事件は前触れもなく起こった。覚束ない足取りでこちらへ向かってくる男性がいた。
明らかに様子がおかしい。
「た、助け……。」
男は言葉も言い切れぬまま倒れこみ、そのまま息を引き取った。
致命傷はどうやら背中にある傷であろう。微かに匂う血の匂いに吐き気がこみあげてくる。
「こいつだけじゃねえ、この血の匂い、かなりの数だ!」
思わず犬夜叉は駆けだした。そのあとを慌てて追いかける。
「これはひどい……。」
思わずはつぶやいた。
むせ返るような血の匂い。死の漂うこの村はおそらく全滅であろう。
何があってこんなことになってしまったのだろうか。無差別大量殺人鬼が潜んでいたりするのだろうか。
そう考えるだけで身震いがした。
「全部一撃でやられてますなあ。」
これはきっと和製切り裂きジャックの仕業に違いない。
は心の中で考えた。
「いったい誰が……。」
「きっと和製切り裂き―――」
「誰がやったか、そこのやつに答えてもらおうか!」
が切り裂きジャックと答えようとした矢先、犬夜叉が鉄砕牙を抜き取って近くの小屋を大胆に
一刀両断した。人影がぬっとあらわれたと思ったら、鎖鎌をこちらに放ってきた。犬夜叉はそれを
鉄砕牙ではじき返すと、それを器用にキャッチした。現れた和製切り裂きジャックは、幼さの残る
男の子であった。
「あれ、珊瑚ちゃんと同じ退治屋の服。」
かごめがぽつりつぶやく。ちらっとは珊瑚を確認すると、ただならぬ表情で男の子を見つめていて、
少年がこちらに背を向けて駆けだすと、雲母に乗って追いかけた。犬夜叉も追いかける。
例によってその犬夜叉を皆が追いかける。
「あの子が村を全滅させたってことだよね……?」
隣を走る弥勒に尋ねれば、難しい顔をして、うーんと唸った。
「状況からしたらそうなのでしょうが、疑問が残りますなあ。」
確かに。とはつぶやいた。
退治屋のような恰好をしたものが、ただの村を全滅させるなんて動機が不明である。
「……そういえばあの子の背中、四魂のかけらが入ってたのわ。」
「なんだと!?」
犬夜叉が物凄く食いついた。
退治屋の少年
犬夜叉には案外早く追いついた。突っ立っていた、といっては言い方に語弊があるが、ただ立っていた。
そこに珊瑚はいなかった。どうやら結界が張ってあるらしく、そこを犬夜叉は通れなかったらしい。
確かに結界が張ってあり、うようよとその先の景色が渦巻いていた。
妖怪であるため通れなかった可能性もあるので、弥勒が結界をとおろうとしたが、通れなかった。
そこで犬夜叉の肩に載っていた冥加が、妙なことを口にした。
「あのガキが珊瑚の弟だと!?本当なのか冥加じじい!」
冥加は先ほどの少年が珊瑚の弟だといったのだ。
「間違いありません。あれは確かに珊瑚の弟、琥珀じゃった。」
「でも、奈落の城で死んだって言ってたよ。」
腕を組んで、眉を寄せてが言う。
「そうなのじゃが……。」
冥加自身、不思議に思っているようだった。
暫く待機していると、渦巻いていた景色が晴れ渡り、ゆっくりとした足取りで珊瑚が帰ってきた。
「珊瑚!」
が真っ先に珊瑚を見つけて駆け寄り、皆も駆け寄る。
「珊瑚ちゃん、あの男の子……。」
「やはり琥珀だったのじゃな!?」
いつの間にやらかごめに載っていた冥加が尋ねると、
「あれは琥珀なんかじゃない!!」
怒りを露わに、声を荒げて珊瑚が否定した。結界の中で、何があったのだろう。
頑なに事実を認めたくないような言い方だった。
「……法師様、お願い、村のみんなの供養してあげて。」
「何かあったのかなあ、珊瑚。」
「さあな。まあ奈落が絡んでるってことは間違いねえだろうな。」
「どうして??」
「だってよ、四魂のかけらが背中にあったんだぜ?」
「ああ、なあるほど。」
木材を運びながら犬夜叉と言葉を交わす。
「珊瑚、辛そう……。暫くはそっとしておこうね。」
「なに甘いこといってんだ。奈落が絡んでるんだ、力ずくで―――」
「だめ!いかん!だめー!!」
ぱきぱきと指を鳴らしながら珊瑚のほうへつかつかと歩み寄る犬夜叉に後ろから抱き着いて、
力づくで止める。
「なんだ?。」
異変に気づいて止まった犬夜叉が振り返った。
「それはだめ!そっとしておこう!ね?」
「う……おう!」
どうにか止まったので、は満足げに頷いた。
「待っていればいずれ奈落のほうから仕掛けてくるでしょう。ささ、犬夜叉から離れましょう、。」
「はーい。」
弥勒の言うとおり、犬夜叉から離れた。