてない。寧ろ最前列で見てほしかったさ。変に気を使うなよ、きみの悪い癖だ。」 「そうでしょうか……? だって、大学生がいっぱいいるなか、家のメイドが来てたらなんかへんかなあって。」 「別に気にしない。あーあ、声をかけてほしかった。」 「す、すみません……!」 「ふっ、いいよもう。」 焦るの様子に、ニヤリ、口角を上げた。 The moon longed for the sun過去を思うジョースター邸に帰ってきて、ディオとともに執事長の部屋に行き、謝りを入れた。怒られるかと思ったが、無事に帰ってきたことが嬉しかったらしく、一言、気を付けるんだよ、とだけ言ってくれた。 それからエントランスでディオと話しながらジョナサンが帰ってくるのを待った。最初は一人で待っているといったのだが、ディオが一人じゃつまらないだろう、といって、付き合ってくれた。今日の試合のこと、の買い物のこと、いろいろなことを話した。 結構な時間が経ったのち、エントランスの扉が空き、それに伴って風と共に雪が入り込んでくる。凍てつく空気とともに、ジョナサンが帰ってきた。 「ジョナサンさま!」 反射的に立ち上がり、扉に駆け寄る。真っ白な雪が頭にも肩にも積もっていて、はいたたまれない気持ちになる。これはすべて、自分のせいだ。 「! 無事だったんだね!! よかった!」 ジョナサンはを抱きしめようとして、すぐにやめた。 「だめだ、ぼくは今雪まみれでに冷たい思いをさせてしまう。」 ぱっと両手を上げて、苦笑いしたジョナサンにの胸がぎゅっと縮こまる。愛しい、そんな感情がの胸を締め付けるのだ。更に自分のせいで彼に、こんな寒い思いをさせてしまったと思うと、罪の意識もを苦しめた。 「本当に、心配かけてすみませんでした。これから気を付けます。」 深々と頭を下げると、頭上から「やめて、顔を上げてよ。」とジョナサンの声が降り注ぐ。 「いつまで経っても心配させやがって。」 背後より、ディオの声。顔を上げて振り返り、しょんぼりと「すみません。」と答えた。このディオの、ニヤリとした笑みが、は好きだった。その笑顔に色気すら感じるのだ。 「ああ! 聞いてくれ、ぼくたち、ラグビーの試合で優勝したんだ!」 向き直ると、ジョナサンは、少年のようなきらきらとした満面の笑みで言った 「悪いなジョジョ、試合の結果は先にいってしまったぜ。」 「なんだ。すべてディオに先を越されてしまったな。」 照れくさそうに言ったジョナサン。 「本当におめでとうございます。試合、ずっと見ていました。本当に素敵でした。」 「執事長から聞いたよ。声をかけてくれればよかったのに、水臭いな。」 「ジョジョ、それもおれが先に言ったよ。」 ディオの言った言葉をなぞるようにジョナサンもいうものだから、思わずも笑ってしまった。 「そうだ、あの、優勝と、卒業の記念に、たいしたものではないのですが……。」 は肩掛け鞄から袋を取り出してジョナサンに、そしてディオに手渡した。袋を開けている間もは「本当に大したものではないんです!」などの言葉を終始言っていた。それを聞き流しながら中身を取り出すと、時計だった。それを受けてディオは一瞬眉をしかめてを見るが、照れくさそうにもじもじしながら、「お気に召さなかったら捨ててくれても構わないので、はい。」といっていて、他意があるようには見えなった。 そう、だ。知るわけがないのだ。昔、まだジョナサンに対して敵意をむき出しにし、孤独にさせようと画策していた時、ジョナサンの時計を無断で借りて、そのままどこかへやってしまったことなんて、は知るわけがない。たとえジョナサンがに言ったとして、その事実を知っていたとしても、はこんな嫌味な真似を数年の時を経てやったりしない。 「ありがとう! 大切にするよ。」 同じく時計をもらったジョナサンは、ニコニコと嬉しそうに時計を腕につけて、満足そうであった。ジョナサンのほうは時計に引っかかるものはないように見えた。 何を暗示しているわけでもない、気にすることでもない、か。とディオは一人納得し、きれいに口角をあげて。 「嬉しいよ。」 といった。もまた、喜んでもらえて嬉しそうであった。 「でも、もう心配をかけるようなことするんじゃあないぜ。」 「……はい。」 次の瞬間には眉を下げて、苦笑いになった。 |