弥勒は妖怪を吸い込んださいに風穴に傷をつけられて、治療をしに彼が幼少育った寺に身を寄せに来た。
そこにいる夢心という和尚が弥勒を育てた親のような存在だった。
弥勒の父親は彼がまだ幼いころに自身の風穴に飲み込まれて死んだ。
夢心は、傷は治せるが、傷が完全にくっつくまで風穴を開いてはいけないと言った。
なぜなら傷口の裂け目から風穴が広がって、死期が早まるからだ。
そして太陽が沈んだころに、治療を始めたのだが、夢心が急に弥勒を殺そうとしたのだという。
なんとか弥勒を連れ出して逃げたのだが、一緒にいたら殺される、逃げろ。と弥勒はいい、ハチは
命からがら逃げだし、犬夜叉たちに助けを求めに来たのだという。
はこの話を、涙が出そうな気持ちで聞いていた。
早まる鼓動を抑えるように深呼吸をして、(弥勒は大丈夫。)と呪文のように唱えた。
「最猛勝だ。」
珊瑚の言うとおり、奈落の毒虫が周りを飛んでいた。ハチを襲っていた毒虫は全部駆除したはずなので、
新たに来たのだろう。襲ってこないあたり、見張りだろうと推測する。間違いない、奈落の差し金だ。
「あそこです!あそこの寺です!!」
ハチが叫んだ次の瞬間、無数の妖怪がわっと襲ってきた。
「つっきれタヌ公!!」
犬夜叉が鉄砕牙を抜いて妖怪を切るがきりがない。
「犬夜叉、雑魚はあたしに任せろ!こいつら図体だけだ!!」
「わかった頼んだぜ!!」
お願い無事でいて。
死してもなお守りたいもの
妖怪も珊瑚のおかげでほとんどいなくなり、ハチが弥勒のもとに降り立った。
急いで降りて、弥勒の安否を確認する。弥勒は生きていた。大穴の真ん中にぽつんとある石を背にして
ぼんやりとしていた。
「ばかー!なんでおらたちに黙って消えたんじゃ!!」
七宝がぴょんと抱き着いて、泣きながら言った。
「水臭いじゃない!心配したんだから!!」
とかごめ。
「無事だったんだね法師様!」
雲母に跨って、妖怪を退治しながら珊瑚。
「?」
何も言わないをかごめは心配そうに見やって、ぎょっとした。
はぷるぷる震えながら静かに大粒の涙をこぼしていた。
言葉なんてなかった。何も出てこなかった。ただただ涙が流れた。
「……。」
力ない弥勒の声に、堪えきれなくて嗚咽を漏らした。
次の瞬間には駆け寄って、泣きついていた。空気を読んだ七宝が弥勒から離れてかごめにぴとっと寄り添った。
「なっ!」
犬夜叉が目を見開いて固まる。が、すぐにその停止は解除された。
「誰じゃ、わしの寺を騒がすのは。」
振り返ると、背後に大量の妖怪を従え大きな数珠を肩にかけた和尚、夢心がそこにはいた。
「成敗してくれる。」
「おもしれえ!やってみやがれ!!」
「い、犬夜叉、頼む……その人を殺してくれるな。」
「くくく……殺してくれるなよ……わしは弥勒の育ての親じゃからな。」
「ちっ、しょうがねえ、手加減してやるぜ老いぼれ坊主!」
「それはありがたい!」
犬夜叉が鉄砕牙を振りかぶって斬りかかろうとしたところに、夢心が数珠を投げつける。
それを薙ぎ払おうと斬りかかったのだが、一気に鉄砕牙の変化が解けた。
「法力!」
そして数珠は犬夜叉に巻きついて、締め付けた。バチバチと音を立てて、犬夜叉は地面に落ちた。
これ見よがしに妖怪が襲い掛かるが散魂鉄爪で応対する。
「元気なことよのお。わが法力の数珠に縛られながら。だがいつまで持つかのう。」
既に余裕をこいて座りこんでいる夢心。法力を使うと、ますます数珠は犬夜叉を締め付ける。
と、そのとき、夢心の口からしゅるしゅると気持ち悪い細長いものが出てきた。明らかに人間の体には
ないものだ。
「あれは蠱壺虫じゃ。和尚はあれに心を操られとる。」
「助からんのか……?」
弥勒が尋ねる。
「近くに蠱壺虫を使う壺使いがいるはずじゃ。そやつから壺を奪って夢心和尚に向ければ……。」
「わかった!壺使いを探しに行くわよ冥加じいちゃん!」
「えっ!?わしも!?を連れて行けばよかろう!」
「には弥勒様を守ってもらうの!!、頼んだわよ!」
「うん……っ!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったが弥勒から顔を上げて頷いた。
その後かごめは珊瑚と合流して寺の中へ向かっていった。
「、すまない。」
「ん……。後でお説教だからね。ぶぁーか!」
犬夜叉はというと、なんとか散魂鉄爪で妖怪をすべてけちらしていた。
加勢できればいいのだが、あいにくそれほどの力を持ち合わせていない。
「そろそろ首をねじ切ってやろうか。」
「調子に乗るなくそ坊主が!!」
犬夜叉が夢心に向かって飛び掛かり、そして首を手で絞める。
もともと気は長い方ではないので、先ほどの夢心の発言に血が上ったのだろう。
「てめえ弥勒に頼まれたから今まで我慢してたからけどなあ……。」
「ならば殺すがいい。だがな、この夢心を倒したら弥勒の風穴の傷を治せるものがいなくなるぞ。」
「犬夜叉、やめて!!」
の叫び声に気を取られた犬夜叉。一瞬首を絞める力が弱まったのを見計らって夢心が
犬夜叉に巻きついている数珠に手をかけてぎゅっと握ると、バチバチと音を立てて犬夜叉を締め付けて
弱らせていく。
「あきらめろ、この寺にいるものは間もなく皆死ぬのだ。きさまらの、弥勒も……。」
夢心の言葉のあと、空から無数の妖怪が再び襲い掛かってきた。
「しまった……!」
犬夜叉は数珠で縛られているので鉄砕牙が使えないので、散魂鉄爪で対抗するにはもう力が残っていない。
かごめと珊瑚は壺使いを探しに行っている。七宝はまだ弱い。戦えるのは自分しかいない。
ぎゅっと黎明牙を握って立ち上がろうとしたその時だった。弥勒が風穴を開いた。
風穴は物凄い勢いで妖怪を吸い込んでいく。
「やめて弥勒!!!!」
「放せ、好きなおなごも守れないでどうする……っ!」
もはや悲鳴混じりで弥勒の右手に必死に縋り付いて、止めようとするが、弥勒はどこから出てくるのか、
強い力でを退かそうとする。と、そのとき
「この馬鹿!!」
犬夜叉が弥勒の右腕を強引に引っ張り、封印の数珠を巻きつけて風穴を封じた。
夢心から逃れてここまでこれたのだろう。弥勒の右腕から手を離し、夢心の安否なんて確認もせずに
力なく弥勒の横顔を見やる。自然と目からぼろぼろと涙がこぼれた。よかった、まだ生きている。
しかし、死期はかなり近づいた。
「この野郎!もう一度風穴開いたらこの腕へし折るからな!!」
「風穴が閉じたぞ、恐れるものは何もない。」
妖怪が再び襲かかってきた。
「てめえら……こっから先一歩も通さねえ!!」
犬夜叉が鉄砕牙を一振りすると、物凄い勢いですべての妖怪がなぎ倒された。
振った本人が一番呆然としている。鉄砕牙を信じられない、といったように見やる。
―――これが鉄砕牙の本当の力。一振りで百匹の妖怪をなぎ倒す。