「やっぱりかごめがいると捗るねー!」

 かごめが戻ってきて、旅は再開した。かごめが感じ取った微かな四魂のかけらの気配を頼りに突き進む中、立ち寄った村で、化け熊の噂を耳にする。もしかしたら四魂のかけらが関係しているかもしれない、と言うことで、かけらの気配を頼りに歩きつつ、その化け熊を探していた。
 しばらく歩き続けると、狙い通り大きな化け熊が現れた。額にはかけらが埋め込まれている。犬夜叉が斬りかかれば、実力の差を感じたのか、化け熊は踵を返して逃げ帰る。追いかけると無数の最猛勝が飛んできて、化け熊に群がったかと思ったら、額からかけらを取り除いてそのまま遠くへと消え去った。

「追いかけるぞ!」

 奈落がいるかもしれない―――




風使い神楽




 追いかけていけば、奈落の城が見えてきた。これは罠かもしれない、そんな考えもあるが、しかし、四魂のかけらもない、そして手がかりもない。こんな状況である以上、少しでも可能性があるならばそれに賭けたい。一同は城の中へと誘われていった。
 城の中庭には、無数の狼の死骸と、少し前に見た妖怪、妖狼族の死体が横たわっていた。何があったのだろうか、呆気に取られていると、死体がむくむくと起き上がり、こちらに襲い掛かってくる。

「ゾンビ!!」
「生きてるぅ〜〜!!」

 と七宝の悲鳴が重なる。

「違う、こいつらは死体だ!!」

 犬夜叉が鉄砕牙で切り払う。妖狼族や、狼の死体が四方から襲い掛かってくる。敵自体は全く強くないが、数が多く、いくら切っても何度でも復活する。さてどうするか、何が目的なのだ、と犬夜叉が考えを巡らせているときに、鋼牙がやってきた。の隣で弥勒が、そう言うことか……。とポツリ呟く。

「てめえ……なんてことを……」

 鋼牙が呆然と呟く。

「一応言っておくけどな、おれが来た時にはお前の仲間は皆殺されて――」
「ふざけんな!! なんだその返り血は!!」

 確かに犬夜叉の服には返り血がべっとりついている。そこでは漸く状況を理解する。何者かが殺した狼や妖狼族を、これまた何者かが操り、犬夜叉に襲い掛かり、それを倒すことにより血を浴び、あたかも犬夜叉が殺したかのような状況を作り上げる。それを見た鋼牙は当然、犬夜叉が同胞を殺したと思うだろう。
 鋼牙は拳を振り上げて、犬夜叉に襲いかかる。犬夜叉も応戦しようとするが、寸のところで仰け反り鋼牙の拳を避ける。鋼牙の拳はそのまま地面に振り下ろされ、振動と共に地面に亀裂を生む。

「なんか強くなってない……? かけらは奪われたはずなのに」

 の知る限り、彼は足にしかかけらを持っていないはずであった。

「鋼牙くんの腕に何か埋まってる、けど……あれは、かけらなんかじゃない……!」

 かごめが目を凝らした。鋼牙は体勢を直し、今度は犬夜叉の頬に殴り掛かり、犬夜叉は吹き飛ばされた。

「やめて鋼牙くん! 話を聞いて!」

 かごめの存在に漸く気付いたのか、鋼牙は驚いたような表情になる。

「これは罠なの、あなたの仲間を殺したのはほかのだれか――」
「おれは自分の目でみたものしか信じねぇ!!」

 鋼牙にはもはや、かごめの言葉も届かないようだった。

「どうする法師様、加勢する?」
「いいや、それより、城の中に死体を操ったものがいるはずです。珊瑚、、行きましょう!」
「わ、わたしも?」
「傍にいなくては、守れない」

 の手を引き、弥勒は駆けだす。こういう時、弥勒はずるい。真剣な顔をしてそんなことを言うものだから、こんな状況にもかかわらずの胸がときめきを訴えるのだ。手はすぐに離されたが、そんな気持ちはずっと残った。
 館内を駆け抜けると、蚊帳の奥に狒々のシルエット。珊瑚が飛来骨を投げつけ、蚊帳は取り払われる。やはり奈落がそこにはいた。

「くくく、よく来たな。法師、珊瑚、……」
「なぜ妖狼族を殺した?」
「やつらは運が悪かった。欲をかいたのが命取り……というところか。噂を流してみたのだ。この城の城主がたっぷり四魂のかけらを持っている、と。案の定やってきた。尤も、妖狼族の若頭を引きずりだすのにはちと手間取ったが」

 狙いは、鋼牙。というより、鋼牙の足の四魂のかけらか。

「仲間思いの妖怪だ、やつなら仲間の仇・犬夜叉の息の根を止めてくれるだろう」
「相変わらずだね奈落、本当にわたしはお前が嫌いだ」

 湧き上がる憎悪をそのままに、は吐き捨てる。奈落の、この汚いやり方が本当に胸糞悪い。今すぐコイツを引き裂いてやりたかった。そんな気持ちが、のこころを侵食していく。こいつのせいで犬夜叉が、珊瑚が、弥勒が、そして桔梗が―――

「そういうな、。庭の騒ぎが落ち着くまで、わしが貴様らの相手をしてやろう」

 無数の最猛勝と、狒々から触手のようなものが伸びて、室内を満たしていく。触手が出てくるということはつまりこれは奈落の傀儡。予想はしていたが、ひとまずはこの奈落の傀儡を倒さねばならない。各々武器を構えて、この奈落と対峙した。

 思った以上に時間がかかってしまったが、奈落の傀儡を倒して館を飛び出れば、風の唸る音と、地面の亀裂、鉄砕牙を振り下ろした傷だらけの犬夜叉と、その先で上体の着物が脱げた艶やかな女性に、一筋の傷が入ったところであった。
 彼女は一体……とが状況を把握できないでいる間に、犬夜叉が止めを刺しに地面を蹴るが、彼女は髪飾りの羽根飾りを取り、放れば、それは大きくなり、女性はその羽根に乗ってふわふわ空へと飛んで行った。その背中には、蜘蛛の火傷跡があった。
 彼女が去ったのち、城は風と共にどんどんと消え去った。奈落も傀儡で、この城もまやかしであったと言う訳だ。

「神楽の背中……以前見た奈落の背中の蜘蛛と同じだった」
「犬夜叉アンタ、確かさっき、神楽と奈落は同じ匂いだって」
「まさか、あの女が奈落の変化だとでも?」

 弥勒の言葉に、いや、とかごめが言う。

「それにしては、まるで、あたしたちと初めて戦うみたいだったわ」

 神楽と言う女の謎は、深まるばかりであった。

「奈落の目的は犬夜叉と鋼牙をどちらかが死ぬまで戦わせること。勝ったとて、無傷では済まない。そして一番の目的は鋼牙の両足の四魂のかけら」

 と、弥勒。そこで鋼牙に目をやれば、鋼牙は傷だらけで横たわっていた。そして偽のかけらが仕込まれている腕は、鬱血しているような色になっていた。

「腕の偽の四魂のかけらの毒が回ってるんだわ……このままでは死んじゃうわ」

 かごめが痛ましそうに目を伏せる。

「けっ、丁度いいじゃねえか。おれたちにしたって、こいつが悪さ出来ねえように足のかけらを取り上げようと思ってたんだからな」
「見捨てるの?!」

 かごめが非難する。

「助ける義理はねえっつってるんだ!」
「でも犬夜叉、鋼牙も奈落の罠にはめられたわけでしょ? せめて命だけでも助けてあげられない……?」

 の言葉を受け、犬夜叉はよろりと立ち上がる。

「命だけでもって言うなら、方法はあるぜ」

 彼の提案は、腕ごと偽のかけらを切るという方法であった。かごめの力をもってしても、瘴気が強すぎてこの偽のかけらを取り出すことはできないとのことなので、もうこれしかないようだった。

「瘴気……待って! あたしの矢なら、きっと……」

 かごめが矢を持ち、矢じりを鋼牙の腕に突き刺した。にも、淀んでいた鋼牙の周りの空気が、一瞬で浄化されるのが感じられた。その矢じりで腕からかけらを取り出すことに成功した。

「へっ、残念だったな犬っころ、おれを殺し損ねて……」

 鋼牙は起き上がり、先ほどまでのぐったりした様子が嘘のように、シャキッとした様子で言う。

「だったら遠慮しねえぜ! 決着つけたる!」
「おおっと!」

 斬りかかろうとした犬夜叉から、物凄いスピードで遠ざかる。

「くたばりかけの犬っころに勝ったっておもしろくねえ! 今日のところは見逃してやるぜ!」

 犬夜叉が反論するが、鋼牙は聞く間もなく、つむじ風を巻き起こしながら物凄いスピードで立ち去った。ひとまず戦いは終わったようだ。
 犬夜叉のけがの手当ても兼ねて、休憩が出来るような場所を、弥勒、珊瑚、七宝で手分けして探した。そこで七宝が近くに小さな小屋を見つけ、一同はそこに身を寄せることにした。