仕事をしててもジョナサンさまのことを考えてしまいます。いってしまえばディオさまの言っていたことなんてわたしにとってはジョナサンさまの次なのです。どうでもいいわけではないのですが、二番目なんです。ですので先ほど言われた言葉の咀嚼なんて、あっという間に奥へ追いやってしまいました。 わたしはジョナサンさまに気持ちを伝えたほうがいいのでしょうか。そのほうがすっきりするのでしょうか。ちゃんとフラれたほうが、次へ進めるのかもしれません。 しかし、気持ちを伝えることは自己満足な気もします。すっきりするのはわたしだけで、どう考えてもジョナサンさまを困らせてしまいますし、今後気まずい思いをさせてしまうでしょうし、ジョナサンさまを裏切ることになってしまいます。そんな感情を抱きながらジョナサンさまに仕えていたと知れば、気味悪く思うでしょうか。 ……ですので、やっぱり気持ちを伝えるのは得策ではないのです。 ではわたしはどうすればいいのでしょうか。これから、この気持ちは消えるまで、ずっと、ずっと、苦しみながら生きていくしかないのでしょうか。幸せそうなジョナサンさまのそばで、ずっと。 The moon longed for the sunしあわせの裏のぼくの悪いところは、すぐにカッとなってしまうところだ。感情のままに行動してしまうことは、実に良くないことだ。その至りで、不本意ではあるが、にキスをしてしまった。断わっておくが、そんなつもりは全くなかった。ぼくがにキス? ありえない。意味のないことだ。白状すれば、馬鹿みたいにジョナサンばかり見ているあいつに腹が立ったのだ。あんなにきっぱり、否定されると腹が立つってものだろう。それでカッとなって、気が付いたら。 『ひどいです……っ』 あの時ののひどく傷ついた顔が頭から離れない。そんな顔にさせたかったわけじゃあない。……ぼくは何をしたかったんだろう。正直言えば何がしたかったわけでもない。けれど、あいつのことを傷つけるつもりだけはなかった。本当だ。 ―――だから、ぼくは昨日のそれをキスと認めないことにした。唇と唇が触れただけ、だ。彼女は純潔なままだ。ぼくとしても不本意だ、とキスをしたなんて。 それにしても、紳士の仮面をかぶっていたのに、昨日のその一件ではずれてしまった。はどう思っただろうか。あいつを手に入れることは難しくなったな。良い機会だったのだがな、ジョナサンに好きな女ができ、傷ついたところを優しくし続ければいずれはぼくのことを求めていただろう。 ……まあいい、所詮暇つぶしがなくなってしまっただけのこと。新たに暇つぶしを探せばいい。別にでなくてはいけないわけじゃあないんだ。ぼくによってくる女なんていくらでもいるのだからな。自分の顔が、整っている部類であることはなんとなく理解している。 「ディオくん、おはよう」 「やあおはよう」 ぼくと挨拶を交わしたくらいで、きゃあきゃあはしゃぐ女ども。……煩わしい。こいつらでは暇つぶしにもならないな。簡単に落ちてつまらないだろう。 放課後になり、帰路についていると先に教室を出ていたジョナサンが川辺で女と、そしてダニーと遊んでいるのを見かけた。その様子を大木のそばから見守る。あれがジョナサンが好きになった女か。 「あれは、ジョジョじゃないか。ジョジョが女といるなんて」 取り巻きの一人が言う。 「……ほう」 大木に目をやると、JOJO ERINA という文字が彫られていた。この文字をハートで囲ってあった。あの女は、エリナ、というのか。 「女がこっちにきたぜ」 ジョジョとエリナはどうやらそれぞれの帰路についたらしい。ジョジョは自分の家のほうへ歩いている。 「やあ、君、エリナって名なのかいい?」 エリナの前に立ちはだかる。金髪の、美人の部類であるだろうエリナ。こいつも金持ちの甘ちゃんだろう。裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育ったようなにおいがする。そして、より美人だ。残念だったな、。 「ジョジョとずいぶん仲がよさそうだね」 ぼくたちの様子に、本能的に危機感を抱いたのか、エリナはくるりと踵を返し、この場から逃げ出そうとした。が、それをぼくは許さず、エリナの手首を掴み、無理やりこちらを向かせると、ぼくはエリナに無理やりキスをした。 瞬間、脳裏に昨夜にキスをした光景がよぎった。やめろ、出てくるんじゃあない、。 「き、決まった!!」 歓声が聞こえる。エリナは一瞬呆けたが、すぐに猛抵抗をする。 「さすがディオ! 俺たちにできないことをやってのける! そこにしびれる憧れるゥゥ!!」 ぱっとエリナの拘束を解くと、彼女は勢い余り、地面に倒れこみ、泥水に思い切り倒れこんだ。 「君、ジョジョともうキスはしたのかい? まだだよなあ。初めての相手はジョジョではない。このディオだ!」 手段は問題ではない。キスをしたという結果があればいい。これでジョジョとの仲も終わりだろう。この女が親からレディの教育を受けていたならなおさらだ。ジョジョには更なる孤独が待ち受けているだろう。 「こっ、この女!! 泥で洗ってやがる。近くに川もあるってのに……」 エリナは涙を流しながら泥水で口をゆすいでいた。 「!! この女、わざとドロで洗って自分の意思を示すか!!」 ぼくとのキスよりも、泥水のほうがきれいだ、と!! かっとなり、ぼくはエリナに平手打ちをした。そこではっとした。このぼくが、女ごときに……。 「ッもういい!!」 ぼくは苛立ち、その場から立ち去った。 |