そんなこんなで、水神の一件は無事解決。犬夜叉一行はもらうものはもらって、すぐに旅に出た。
現在はとある村で妖怪退治の最中であった。宿屋の軒下に巣食っているらしい、かごめは宿屋の裏側で
竹筒からもくもくと上がってくる煙を扇子ではたいて、軒下へと送っている。珊瑚曰く、匂いに耐え切れなくなった
妖怪が出てくるとか。そして匂いにやられている妖怪がここに二人。
「犬も猫も、匂いには敏感じゃからなあ。」
犬夜叉が地面に伏せて衣で鼻を押さえている。苦しそうな顔だ。
そしても犬夜叉ほどではないが、臭いにやれている。鼻をつまんで座り込み、ぐったりしている。
「うぐー、しっぽう……。このにおい、やらぁー……」
「大丈夫じゃ!おらがついてる!!」
弥勒の失踪
「大丈夫犬夜叉ー?」
「んー。」
妖怪退治も無事に終わり、珊瑚が宿屋の主にいろいろと説明している間に、すっかりは体調が
よくなった。犬夜叉はまだ辛そうで、床にぐたっと倒れている。
「そういえば弥勒がいないね?」
「知らない女についていったぞ。」
「なに?」
「美人じゃった。きっと、子供を産んでくれと頼んでるに違いない。というものがありながら最低じゃ。」
「何々、と法師様ってそういう関係なの?」
「違うよ。」
ぴしゃり言い放つ。相変わらず弥勒の矛盾した行動にはむかむかとする。
美人にはところ構わず「私の子を産んではくれませんか?」。かごめや珊瑚におさわりは日常茶飯事。
ところがにはそんなことを言ったりしないし、触ってきたりしない。別に望んでいるわけではないが、
なんとなく気になるだろう。好き、だなんて言っておきながらどうなのだろう、あれはデマカセだったのだろうか。
宿屋の主人が今夜の寝床を用意してくれたので、退治をした宿屋に泊まることになったのだが、
夜も更けたころ、ふらっと弥勒は帰ってきた。ちょうど晩御飯が運ばれてきた頃合いだった。
「あの……犬夜叉、さきほどからおなごたちの視線が冷たいのですが。」
「おめえが女ひっかけてきたからだろ。」
「ふっ……とんだ誤解ですな。信じてもらえないかもしれないですが――」
「信じられない。」
「嘘だね。」
「もう二度と口聞かないから。」
最後にいったの一言に、弥勒が、そんなあ。と情けない声を上げた。
この言葉、半分冗談ではあるが半分本気でもあった。
二度とというのは冗談であるが、しばらく口を聞きたくない気分ではあった。
そのまま弥勒と口をきかないまま、床に就いた。むかむかしていたがすぐに眠りについた。
翌朝犬夜叉にゆすられて起こされた。彼が言うにはどうやら弥勒がいないらしい。
宿屋の主人に話を聞くと、どうやら弥勒は夜明け前に旅に出たらしい。しばらく旅に出るのでよろしく。
との言付けまであったらしい。それがますますの怒りに火を注いだ。
(なんなのあのくそ法師、何も言わずに出てくって……もうほんっとに知らない。)
朝ご飯を食べて宿を出発して、次なるかけらを目指して旅を続ける。
その途中、七宝が「どう思う?」と口を切った。主語がなくともわかる。弥勒のことについてだ。
「さあ。」
がそっけなく言う。
「昨日が二度と口を聞かないといったからではないか?」
「ええ!?」
七宝の見解に、が素っ頓狂な声を上げる。自分のせいで出て行ったなんて、心外だ。
謝るならまだしも、当てつけかのように旅に出るなんて。
「けっ。あいつがそんなかわいらしい神経してるわけねーだろ、それより……」
犬夜叉が鉄砕牙を抜く。
「誰だ殺気から見張ってやがるのは!!」
すぐ隣の雑木林を鉄砕牙でなぎ倒す。すると雑木林に、あの狒狒の姿。――奈落だ。
その姿が一瞬皆の前に晒されると、奈落は雑木林の奥へと逃げていく。
犬夜叉と珊瑚が反射とも思えるスピードで追いかける。も慌ててかごめの自転車の荷台に乗って
追いかける。珊瑚が飛来骨を投げると後頭部にぶつかって、足止めをした。すかさず犬夜叉が切り裂く。
するとそれは、傀儡だった。
「どういうこと……。」
かごめが首をかしげる。
「ね、ねえ、弥勒さまってなんでいなくなっちゃったのかしら……。」
「どうしてって……。」
かごめが問うてきたので、犬夜叉が答えようとしたその時、
「あのう、犬夜叉様……。」
冥加がちらりと犬夜叉の襟元から顔をのぞかせた。
「なんだ冥加じじい、いたのか。」
「いたのです。あのですな、弥勒が手の風穴を見ながら深刻そうに考えておられましたのです。」
「―――ねえ、弥勒様を探そう。やっぱりなにかあったのよ。」
「………うん。探そ。」
探すなんて御免だと思っていた。だって向こうが出て行ったんだ。なぜこっちが探す必要がある?
―――でも、心配だった。心の底から心配だった。
会ったら文句を言ってやろう。ああでも二度と口を聞かないんだ。でも探そう。
この目で無事を確かめないと気が済まない。それになんだか、嫌な予感がするのだ。
しかし、夜が更けてもなお弥勒の消息はつかめなかった。
というよりは行く当てがなかったのだ。弥勒がどこで生まれ、どこで育ち、こういう時にどこに行くかなんて
誰も知らなかったのだ。あれだけ一緒にいたのに、弥勒のことを何も知らないのだと思い知った。
も分からなかった。そしてそれが心を痛めた。一番近くにいたと思っていたのに。
「全然心当たりないの?。」
追い打ちをかけるかのような珊瑚の問いに、は言葉を返せなかった。
そうだ、全然心当たりなんてない。何も知らない、弥勒のことなんて何も知らない。
ここにいるみんなと同じ程度のことしか知らないんだ。そのことが悔しかった。
みんなよりも弥勒のことを知っているつもりでいたのに、あくまでつもりだったようだ。
「ないや……。わたし、弥勒のことなんにも知らないんだ。」
(―――そっか、わたし、弥勒のことを誰よりも知ってたいんだ。)
「なんにしたって、俺たちを頼る気は一切ないってことだろ。」
犬夜叉が苛立ちを露わに言った。
仲間なのに頼ってくれなかったことに憤りを感じているんだろう。
犬夜叉らしい。
「でも、奈落の罠かもしれないのよ?ほっとくわけには……」
「だから!どこを探せってんだよ!!」
かごめの言葉に犬夜叉が言い返そうと振り返った時。
あそこ、とかごめが空を指さす。一同指のさす方へ目を向けると、月を背に細長い何かが何匹もの虫に
襲われているが見えた。
「助けてーーー!」
あれは、弥勒の友達の狸が変化した姿だ。
虫は奈落の毒虫。どういうことだ、弥勒の友達が奈落の手下に攻撃されている。
弥勒は奈落の罠にはめられた……?
の体を悪寒が奔った。