そして登場したのは、殺生丸だった。殺生丸の登場に刀々斎が犬夜叉の陰にこそっと隠れる。 「なんでてめえがここに……」 「それはこちらのセリフだ。私はこの剣を追ってきただけ。どうやら貴様に殺された鬼は、剣になってもなお貴様に復讐したかったようだな」 ちらと闘鬼神に目をやり殺生丸が言った。 「灰刃坊に剣を打たせたのは私だ」 「殺生丸! 触れてならん! いくら貴様でも闘鬼神の邪気にあてられたら、取りつかれて―――」 「貴様、私を誰だと思っている」 刀々斎の制止を聞かず、殺生丸は闘鬼神を握り、そして一振りした。禍々しい邪気が徐々に消えていくのがの目にも見えた。 「剣も使い手を選ぶということだ。抜け犬夜叉、貴様に確かめたいことがある」 いつも殺しにかかってくる殺生丸が、確かめたいことがあるとは一体どういうことなのだろうか。かごめが不安そうに見守る中、殺生丸はお構いなしに斬りこんでくる。犬夜叉は鉄砕牙を抜くも、やはり打ち直した鉄砕牙は重くて斬撃を受けるので精いっぱいであった。闘鬼神の剣圧が犬夜叉に襲い掛かる。どう考えても犬夜叉に勝ち目はないが、殺生丸は一度様子を伺うように太刀を止めた。 「闘い方を変えたのか犬夜叉。いつもはやたらと振り回してくるお前が」 「やかましい!!」 売り言葉に買い言葉。鉄砕牙を背負いこむように持ち上げて、殺生丸に斬りかかる。闘鬼神と鉄砕牙が交わり、鉄砕牙の重さに圧が両者にかかるも、殺生丸よりも犬夜叉のほうが明らかに圧を喰らっている。 「ほお、鉄砕牙が少し重くなったのか」 涼しい顔で殺生丸が言う。 「手に余る刀など、持たぬ方がマシだ」 闘鬼神を振り払い、犬夜叉の手から鉄砕牙が飛んでいき、その勢いで犬夜叉も吹き飛んでいった。 犬夜叉は例によって鉄砕牙に頼らず己のみで立ち向かおうとするも、殺生丸が闘鬼神を振り犬夜叉に向けるだけで、剣圧で犬夜叉は吹き飛ばされる。 「半妖はしょせん半妖か……もういい、死ね犬夜叉」 殺生丸が止めを刺しに走るが、突如沸き起こるただならぬ気配を感じて殺生丸が立ち止まる。この気配は、妖怪に変化するときのそれだった。 「犬夜叉連れてずらかれ」 刀々斎が言うと、口から炎を吐いて殺生丸の足止めをした。弥勒とで犬夜叉を両脇から抱えて、一生懸命走った。暫く山を駆け上がり、人間が立ち入れるぎりぎりのところまで上り詰めた。とはいっても殺生丸もわざわざ追いかけてきて犬夜叉に止めを刺すほど憎くはないだろう。一同は川沿いの休憩のできそうなスペースで休みを取った。そこで珊瑚の折れてしまった飛来骨を刀々斎に打ち直してもらうことにした。 「あーうるせえ! 何度も何度も同じ小言を言いやがって!」 「約束するまで黙りませんぞ! もう二度と鉄砕牙を放り出してはなりません!!」 「けっ」 犬夜叉の悪態に、弥勒は眉根を寄せて「けっ。じゃないでしょう」と腕を組む。 「ちょっとは重いかもしれないけど……」 「ちょっとだとお!?」 かごめの言葉に犬夜叉が吠える。 「てめーら簡単に言うけどな―――」 鉄砕牙を抜きながら犬夜叉が言うも、その重さに犬夜叉はバランスを崩してそのまま川に落ちてしまった。 「なんだか、犬夜叉には本当のことを言ったほうが良いのかもしれないね……」 「私もの意見に賛成です。知らないから簡単に手放してしまう」 と弥勒はちらと落ちた犬夜叉を一瞥するも、何事もなかったかのように話し出す。 「伝えてはならん!!」 先ほどまで犬夜叉の肩で小言を言っていた冥加が今度は弥勒の肩で跳ねながら主張する。 「犬夜叉様のことじゃ、秘密を知ったら刀なんぞに頼るより、変化した己の爪と牙で戦おうとするにきまっとる」 「ああ、確かに想像つくな」 は頭を抱える。 犬夜叉は川から上がり、衣の水を絞る。 「しっかしおめえも忙しい男だな。人になったりバケモンにもなるっていうじゃねえか」 「バケモンって言うな! 俺だって訳わかんねえんだからよ」 刀々斎の言葉に犬夜叉は水を絞り続けながら答える。刀々斎は本当のことを言うのだろうか? 一同はその先の言葉を待つ。 「わかんねえのか、バカだなお前。冥加に聞いたぜ、おめえ死にそうになると化けるんだってよ。ま、おともと半分は妖怪の血が流れてるからな。もっとも俺にいわせりゃ、そんなのは本当の強さじゃねえ」 刀々斎からの評価に、犬夜叉が耳を傾ける。 「その鉄砕牙の重さは、言った通りお前の牙の重さだ。折れる前の鉄砕牙はお前の親父殿の牙。要するにお前は親父殿に頼って守られてたんだ」 まるで肉親からの言葉のような重みが刀々斎の言葉にはあった。小さいころから知っている刀々斎だからこそ言える言葉であり、刀を打った人間だからこそ、伝えることのできる言葉だろう。 「だが今度の鉄砕牙はそうはいかねえ。お前は自分の牙を使いこなして自分を守るんだ。その鉄砕牙を自由に触れるようになったとき、本当にお前は強くれるってことだ」 気が付けばは拍手をしていた。 「刀々斎様の仰る通り!」 弥勒も拍手をしながら何度も頷く。 「頑張って犬夜叉! 犬夜叉は強いんだもの。やる気になればなんでもやれるよね!」 かごめもぐっと拳を握って応援する。かごめは犬夜叉をおだてるのがどんどん上手になっている。 「犬夜叉だったら絶対できるよ! だって、すごいんだもん!」 もなんとか続いて、犬夜叉は最終的に「ま、まーな」と、丸め込まれたのだった。 本当の強さ 「ん? 後ろから四魂のかけらの気配が」 とかごめが言い終えた時には、物凄い勢いで鋼牙が登場したのだった。相変わらずの俊足だ。 「鋼牙くん」 「よおかごめ! 元気か?」 すちゃっと鋼牙が手を挙げる。 「それに妖怪女! いや、。まだ俺のことは忘れられないのか? そんな目をしてるぜ」 申し訳なさそうな顔をして鋼牙がに言う。は目を丸くして、は!? と声を荒げる。 「いやほんとやめてくれるかな。それはネタなの? マジなの? マジだとしたらわたし泣いちゃうよ」 「マジってなんだ?」 「何の用でい痩せ狼」 ずい、ととかごめの前に犬夜叉が立ちはだかる様に出た。 「相変わらずピリピリカリカリしてやがって。かごめ、こんな野郎と一緒にいて疲れねーか? もこんなやつと一緒にいたら、俺が忘れられないわけだ」 「なっ!」 「こりゃ! 鋼牙、無礼なことをぬかすな!!」 犬夜叉が鉄砕牙を抜く前に、まさかの犬夜叉の肩に乗っていた七宝が応戦した。 「犬夜叉はお前にとかごめを奪われると思って焦っとるだけじゃ! いっつもこんなだと思ったら大間違いじゃぞ!」 七宝は結局犬夜叉に殴られた。すると、遠くの方から「置いてくなよ鋼牙〜〜!」と、鋼牙の仲間の妖狼族たちの声が聞こえてきた。 どうやら鋼牙がやってきたのは、奈落の居場所を教えてほしいからだったらしい。知らないと伝えれば、鋼牙はバカにしたように知らねえのかよ、と鼻で笑う。犬夜叉は米神に青筋を立てる。 「仲間の仇討は俺たちに任せて、その四魂のかけらをよこして大人しく巣に戻って震えてやがれ!」 犬夜叉は鉄砕牙を抜いて鋼牙に両足を斬ろうとしたのだが、重い鉄砕牙を自由に操れるようになったわけではないので当然鋼牙を捉えることはできなかった。刀を抜いた時には鋼牙は飛びのいていて、「あぶねー」と余裕そうに言った。 「随分重そうじゃねえか犬っころ」 「逃げンじゃねえ!!」 「へっ。生憎俺は犬っころと小競り合いやってる暇はねえんだ! 俺が奈落を倒すまでかごめを預けといてやる! 手ェ出したら承知しねえぞ!」 走り去りながら言うものだから、鋼牙の言葉が言い終わるころには姿が見えなくなっていた。それを妖狼族たちがまた追いかける。 「ほんとにおもしろいよね鋼牙くんって」 はもう見えなくなった鋼牙が消えていった方向を見据えてポツリと言った。 「なんかあそこまで自信満々だとさ、本当にが鋼牙のことを好きみたいだよね」 「やだやめてよ珊瑚。怖いよ」 一度鋼牙の頭の中を覗いてみたいと思ったのだった。 |