「急ごう、法師様、。かごめちゃんが心配だ。」
「大丈夫でしょう。犬夜叉がいます。」
「そうだね、たぶん安心していいと思う!」
「犬夜叉ってそんなに強いわけ?」
「まあ、細かいことを考えない分、強いですな。」
「犬夜叉っておおざっぱだもんね。」

おおざっぱというより、バカってことじゃないの?
珊瑚の言葉は、心の中だけにとどめておいた。
しばらく足場の悪い岩場を歩いていくと、封印の札の貼ってある岩山に行き当たった。

「ここかな?」
「誰かいるのか!?」

岩の中から声が聞こえてきた。若い女性の声だった。
いちはやく弥勒が反応し、岩に顔を近づける。

「若い女性の声、では水神様は女神さま……!」

はシラーっとした目で弥勒を見る。

「はよう札をはがして、わらわをここから出せ。」
「はい、ただいま!」

いつもより三割増しくらいのきりっとした声で言い放ち、札をはがすと、岩間からまばゆい光が漏れて
思わず目をつぶる。次の瞬間には岩ががらがらと崩れ落ちて、道が開けた。

「これが水神様!……ん?」

は合掌して目をつぶっていたのだが、目を開けると水神が封印の札をはがしたことにより
開けた場所にたっていた。

「……なんだか小さいですな。」

ぽつり弥勒がつぶやいた。無理もない。
水神は10センチほどしか全長がなかった。




偽水神と水神と終結。




水神を連れてお社へと急ぐ。弥勒の手のひらにちょこんと載っている水神はなんというか、愛らしい。
やっとかごめのいるところにやってきたときには、かごめと七宝と太郎丸は橋の上から渦潮を眺めていた。

「かごめー!!」

声をかけると、深刻な顔をした三人が顔を上げた。

「下ろせ法師。」

言われた通り水神を下ろすと、水神は耳についたイヤリングをぽいっと水の中に投げこむ。
するとみるみるうちにイヤリングが投げ込まれたところのを基準に水が割れていった。
あらわになった水神と犬夜叉。水神はもはや蛇のような体になっていて、尻尾で犬夜叉をぐるぐるに
締め上げていた。偽水神が異変に気づいて見上げ、鉾をこちらに投げつけてきた。
鉾の当たった橋の部分が水泡となり、解けていった。

「いろいろと邪魔をしてくれましたがこれまでです。」

鉾を再び手にとり、偽水神がこちらをにらむ。は反射的に黎明牙を構えてもしもの時に備える。

「何をたわごと言ってるんだ!こっちには本物の水神様が――」
「寝てるわ!!」

珊瑚が勢いよく叫んだのだが、かごめがすかさず状況を伝える。どうやら力を使い果たしたらしい。

「なら退治するまでだよ!」

珊瑚と弥勒が立ち向かう。しかし水神の鉾に当たったら一発で終わってしまう。
偽水神が鉾で二人を突き刺そうと構えた時に、ぐい、っとしたから引っ張られる。次の瞬間には
上り詰めた犬夜叉が偽水神の体を自身の爪で裂く。

「ふっ体などいくら切り刻まれても痛くもかゆくもない。」

偽水神が空へと上昇していく。飛んでく重力で犬夜叉はあっという間に偽水神の後方へと
落ちていったがなんとかしがみつく。珊瑚は大きくなった雲母に跨り、それを追いかける。

「くたばりぞこないは引っ込んでな。あとはあたしがやる。こういう長いやつは、首を切り落とすんだよ。」

そういって珊瑚は飛来骨を投げつけるのだが、鉾にはじかれて戻ってくる。

「愚か者どもが……鉾の真の力を思い知らせてあげましょう。」

鉾を翳すと、無数の竜巻が発生した。この世の終わりのような光景だった。
その竜巻によって珊瑚は雲母から振り落とされた。その隙をついて偽水神が珊瑚に鉾を突き刺そうとした。

「やめて!!!!!!」
「珊瑚ちゃん!!!!」

もうだめだ、そう思ったその時、犬夜叉が間一髪偽水神の腕にしがみつき、抑えた。
そのまま珊瑚は落ちていき、雲母が器用に自分の体でキャッチした。

「どっから湧いて出たのさ!」
「お前がおとりになってる間に地道に上ってたんだよ。」
「お、おとりだと……!」

ちょっとむっとしたような顔をした珊瑚。

「観念しろ偽水神!」

犬夜叉が腕ごと鉾を奪い取った。

「おのれ……。」

鉾を奪われてもはや蛇の姿となった偽水神が、鉾を奪った犬夜叉の腕に食らいつく。

「ふっ本性が蛇じゃあ、取り返したって持てっこないだろ?悪あがきはやめな!!」

食われていないほうの腕で犬夜叉が強烈なげんこつを下した。
一瞬気を失った偽水神は、犬夜叉もろとも水の中に落ちていった。

「やった!でも、竜巻が収まらないよ!!」

がはらはらと竜巻と、かごめとを交互に見やる。

「竜巻を収めるなんぞ簡単なことじゃ。」

いつの間にか目覚めた水神が、かごめのてのひらの上で言った。

「どうすればいいのですか!!」
「鉾をわらわに。」
「……。犬夜叉ー!鉾を!!」

なお水上で偽水神と攻防を続けている犬夜叉に向かってかごめが叫ぶ。
犬夜叉は両手を使って偽水神の口を大きく開けると、その間から鉾を投げ飛ばす。
鉾は順調に飛んで行ったのだが、偽水神の尻尾が邪魔をして、一歩手前の水の中に落ちてしまった。
瞬時に太郎丸が水の中に潜り込んで、鉾を手に入れた。のだが、なお悪あがきをする水神の尻尾が
太郎丸に容赦なくぶつかって、太郎丸は気を失い、沈んでいく。は反射的に黎明牙を抜き取り、
橋を飛び立って偽水神の体を切り落とした。同時にも落ちていき、は水の中へと落ちた。

(太郎丸、助けなきゃ……!)

黎明牙を鞘に納めて、なんとか太郎丸を探し出そうと目を凝らし、見つけ出し、
そこまで泳いで太郎丸を抱きかかえる。しかし水面へ浮き出るすべを知らない
そのまま水の底まで落ちていく。

(助けて、誰か――)

そう思ったその時、誰かに抱きかかえられて、急速に上り詰めていく。

「まったく、無茶しやがって。」

まとわりついていた水の感じがなくなった。目を開けると、地上に戻ってこれたようだ。
犬夜叉が助けてくれたらしい。犬夜叉は鉾をかごめにわたした。
なんとなくだが、最初におぼれた時も犬夜叉が助けてくれたような気がした。おんなじ感覚がしたのだ。

「犬夜叉、ありがとう。」
「おう。ったりめーだ。」

かごめが水神に鉾を渡すと、水神は一瞬で大きくなった。
大きくなったといってもかごめより大きいくらいの人間的なサイズだ。

「雲切り!」

雲は見る見るうちに消えて行って、晴れ間がのぞいた。やっぱり本物の水神様だあ。
は思い、犬夜叉に抱きかかえられながら目をつぶって合掌した。