手負いの犬夜叉と珊瑚の療養のため、近くの小屋を借りて暫し休息をとることにした。なぜ桔梗が奈落にかけらを渡したのか、その謎は解けない。いずれにしても奈落の妖力が以前よりも増したということは、無視できないだろう。 兎にも角にも、暫くは身体を休めて回復させることが一番である、ということで、とかごめと弥勒は近くに薬草を取りに来ていた。ある程度集めて、さあ帰ろうかと言う話をしていた時に、血相を変えた七宝がやってきた。 「大変じゃ! 桔梗の死魂虫が漂ってきて、犬夜叉がいってしもうた!」 七宝の道案内で、犬夜叉のあとを辿れば、鉄砕牙を支えに歩いてくる犬夜叉と出会った。まだ歩けるような体ではないはずだ。 「お前ら……」 犬夜叉はぐらっとその場に倒れこんだ。堪らずかごめが駆け付けて、桔梗に会ったのかと問うた。犬夜叉は気まずそうに眼を逸らす。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。 「……ちょっと行ってくる!!」 はそう言い残すと、犬夜叉がやってきた方向を辿るように走っていく。様々な自分を呼ぶ声を背中で受けながら、の頭は桔梗でいっぱいだった。桔梗に会いたい、ただその気持ちだけで走っていた。すると、前方で死魂虫がふわふわ漂っているのが見えて、すぐに女性の後姿が見えた。 「桔梗!!」 「……」 くるりと振り返った桔梗。 「こんにちは」 息を整えながらも言う。なぜこんなにも桔梗の近くにいたいのだろうか。そして、黎明牙を見つけた時と同じように、強烈な懐かしさも感じる。 「改めまして、と言います。の、生まれ変わりです」 「知っている」 ふっ、と桔梗が微笑む。それだけでの胸が温かくなる。 「……なぜ、奈落にかけらを渡したんですか」 「奈落を葬るためだ」 「桔梗が何を考えているのか、わたしにはわかりません。でも、信じていいんですよね」 「……」 初めて、名前を呼ばれた。 「今度は死なせない」 “今度は”。それは、が自害したことを指しているのだろうか。 「今度は私がお前を守る」 切なくて、苦しくて、なんだか無性に泣きたくなるような衝動。守りたいのは、自分だってそうだ。そんな女神みたいな顔で微笑まれたら、胸が張り裂けそうだ。 「桔梗、わたしだってあなたを守りたい。にも、桔梗を守ってほしいと言われました」 「が……そうか、らしいな。どうやって会ったんだ?」 「わたしの中にいて、夢の中で、会うことが出来ます」 「そうか……」 目を細めた桔梗。 「そろそろ戻れ。ここらへんに神楽がうろついていたから気を付けろ」 「神楽が……わかりました。桔梗、ひとりでなんでも抱えないでくださいね」 桔梗は微笑むだけで、何も言わなかった。 VS悟心鬼 小屋の前には心配そうに立っている弥勒がいた。を見つけるなり、駆け寄ってきての身を案じた。 「……、お前はすぐにどこかへ行ってしまうのだから。何もないか?」 「ごめんね」 「小春の件もありますので、これであいこですね」 「それとこれとは別なような気もするけど……それより、神楽が近くにいるって」 「ええ。ここも長くは居られません」 犬夜叉から聞いたのだろうか。すると犬夜叉も小屋の外に出てきた。 「、桔梗に……会えたか?」 「会えたよ。桔梗が何を考えているかはわからないけど、でも、信じたいって思ってる」 「そうだな。……ん、死人の匂いがする」 犬夜叉の言葉のすぐあとに、傷だらけの男が小屋にやってきて、背中に蜘蛛の模様が刻まれた鬼が来たと告げ、こと切れた。神楽に操られた死人だろう。神楽が死人を寄こしたということは、つまり居場所が分かっているということ。犬夜叉も珊瑚もまだ傷が治っていないが、一同は鬼のもとへと向かった。 村へたどり着くと、多くの村人が死に絶えていた。鬼が子供を襲おうとしていたところを犬夜叉が鉄砕牙で斬りこみ、鬼はさっと身を引いてそれを避けた。奈落の三匹目の妖怪は、神楽や神無と違って見たまま鬼であった。 「鉄砕牙をかわした……図体のわりにすばしっこい化け物と思ったな。そうさ、俺は心が読める。神無と神楽はこのおれ、悟心鬼が生まれるまでの前座みたいなもんだったのよ」 犬夜叉が攻撃を仕掛けるが、ことごとく避けられる。弥勒が風穴を開こうとすると最猛勝がやってきて、かごめが弓を、が刀を構えようとすれば牽制してくる。本当に心が読めるようだった。 「犬夜叉、貴様半妖だろう。半分は妖怪の血が流れていながら、人を喰う楽しさを知らないのか」 「やかましい! たたっ斬ってやる」 犬夜叉が風の傷を斬ろうとすると、逆に悟心鬼は風の傷を突き抜けてきて、鉄砕牙を自身の牙で受け止めて、そのまま噛み砕いた。犬夜叉は呆然と鉄砕牙を眺め、その隙を悟心鬼は逃さなかった。犬夜叉は弧を描いて吹っ飛んでいった。 「次は貴様だ」 「!」 悟心鬼が迫ってきて、は黎明牙を握って固まってしまう。逃げなくてはいけないのに、恐怖で身体が固まってしまう。弥勒がを突き飛ばし、の代わりに悟心鬼の攻撃を受けた。 「弥勒……! 弥勒、ごめん、ごめんなさい……!」 「無事か……」 自分よりもの身を案じる弥勒。弥勒はいつだってそうだ。胸が締め付けられる。 「……貴様は妖怪の力を持ち、刀こそ持っているが、腕はからっきしだな。自分が戦わないとと思っているが、おれに勝つためにどうすればいいか分からないんだろう。安心しろ、すぐにおれが喰ってやる」 「わたしは……負けない……!」 死を意識し、体が熱くなるのを感じる。 「変化したところで無駄だ。太刀筋などすべて見通せるのだからな。おっと法師、自分の身を投げうってでもおれを風穴で吸い込もうとしたな。どうせ一人ずつみんな喰うんだから死に急ぐな」 黎明牙の結界で守れるのなんてせいぜい自分と近くにいる弥勒くらい。悟心鬼のいうとおり、戦いの経験なんて殆どない自分では、犬夜叉が倒せなかった妖怪を倒すのは不可能だろう。怖い、どうしよう、逃げたい、様々な負の感情に負けそうになったその時だった、急激に巨大な妖気を感じる。次の瞬間には悟心鬼の腕が切り裂かれた。切り裂いたのは、犬夜叉だった。だが、様子がおかしい。 「どうした悟心鬼。おれの動きはお見通しじゃなかったのか」 犬夜叉の顔が、殺生丸のように本物の妖怪のような姿であった。 「念仏でも唱えてな。無事に地獄に送ってやる」 「この半妖が!」 「おれに流れている妖怪の血は、てめえなんぞと格が違うんだ!」 犬夜叉の爪で、悟心鬼はずたずたに切り裂かれた。かごめが犬夜叉のもとに駆け付けようとするが、犬夜叉に制される。 「今のおれは何をするか分からねえ!」 「もう……敵は、いないわ」 かごめが諭すように言う。 「犬夜叉、みんな生きてるよ、大丈夫だよ」 も犬夜叉に語り掛ける。その後、かごめがおすわりを唱えて思い切り頭を地面に打ち付けると、すっかり元の犬夜叉に戻った。すると、刀々斎の乗っていた牛が空から舞い降りてきて、冥加が犬夜叉に飛びついた。そういえば冥加がいなかったが、刀々斎のところに逃げていたらしい。 「犬夜叉様、鉄砕牙に何かありましたか?」 「それで戻ってきたのか?」 「ぼーっとしとらんと、鉄砕牙の刃を一つ残らず集めなされ!」 どうやら鉄砕牙を直せるらしい。 |