「うっ……。」
「珊瑚ちゃん……。」
珊瑚が目を覚ました。
「ごめんね……あたし。」
「大丈夫よ、わかってるから。」
「よかった、生きていたか珊瑚。」
「けっ、そう簡単にくたばってたまるかよ!珊瑚、てめえにはあとでたっぷり文句言わせもらうからな、死ぬんじゃねえぞ!」
「くくく……生きて帰れると思ったか?貴様らはここで死ぬのだ。珊瑚の裏切りによってな。
珊瑚は貴様らの命より、弟を救うことを選んだのだ。」
「黙れ奈落!兄弟は大切に決まってる!!それに珊瑚は、わたしたちなら大丈夫だと思ったから、弟を助けに行ったんだ!」
そうだよね、珊瑚。
わたしたち仲間は、そう簡単に崩れたりしない、そう思ったから琥珀を助けに行ったんだよね?
みんながみんな、違った悲しみを背負っていて、違った弱さを持っている。今は珊瑚の弱さがつつかれているだけ。
「生まれ変わってなお甘いな、。」
奈落の髪が変化した魔物が襲い掛かってきた。すかさず犬夜叉は火鼠の衣を脱いで、こちらによこした。
これで瘴気を防げ、ということだろう。かごめや珊瑚と身を寄せ合って火鼠の衣をかぶる。
「散魂鉄爪!」
犬夜叉が切り裂くが、すぐに瘴気が降りかかってくる。
いくら犬夜叉が頑丈だからと言って、これを続けていればいずれ倒れてしまう。
「だめだ、キリがない!」
弥勒が数珠を解いて風穴を解放しようとしたのが見えた。はすかさず弥勒に駆け寄って、弥勒の右手に抱き着いた。
「だめ!今開いたら、しんじゃう……!」
ぎゅっと、ありったけの力を込めて、弥勒の右手を封じ込める。
「離してくれ、ここで皆殺しにされるくらいなら……!」
「弥勒が死んだら、わたしは一生後悔する!一緒に死んだ方がまし!!」
の想いが届いたのか、風穴を解放しようとする右手の力が弱まった。
「くくく……つくづく甘い。裏切り者の珊瑚を憎みきれず、法師の命を惜しんで活路を絶つ。助け合い、思いあい、そして
そのせいで死ぬのだ。半端な妖怪と半妖らしい死に方だ。」
「全部、あんたが仕組んだんじゃない……!」
かごめが火鼠の衣から出て、弓を構えつつ辺りをうかがう。
「あ、あそこ!」
かごめが見つめる先には、建物があった。犬夜叉はなりふり構わずその方向へ突っ込んでいく。
進行を阻む魔物は爪で引き裂くが、瘴気にやられてまた別の魔物に攻撃されて、地面にたたきつけられた。
「くくく……みじめだな犬夜叉。愚かな仲間たちとともに苦しみながら死ね。出来損ないの半妖にはふさわしい死に方よ。」
と、そのとき、まばゆい光が一直線に奈落のいる建物に向かって、派手に建物を壊した。
かごめのはなった弓だった。矢は奈落の肩辺りをごっそり直撃していて、片腕がなくなっていた。
「奈落……あんたってほんと、最低!」
かごめの放った矢の周辺の瘴気が浄化されていく。
彼女の持つ潜在的な巫女の力が、そうしたのだろう。
は弥勒から離れて、呆然と光景を眺めた。
「これは……かごめさまの力。」
「すごいね……。」
再び弓を構えたかごめと、なくなった右腕を抑えて苦々しい表情の奈落。
「女……お前何者だ。」
かごめは奈落の中ではノーマークだったのだろう。
そしてそれが仇となった。
「昔、お前と同じ力を持った女がいた。」
桔梗のことだろう。鬼蜘蛛がその身を売ってまでも手に入れたかった女。
「その桔梗も、あんたが罠にかけて殺したんじゃない!!!」
「お前、桔梗の―――」
「うるさいわね!あたし怒ってんの!!」
かごめが矢を放った。矢は見事奈落の懐らへんに命中し、奈落の体は真っ二つ。上半身が宙に浮かびあがり、
重力を受けてそのまま地面へと落ちていった。そのとき、奈落の顔がニヤリ、不気味な笑みを浮かべた。
「アブねえ!!」
爆発したようにそこらじゅうが一瞬で瘴気に包まれた。
犬夜叉がかごめを庇って彼女の抱きしめ、珊瑚と七宝と雲母に火鼠の衣がしっかりかかっているのを確認し、
も黎明牙をぎゅと握って願いを込めた。薄いベールがと弥勒を包んだ。
瘴気が消えたころには、周りにあった建物などはすべて消えていた。
今まで存在した城はまるで最初からなかったように忽然と姿を消していた。
「まやかしの城だったのか……?」
鉄砕牙だけが、城の跡地に残っていた。
奈落は、死んだのだろうか?
珊瑚との和解
奈落は逃げたらしい。先ほどかごめが建物を指さして「あそこ!」といったときは、四魂のかけらが見えたからなのだが、
どうやら四魂のかけらの気配はしないらしい。もし奈落が死んだのならここに残っているであろう。
「ごめんね……仕留められなかった。」
かごめがぽつりと言った。
「何を言いますか。珊瑚も生きていて、も無事だったのですからそれでいいんです。それにかごめさまがいなければ
今頃我々は死んでいました。」
「そうだよ、かごめ、なんかすごかったね!」
「だって……犬夜叉のことバカにされて、頭にきちゃったんだもん。」
思わずは弥勒のほうを向くと、視線がかち合った。
同時にふわっと笑う。
「はいはーい。」
「あちらに行きましょう、。」
「うおいてめえら!!」
二人きりにしようと、たちが歩き出すとすかさず犬夜叉に手首をつかまれて引き留められた。
と、そのとき、七宝の声が聞こえてきた。
「だめじゃ珊瑚、動いては!」
見れば、満身創痍の状態で飛来骨を使って立ち上がり、よろよろと歩き出そうとしていた。
は珊瑚のもとに駆け寄り、支える。
「珊瑚、どこにいくの?」
「ごめんね……もう一緒にいれない。」
「お前が弟のことで奈落に脅されていたことはみんな承知している。」
「だから、あたしはまた裏切るよ!琥珀が奈落の手の内にいる限り!」
「ひとりで奈落を倒そうとしてるの……?」
「……そうするしかないんだ。」
「そんな、琥珀君はみんなで助けよう?」
「ですな。一人でかなう相手ではありません。」
「でも―――」
「いいよ!それでいい!みんなそれぞれ弱いところがあって、それをみんなわかってるんだから!裏切れ!!
そのたび何回でも珊瑚を取り戻しに来るよ!!」
「と、まんまとさらわれたも申しておりますし。」
裏切れ、とは大胆に迫ったが。
「あんたたち、どうして――」
「ごちゃごちゃうるせえな、一緒にいたほうが都合いいんだよ!お前は喧嘩がつえーからな!」
犬夜叉らしい物言いに、は思わずくすっと笑ってしまった。
「同じくまんまと鉄砕牙を奪われた犬夜叉も言っているのです。問題ないでしょう。」
「なんか俺が間抜けみたいじゃねえか。」
「そうなると必然とわたしも間抜けみたいになるよ。」
「心が広いと言っているのです。」
「珊瑚はおらたちが嫌いなのか?」
七宝が眉を八の字にして尋ねる。
「……一緒にいて、いいの?」
か細い声で珊瑚が問う。
「だから、そういってんだろ!!」
犬夜叉の答え。珊瑚が声を上げて泣き崩れた。
は珊瑚の背中をさすりながら、「おかえり。もう大丈夫だよ。」と小さくつぶやいた。