雲母はいまだに奈落の毒に苦しんでいて、冥加いわく毒消しの薬草を使えば解毒できるとのことだった。
その薬草は妖怪が守っているとのことなので、腕っぷしのいい犬夜叉と、居ても立っても居られないで取りに行くことになった。
珊瑚の護衛には弥勒とかごめと七宝がついた。
「なんだかいい天気だねえ。」
「おー。」
かごめの自転車を借りて、二人乗りをしながら道を行く。なんだか気のない返事だったので、くるっと振り返ると、
犬夜叉は眠たそうな瞳でぽーっと景色を眺めていた。ここ最近、緊迫した状態が続いていたので一気に疲れが出たのだろう。
「眠かったら寝てていいからね。」
「眠くねえ。」
「ふうん?」
「眠くねえぞ。」
「はいはい。」
意地っ張りな犬夜叉に思わず笑みがこぼれた。そっとしておこうと思って話しかけることをやめた。
地念児の畑
「もうこれで三人目だ。またはらわたをごっそり食われとる。」
藁をかけているのでその場所は見えないが、血が飛び散っているので相当グロテスクなものが想像できる。
顔を顰めてその光景から目をそむけた。村の来て早々、こんな光景に出会うとは。
「やっぱり地念児のしわざだべか。」
「決まってるじゃねえか。」
「あの化け物、もう勘弁ならねえ。」
「で、でもどうする?」
「村のものが束になってかかっても……なあ。」
村人たちの会話が聞こえてくる。
どうやら地念児という化け物に手を焼いているらしい。
「なんだか困ってるみたいだね。」
「その地念児とかいうのは、妖怪なのか?」
犬夜叉が村人たちの前に出ると、村人たちは会話をやめて静まり返った。
「なんじゃおまえは……妖怪か?」
「あ、わたしたち、薬草を分けてもらいに来たんです。」
「薬草?ああ、地念児の畑のか?」
ほしい薬草はどうやらその化け物が栽培しているらしい。
話を聞くと、地念児というのはこの村のはずれで母親と二人で暮らしていて、薬草の畑を持っているらしい。
村人たちもたまに薬草を分けてもらっているのだが、最近地念児は人の肉の味を覚えてしまったらしい。
「薬草をもらうついでに退治してやるよ。」
犬夜叉がその地念児を退治することを約束した。
村人たちに連れられて地念児の畑に向かうと、人間の二倍くらいの大きさの、大きな瞳が特徴的な、地念児が
畑を耕していた。はここで待ってろ、と言われて犬夜叉は一人で地念児のもとへと歩いて行った。
「あの小僧、強いんだっぺか。」
「ま、いいじゃねえか。」
「妖怪同士の戦いだ。どっちが死んでも……。」
村人たちの会話はすべての耳にも届いていた。
(感じ悪いなあ……。)
遠くから犬夜叉の様子を見守る。犬夜叉が何かを言うと、地念児が振り返った。
と、そのとき、のすぐ後ろからひゅっと石が飛んで行き、地念児にぶつかった。
「ちょ!なにしてるんですか!!」
振り返ると、なぜか臨戦態勢の村人たち。
「殺せ!はやく!」
殺気だった村人たち。すると地念児がぶるぶると震えだした。
犬夜叉は地念児の異変に、鉄砕牙を構える。
「おっか〜〜〜〜〜!!!!」
と、大きな瞳に大粒の涙を流して叫びながら、小屋にかけていった。
「まっ、待ちやがれ!」
慌てて犬夜叉が追いかける。そしてそのあとをも追いかけると、小屋から何かがすごい勢いで出てきて
「貴様らーー!!」
と叫んだ。間違いない、これは山姥だ。
は初めて見る山姥に思わず身震いをした。なんて迫力だ。
「いちいち言いがかりをつけtえおらたちの畑狙いやがって!」
山姥が木の棒を思い切り振りかぶって、勢いよく犬夜叉に振り下ろした。物凄い音を立てて木が真っ二つになった。
村人たちは、小僧がやられた、だとか言いながらすぐさま退散した。
「なんなんだあの連中。」
「おめえ、村のやつらに何吹き込まれたか知らねえけどな、この子が人のはらわた食ったりするものか!
半妖だと思ってバカにしやがって!」
頭を押さえて悲しそうな顔をしている地念児を二人は一斉に見た。彼もまた、半妖だとは。
「犬夜叉、とか言ったな。見たところおめえも半妖だろ。」
地念児と山姥の小屋に入り、事情をうかがうことになった。
身体の大きな地念児にはこの小屋は少々窮屈そうであった。
「わかるのかよばばあ。」
「やっぱりな。それにしちゃきれいな顔しとるが。その姿、どう見たって半化けだからな。」
「なるほど、半化け。これとかかな?」
「けっ。」
犬夜叉の犬耳を触る。
「おめえなら想像つくだろうが、この地念児が半妖だっていうだけで、おらたち親子が村のやつらにどんな扱いをされてきたか。」
「……いじめられているんですか?」
「ふん、何度殺されかけたことか。」
「ごめんおっかあ。おらのせいでいじめられるんだな。」
妖怪でもない、人でもない、半妖。
どちらの世界でも生きるのが難しい。
「何を言う地念児、おらたちは何も間違ってねえぞ。お前の親父殿はな、それは立派な良い妖怪だったんだぞ。
懐かしのう、そう、あれは……ちょうどおらが、おまえさんくらいの年ごろだった。」
「わたし?」
「山の中で足をくじいて難儀しとった時に、助けてくれたのが親父殿だった。美しい男の姿をしていたが、すぐに妖怪と
わかった。なにしろ光り輝いておったからなあ。そして二人は、燃えるような恋をしたじゃ。」
うっとりと斜め上の虚空を見上げた山姥。
「ちょっとまて、ばばあ……てことは、おめえの方が人間なんだな。」
(た、確かに!)
「なんだとおもったんじゃい。」
山姥です。
それから地念児は薬草を分けてくれた。これを煎じて飲むといいらしい。
なんとなく歯がゆい思いを抱きながら、小屋をあとにした。
「……後味が悪い。」
「地念児のことか?」
「うん。別に地念児さんがやったわけじゃないのに、勝手に容疑をかけられて、いじめられててさ……。」
「あれじゃ村のやつらに付け込まれても仕方ねえよ。」
「え?」
どういう意味?と尋ねようと思ったら、村人たちが刀やらを持ち寄っている光景が現れた。
「これだけあれば地念児の野郎を倒せるな。やられる前にやらないとな。」
「ちょっと待って!何してるの?地念児さんに何をするつもり?」
慌てて駆け寄る。
「ああ、なんだおめえらか。あたりめえだろ。」
「証拠もないんだからやめてください。」
「あいつに決まってる!あいつら親子はおらたちを恨んでるからな、仕返ししてるに違いねえんだ。」
「てめえら、今まで随分といじめてきたらしいな。」
痛いところをつかれたらしい村人たちは、ぎくりと視線をさまよわせた。
「わたし、犯人捕まえてくる……!犬夜叉、まってて!」
「ばっ、、お前はここに残れ!」
「なんで!?」
「俺が真犯人とっつかまえてくるから、は待っててくれ。」
「わ、わたしも行きたい!」
「だめだ、にもしものことがあったら困る。おいてめえら、に手ぇ出したらただじゃおかねえからそのつもりでな。」
半ば強制的にはこの村に残ることになった。