鋼牙の匂いを追って岩肌の目立つ山道を行く。犬っころと言われてイライラしている犬夜叉だが、匂いを嗅ぐ姿は間違いなく犬のそれであった。やがて数匹の狼が先に見えてきた。

「いたぜ! やつの手下どもだ!」

 狼が逃げるように坂を上がれば、その先には物凄い数の狼が控えてきて、崖の上から襲い掛かってくる。どうやら待ち伏せされていたようだ。狼は犬夜叉に襲い掛かり、犬夜叉は散魂鉄爪で倒すが、数が多すぎてきりがなかった。犬夜叉の背にはかごめが乗っている。危険が及ぶのは時間の問題だった。

「なっ!?」

 狼が犬夜叉を崖の下へと追いやる。犬夜叉とかごめもろとも崖の下に落ちていく。するとどこからともなく鋼牙がやってきて、落ちていく犬夜叉の背からかごめを奪い取った。そのまま犬夜叉は落ちていき、かごめは鋼牙に連れ去られた。雲母と珊瑚で二人を追いかけるが、山の上から人の身体がついた鳥の妖怪が現れて邪魔をする。珊瑚たちの邪魔をしに来たのかと思いきや、鋼牙や狼たちを追う妖怪であった。あっという間に鋼牙とかごめ、そして珊瑚と雲母の姿もみえなくなった。

「なんでかごめを……」
「まさか最初からかごめ様を狙う気だったのでは」
「どうしよう弥勒! かごめが……」
「ひとまずは犬夜叉を待ちましょう」

 崖の下から這い上がってきた犬夜叉と合流し、珊瑚たちを追う。すると存外早く珊瑚たちはいて、雲母が先ほどの鳥妖怪を牙で喰らっていた。珊瑚が申し訳なさそうに「ごめん、こいつらにてこづってる間に……」と俯いた。

「仕方ないよ! 犬夜叉、匂いで追跡しよう!!」

 犬夜叉の肩を掴み揺さぶりながらが力説する。かごめがいないのでが犬夜叉の背に乗り、雲母には珊瑚と弥勒が乗って追跡を始めた。暫く行くと、不思議なキノコがいくつも現れ、泣き始めた。七宝の使う妖術の一つ、だったような気がする。

「そ、そういえば七宝がいない!!」

 犬夜叉の背で狼狽える。他の皆も七宝が連れていかれたことを気づいていなかったみたいだ。七宝の撒いたキノコたちは目印のようにとある方向に向かって生えている。犬夜叉たちはその方向に向かって走り出した。



なんてこった



 七宝のキノコを追っていけば、山頂のほうまでやってきた。先ほどの鳥の妖怪が無数飛んでいるのが見える。そのまま上り詰めていけば、かごめが弓を構えている姿が見えた。その近くには鋼牙と同じような様相の男たちが数人いて、共同戦線を張っているようであった。鳥の妖怪がかごめたちに向かって襲い掛かっていく。犬夜叉は散魂鉄爪で妖怪に斬りかかって撃退した。

「かごめ!」

 犬夜叉から降り、が名を呼べば、かごめはほっとしたような顔をした。とかごめは抱擁を交わし、無事を確認し合った。

「どういう状況!?」
「とりあえず、話はあの極楽鳥の群れを倒してから!」
「極楽鳥ってあの鳥妖怪?」

 無数に飛んでいる鳥の妖怪は極楽鳥と言うのか。

「うん、そう! あ、いけない!」

 会話をしているうちに、近くにいた妖狼族の一人の、金髪に真ん中だけ黒髪の男が極楽鳥の足に捕まれて連れていかれる。

「ああだめだ、もう巣に持って帰られて食べられちまう……!」
「そんな……! ダメだよ!」

 もう一人の妖狼族の、モヒカンの男が頭を抱える。は黎明牙を抜き、構える。急ではあるが今こそ、黎明牙を受け取った時に感じたぼんやりしていた考えを確信に変える時が来たんだ。

(集中……集中……!)

 目をつぶり、精神を整える。すると漲ってくるパワー。遠ざかっていく極楽鳥のもとへ追いかけるようにジャンプし、黎明牙で斬りかかった。極楽鳥は真っ二つに斬れ、連れ去られかけた妖狼族の青年はそのまま地面に落ちて、も地表に降り立った。

「やっぱり……よっしゃあ」

 喜びをかみしめながら小さくガッツポーズをとる。思った通りであった。今更ながら刀々斎の刀鍛冶の力はやはり本物だった。

「姐さんのお友達……妖怪なんスか? 名前は」
「あ、うん……まあそうね。だよ」
先輩!! あ、ありがとうございました……!」
「せ、先輩?! ど、どーいたしまして……」

 目をキラキラさせながら思い切り頭を下げた。かごめは姐さんと呼ばれているのか。それに対して先輩って、何の先輩なのだ。

「おう犬っころ、見ての通りおれは忙しい! 化け鳥片づけるまでそこで待ってやがれ。おまえがおれと戦う度胸があればの話だがな!」

 たちよりも上の方にいる鋼牙が叫んだ。

「やかましい! 尻尾撒いて逃げたのはてめえだろうが!! そこをうごくな、ぶっ殺したる!!」

 犬夜叉が吠え、鋼牙のほうに向かって駆けだした。途中襲い掛かる極楽鳥を鉄砕牙で薙ぎ払う。

! かごめ様!!」

 珊瑚と弥勒が遅れてやってきた。弥勒がの姿をみて、安否を確認する。

、変化していますが大丈夫でしたか?」
「うん大丈夫! 一つ、成長したみたい。とりあえず、あの極楽鳥っていう妖怪を一掃しなくちゃ!」
「わかりました、なんとかしましょう」

 空を飛んでいる無数の極楽鳥を見据え、弥勒が数珠に手をかけ風穴でどんどん極楽鳥を吸い込んでいく。これには近くにいた妖狼族たちが慌てふためいた。雑魚たちは殆ど一掃できた。と弥勒はかごめたちと合流した。
 残るは親玉であろう一際大きな極楽鳥。双子のように一つの鳥妖怪から二人の人間のような姿をしたものが生えている。親玉は鋼牙に襲い掛かり、鋼牙もそれに応戦する。犬夜叉も極楽鳥に翼に飛び乗り、片方の翼を引っ張り、引きちぎろうとする。その間鋼牙は襲い掛かってくる極楽鳥の、二つ生えているうちの一人の頭を、殴り飛ばした。もう一人のほうが怒りに震え、鋼牙を岩肌へ追いやり、挟み込んで潰そうとする。そのまま極楽鳥は岩を突き破り、彼方へと逃げていった。

「やい鋼牙! 覚悟しやがれ!」

 邪魔者はいなくなったとばかりに犬夜叉がこぶしを握る。

「なんでえ犬っころ、てめえも生きてたのか。化け鳥も深手を負わせたし、あとでかごめに探させるか……」

 かごめ、とは。随分親しげに呼んでいる。いったい何があったのだろうか。と弥勒は顔を見合わせた。

「てめえ、まだそんなことを」
「ったりめえだ! かごめはもうおれの女だ!! 誰が返すか!」

 物凄い衝撃が至る所に走った。弥勒とほぼ同時にかごめを見た。言われたかごめも相当驚いている。この空白の時間にいったい何があったのだろうか。

「う、うそよ! 勝手にいってるだけなんだから!!」
「この野郎……よくもいい加減なことを」
「文句あっか! おれはかごめに惚れたんだ!!」

 今度は視線を鋼牙にずらした。白昼堂々、随分と大胆なことを言うものだ。

「四魂の玉を見る目もあって、度胸もある。おまけにいい女だ」
「まあ……」
「オイオイ」

 目を輝かせるかごめにが小さくつっこんだ。
 売り言葉に買い言葉、カチンときた犬夜叉と鋼牙が再び戦う。二人とも一歩をひかぬ戦いを繰り広げる。

「二人とも気を付けて! 上!!」

 かごめの言葉に上を仰ぎ見れば、先ほど退散していった大きな極楽鳥が上から大きな口を開けて急降下し、鋼牙の片腕を噛んだ。鋼牙は足で極楽鳥の牙を砕いて腕を引き抜くが、鋼牙の腕に仕込んであった四魂のかけらは極楽鳥の口内に落ちてしまった。それが狙いだったらしい極楽鳥は、そのまま翼をはためかせて空へ飛び立っていく。かごめと妖狼族の仲間たちが鋼牙に駆け寄ろうとするが、来るな! とけん制する。

「やつの狙いはおれだけだ!!」

 極楽鳥は大きく旋回すると、再び鋼牙のもとへと向かってくる。そこに犬夜叉が立ちはだかり鉄砕牙を構える。

「犬っころてめえ……どういうつもりだ!」
「黙ってみてろ痩せ狼! おれの強さをじっくり拝ませてやるぜ!」

 犬夜叉は鉄砕牙で大きく空を切ると、極楽鳥は剣圧でばらばらに引き裂かれた。これは殺生丸との戦いの時に会得した技、風の傷。彼はものにしたようだった。

「さて……邪魔な化け鳥を片付けたところで……?!」

 くるりと振り返ると、犬夜叉が驚愕する。かごめが鋼牙を抱き寄せて介抱しているところであった。

「何言ってるの! 鋼牙くんひどい怪我してるじゃない!」
「こんな傷たいしたことねえ……」

 鋼牙が犬夜叉に向かって行こうと数歩走るが、すぐに力なく倒れこんだ。

「覚悟しやがれ!」

 犬夜叉がそれを受け鋼牙に向かって駆けだそうとする。がすかさず犬夜叉の前に立ち、鋼牙をかばうように両手を広げて立ちはだかった。かごめだけでなくまで鋼牙をかばったことに、とうとう犬夜叉の精神は崩壊寸前になる。

「なっ……まで」
「先輩!」
「なんだてめえは!」

 鋼牙がに向かい吠える。

「鋼牙、その人かごめ姐さんの友達の妖怪の女でめっちゃ強いんだ!」

 先ほどが助けた妖狼族の青年が説明する。かごめ姐さんの友達の妖怪の女……肩書がごつすぎてなんだか癪だ。

「妖怪女、なぜおれを助ける……」

 はくるりと振り返り、何かを言おうと口を開くが、先に鋼牙が、まさか……。と口火を切る。

「お前まさか……おれに惚れてるのか?」
「はあ!?」

 相変わらずの鋼牙の飛躍した考えにが素っ頓狂な声を上げる。真面目に物凄いことを考える鋼牙についていけなかった。

「……すまん妖怪女、おれには、心に決めた女がいるんだ」
「まて! 勝手に振るな!! わたしそんなこといってない!!」
……そうなのか?」
「そんなわけないよね!!」

 ひどくショックを受けた様子の犬夜叉。収拾のつかない展開には頭が痛くなった。