「あ! 弥勒様、!」 背後から声がかかりと弥勒は振り返ると、何の因果か、かごめが弓を携えてやってきていた。桔梗のあとを追いかけてきたのだろうか。何となくのほうがドギマギする。 かごめは桔梗の存在に気づくと、顔を曇らせた。 「ぐぐぐ、この女、人間ではないな。我が血肉にしてや―――」 妖怪が桔梗に手を伸ばす。 「桔梗に触るな!!!」 犬夜叉は鉄砕牙で、その伸ばした手を切り落とす。妖怪は苦悶の表情を浮かべ、切り落とされた腕の再生を試みる。その間犬夜叉は桔梗を抱き上げようとするが、再生した腕が犬夜叉に攻撃を仕掛け、桔梗の救出は失敗に終わる。 「てめえ……!」 「熱くなるな犬夜叉!! そいつを倒したらお前の身体が蠱毒に……」 「やかましい!!」 犬夜叉がかごめの存在に気づき、一瞬顔をこわばらせた。気持ちも分からなくもない。桔梗が現れ、そしてかごめが現れた。犬夜叉を取り巻く二人の女性が一同に会しているのだ。 「弥勒様……蠱毒って?」 「勝っても負けても、妖怪と身体が融合してしまうことです……」 かごめはそれを聞くと、坂を下り始めた。それはつまり、妖怪と戦うフィールドに突っ込んでいったと言っても過言ではない。 「かごめ、何してんの……!」 「決まってるでしょ! 桔梗の身体を引き上げるのよ……!」 かごめは坂を下りきると、桔梗の身体を引き上げる。 「恋敵を、引き上げるなんて、どうして……?」 「このままでは犬夜叉は桔梗を守るために、戦い続けるからでしょう」 成程、とが感心するのも束の間、妖怪はすぐにかごめの存在に気づき、大きく腕を振りかぶる。それに気づいた犬夜叉が鉄砕牙で妖怪をなぎ倒す。ダメだ、妖怪に取り込まれる。は思わず顔を覆うが、澄んだ音が聞こえて指の指の隙間から覗き見る。 桔梗がよろめきながらも、矢を放ち、犬夜叉の鉄砕牙に打ち込む。鉄砕牙は変化を解かれ、更に矢の力で妖怪の身体から押し出された。矢はそのまま天まで昇りつめ、そのまま空まで飲み込まれていった。その瞬間、パンクしたタイヤの空気が抜けていくように、張りつめていた邪気が空からどんどんと放出された。邪気とともに無数の妖怪の屍が空へと昇っていく。その流れに犬夜叉とかごめ、そして気を失った桔梗がのみこまれていく。思わずはその流れに飛び乗っていた。が無意識に行動したのか、それともの中のがそうさせたのかはわからない。けれどもの身体は妖怪の屍とともに昇り詰めていく桔梗を助けに駆けだしたのだった。 「桔梗!!」 は桔梗の身体を抱きしめる。離れないように抱きしめる力を強くして、物凄い勢いの流れに気持ちまで呑まれないように気を張る。 「!」 轟音の中で名を呼ばれる。恐らく犬夜叉であろう。返事をする余裕もなく、ぎゅっと目をつぶる。昇り詰める感覚は反転し、今度は勢いよく落ちていく。どういう状況なのだ? が薄目を開けて状況を確認すれば、この流れの先には奈落が居た。妖怪が奈落に取り込まれていっている。まずい、このままではも桔梗も奈落の中に取り込まれてしまう。どうにかしてこの流れから飛び出さなければ。 (どうか守って、―――) 無意識に黎明牙を握っていた。 +++++ の願いが届いたのか、黎明牙の能力である結界が作り出され、妖怪の流れから飛び出ることに成功した。と、その時だった。 「、」 桔梗が確かにそう呟いた。え? とが桔梗を見たその時、何らかの力が働いては桔梗から離された。有り得ないのだが、桔梗の押されたような気がするのだ。そのまま落ちていき、と桔梗は離れ離れになり、地面にたたきつけられた。 「いたあ……」 思い切り体を打ち付けて、全身に鈍い痛みが奔る。ゆっくり起き上がり、急いで桔梗の姿を確認すると、数M先で桔梗は横たわっていた。 「!」 「桔梗!!」 犬夜叉はかごめと共にいて、の名を呼ぶのだがの耳には届かない。桔梗のもとへと駈け出そうとしたその時であった。 「この女が中から封印を破ったのか」 奈落が呟いた。 「つまり、この女のおかげでこの奈落は新しい身体を無事に手に入れたということになる」 「違うわよ馬鹿! あの時桔梗が矢を放たなかったら、犬夜叉は妖怪を倒してしまって、身体が融合してしまうところだったんだから! だから桔梗は、犬夜叉を守るために……」 「どうやらこの女、50年前に犬夜叉、貴様のあとを追って死んだ桔梗らしいな」 奈落がぐいっと桔梗を抱き上げた。その様子を受け、犬夜叉の頭に血が上る。 「てめえ!! 薄汚ねえ手で桔梗に触るな!!」 犬夜叉が走る。しかし、奈落は瘴気を出して犬夜叉の追及を拒み、天高く昇っていく。 「くくく……桔梗の霊力、貴様なんぞの渡しておくのは惜しい」 そんな言葉を残して奈落は消えた。 「桔梗!!」 犬夜叉が叫ぶが、その叫び虚しく奈落の姿はすぐに見えなくなった。 「桔梗……」 ぽつりとは呟いた。桔梗をさらわれてしまった。彼女を守りたかったのにそれは叶わなかった。なぜこんなにもの庇護欲をつつくのかは謎だが、そんな衝動がをかきたてたのは確かだった。 |