極めつけにかごめが言霊、おすわりを唱えて犬夜叉は思い切り地面にめり込む。その隙に鋼牙たちは立ち去って行った。残された犬夜叉一行の間には何とも言えない空気が流れる。

「……なんで逃がした」

 さらわれたにも関わらずさらった張本人を逃がしたかごめを、犬夜叉が地面に倒れこみながらじろりと睨み上げる。かごめは根っからの悪い人ではないと弁解すれば、その言葉に犬夜叉がとうとう爆発する。

「ふざけんな! 大体さらわれて死ぬ思いしてたんじゃねーか!!」
「でも一応守ってくれたし……ただ乱暴な妖怪ってわけじゃ……」

 おずおずとかごめが反論する。犬夜叉は怒りを露わにしながらその場から少し離れた場所へ去って行った。

「やっぱ情が移ったってやつかなあ」

 と、珊瑚。

「まーあれだけ盛大に惚れたと言われたら憎めないでしょうなあ。そしてそんな鋼牙に振られたなわけですが」

 と、弥勒。

「生まれて初めてだよ、告白していないのにふられるなんてさ」

 と、。去り際にも、すまん! 妖怪女!! となぜか謝られ、は顔をしかめたのだった。

「ところでかごめ様、仕事を」

 弥勒に促され、かごめは極楽鳥の亡骸から四魂のかけらを拾い上げる。かけらは二つあり、一つは極楽鳥のものと、もう一つは鋼牙が身に着けていたものであった。

「きっと鋼牙さん、取りに戻ってくるんじゃない?」
「鋼牙さんだなんて他人行儀ですね
「他人ですから」
「犬夜叉と鋼牙くんが出会ったら、また殺し合いになっちゃうのかな」

 、弥勒、珊瑚は一様に頷いた。

「かごめちゃん、とりあえず犬夜叉の機嫌治してやんなよ」
「くれぐれも喧嘩はしないでね」




井戸と恋心




 案の定と言えば案の定ではあるが、結局犬夜叉たちは大喧嘩をし、雲母に乗ってかごめは骨喰い井戸まで行き、そのまま実家に帰って行った。

「おら、ヤな予感がする。いつもと違うような……」
「そんなことないよ七宝、どうせいつもの喧嘩だよ」

 七宝と、二人で薄暗い骨喰い井戸を見下ろしながらいう。

「けれど不思議だよね、この井戸を通れるのは犬夜叉とかごめだけだなんて。なぜわたしは通れないのだろう」

 やかごめが生きていた現代と、この戦国時代をつなぐ骨喰い井戸。この井戸に飛び込んで時代を行き交えるのはかごめと犬夜叉のみ。はくしゃみをしたらこの時代にやってきた。次くしゃみをしたら帰るのかと思ったが、何度くしゃみをしても光景は変わることはなかった。なぜ、時代を超えるものの中で、だけは通れないのだろう。今度と会ったら聞いてみようか。

「それはおらも不思議だと思っておる。はどうやれば帰れるのかのう……あ、には帰ってほしくないぞ? でもも寂しいと思ってな。おっとうと、おっかあもきっと心配しておる」
「七宝……そんなこと言うなんて反則だよ……!」

 気持ちが昂り、気が付いたら七宝を抱きしめていた。可愛いが止まらない。

「うぎゃー! ! やめるんじゃー!!」
「てめえ七宝!!」
「あー犬夜叉、お迎え?」

 騒ぎを聞きつけたのか、犬夜叉がやってきた。は七宝を抱きしめながら問うと、けっ、と犬夜叉は腕を組んだ。犬夜叉の登場に、の抱きしめる力が緩んだことに、七宝はほっと息をついた。

「んなわけねーだろ、おれはぜってー謝らねえ。それより、おめーほんとにあの痩せ狼に惚れたわけじゃあねえよな……?」
「それ……本気で聞いてるの?」
「お、おう……」

 犬夜叉の不安でいっぱいの瞳とぶつかる。その瞳がの眠れる加虐心をくすぐった。

「……あのね、最初は何とも思ってなかったの」
「………え?」
「でもああやってさ、情熱的にかごめに当たっていく姿を見ていたらさ、なんか、ああ、いいなあって。あ、この人素敵だなあって思ったの。だってあんなにまっすぐ好きだとか、惚れたとか、言ってくれる人なかなかいないじゃない?」

 言葉を重ねれば重ねるほど、犬夜叉の顔が青ざめていく。あー病みつきになっちゃう、止まらない。そんな顔しないで、犬夜叉。

……ほんとなのか」
「犬夜叉……」

 あ、だめだ。

「ぷっ、くく……あはははは! ねえ嘘だよ、犬夜叉。そんなわけないじゃん」
「はあ!? 何がほんとなんだ!? だー、じれってえ!! !!」

 突然肩を掴まれては目を白黒させる。反射的にに抱かれている七宝が身を縮ませるのは悲しいサガである。

「鋼牙が、好きなのか?」

 そんな真剣なまなざしで聞かれては、なんだかドキドキしてしまう。先ほどは犬夜叉をからかっていたというのに、今となっては形勢逆転だ。
 期待と不安の籠った、熱を孕んだ瞳。そんな熱に浮かされそうだった。