「生贄はお迎え船で水神のところに運ばれる。だから船を後をつけて、水神が生贄を食いに出てきたところをやっつける。いいな?」
「盗品じゃねーのかこれ。」
「いーじゃないですか。」
「よかーないでしょ。」
「何も知らずにもらったんだから無実だよね、うん!」
「聞いてるのか!!」

くるっと振り返ったのだが、犬夜叉、弥勒、かごめ、は何も聞いておらず、もらった品について
論議していた。

「ねえ、あんたどこの子?」

かごめが尋ねると、貴様らには関係なかろう。と悪態をついたので、犬夜叉がすっと近寄って、
げんこつを一つお見舞いした。

「言っとくけどな、まだ助けてやるとは言ってねーぞ。」
「えっ!」

子供がひどく焦った顔をした。ちょっと面白い。はニヤニヤと見守る。

「い、いそがんと、生贄どころか村が滅びるかもしれんのだぞ!あの生贄は……本当は……。」
「あんたもしかして、生贄になるはずの名主さんの子だったりして。」
「言われてみれば眉のあたりがそっくりですな。」
「横柄なところもなー。」
「あ、もうわたし、名主の子にしか見えないよ。」
「てことは、輿の中にいるのは替え玉?」

ついに観念して、子供はぽつりぽつりと真実を語りだした。

「おれは名主の跡取りで、太郎丸という。おやじのやつ、村の衆のときはこらえてくれ、なんて言っていたくせに、
 なのにいざ俺に白羽の矢がたったら……。俺に身を隠して、使用人の子を身代りにたてて。」

なんとなく話が読めてきた。子を想うがゆえに行動なのだろうが、その息子が、何とかしたいと思っているのだ。
なんとかするしかないだろう。




水神の社



太郎丸の用意した小さな船で、生贄をのせた船を追跡する。霧も深くなってきて、いよいよというときに、
鳥居が見えてきた。水神の住まうところももうすぐだろう。鳥居をくぐるとすぐにお社が現れた。
船着き場に船が見えないあたり、もう生贄はお社の中にいってしまったのだろうか。

「いかん!替え玉ということがばれてしまう前に助けなければ!!」

船着き場に近づくにつれて、門番が見えた。カニの手のようなものが、耳のあたりに生えている。
太郎丸が慌てて隠れるように言ったが、犬夜叉はふわりと飛び立って、門番が声を上げる前にこぶしで制した。
門を開けて、水神のお社をずんずんと侵攻していく。犬夜叉、弥勒、珊瑚が先頭に立って魚たちが擬人化した
ような不細工なものを倒して、とかごめと七宝はそのあとをついていく。魚たちの擬人化は気絶すると、
元の魚の姿に戻っていったので、進んできた道には着物だけが残って、魚たちはみな水の中に戻っていった。

そんなこんなですぐに水神のもとへたどり着いた。どうやら替え玉ということはばれてしまったみたいで、
替え玉の子の仮面をつかんで持ち上げていた。

「てめえがニセ水神か!」
「ん〜?」
「末吉!!」
「太郎丸様……っ?」

水神の目が太郎丸を捉えた。

「おや……汚いナリをしているが、お前名主の子ではないか。」
「末吉を離せ!代わりに俺を――」
「おい待て、お前なんのために俺たちを雇ったんだ?」

犬夜叉の言葉に、太郎丸は駆けだした足を止めて振り返った。
そうだ、水神をやっつけるために雇ったんだ、と自分が口にした言葉を思い出す。

「水神!てめえ本当は妖怪だろ!!本性をみせやがれ!!」

犬夜叉が鉄砕牙を抜いて斬りかかろうとするが、水神をまるで蛇のようにくねくねとした腕を伸ばして、
背後にある鉾を取って、それで対抗した。すると犬夜叉は弾き飛ばされて、ついでに鉄砕牙の変化も
解かれて、ただのぼろい刀になった。

「愚かな……。妖怪ごときの刀が我が神器”?の鉾”にかなうと思いますか。」
「なにをてめえ!!」
「待て犬夜叉!!」

弥勒が犬夜叉の前に躍り出て制する。

「これはまずい、見たところあれは本物の神器です。」
「それがどうした!」
「神器を持ってるっていうことは、妖怪じゃなくて本物の神様ってこと?」
「ひいい!」

かごめの言葉にが情けない悲鳴を上げる。

「けっ、ここまできてなにびびってやがる。こいつやってることは妖怪と同じじゃねえか!」
「ばかだね、神様ってのはへたな妖怪より始末が悪いんだよ。怒らせるとあとあと祟るんだから。」
「やめよう犬夜叉!祟りは本当にあるんだよ!神様は本当にいるんだよ!やだよー!!」

半べそをかきながら犬夜叉に抗議する。日頃から都合のいい時だけ神を信じているだが、
祟りや呪い、そういった類に恐れを抱いている。これで祟られたらたまったもんじゃない。
とりあえずみんな土下座して、和解の道を図るべきだ。まだ間に合うはず。

「もう遅い。」

もう遅かったみたいだ。

「我が神域を汚した罪は重いですよ。」
「おもしれえ!ばちでも与えようってか!!」
「もうやめて犬夜叉あああ!何も面白くない!!!」

水神が鉾で床を一突きすると、急に目の前が水であふれた。慌てて鼻をつまんで辺りを確認するが、
水の中にいるらしかった。どうしよう泳げない。どうしよう、死ぬ、やだ、なんて思っていると、誰かに後ろから
抱きしめられる。そこで記憶が途切れた。



「――――、起きたか!」

その声でふわっと意識が元に戻った。視界には犬夜叉、弥勒、珊瑚がいて、ほっとした。
息ができているあたり、地上に戻れたみたいだ。

「よし……じゃあ俺はかごめを助けに行ってくる。本物の水神のほうを頼んだぜ!
 に怪我させたらただじゃおかねえからな!!」

そう言い残して犬夜叉は視界から消え去った。

「犬夜叉って、に対して過保護すぎじゃないか?」
「ねえ、状況……どういう感じ?」

むくり起き上がって尋ねると、珊瑚が簡単に説明してくれた。
あの水神は偽物で、もともと湖に住む精霊だったのだが、水神をだまして、岩に幽閉すると、
雷の鉾を奪って水神になり替わったらしい。
精霊だろうと、神器を持てば力は神と同じ。そこで弥勒と珊瑚は本物の水神を救い出そうとしているらしかった。

それから水神は生贄である太郎丸だけを水上にあげようとしているらしく、
太郎丸は水上へと吸い寄せられていったのだが太郎丸を抱きしめていたかごめまで一緒に
水上へ行ってしまったらしい。それを助けに犬夜叉は向かったのだった。

「なるほど……わかりました。じゃあ、水神様を助けに行こう!!」

三人は水神の封印されている岩へと向かった。