「ふー、お城みたいな大きいものでも探してみるとないものねえ。」

珊瑚の傷が癒えてきたところで、その退治屋たちが呼ばれたという城を探しに退治屋の里を出た。
のだが、探せど探せどお城は見当たらない。今は山頂にやってきて、ぐるりと周辺を見下ろしていたのだが、
やはり見当たらない。かごめが唇を尖らせた。

「手がかりなしですからな。」
「でもおかしいよね、山頂に来ても見当たらないなんて。」

は七宝を抱きしめながら、ひょこっと寄ってきた雲母をしゃがみ込んで撫でまわす。
雲母は猫又の妖怪で、も化け猫の妖怪。同じネコ科同士惹かれるものがあるのかわからないが、
になついている。とても可愛い。小っちゃくて可愛いものは大好きだ。

「珊瑚、ちょっとくらい覚えてねえのか?」

犬夜叉が尋ねると、珊瑚はむっと眉を寄せる。

「だから、覚えてれば今頃とって返して奈落の首とっているってば。」
「……城探しはあきらめますか。」
「えっ!?あきらめるの!?」
「あきらめてどうするんだよ。」

が素っ頓狂な声を上げたのに対して、犬夜叉は冷静に問いかける。

「四魂のかけらを集めましょう。集めてさえいれば、いずれ奈落のほうから私たちのかけらを狙ってやってきます。」
「ふむふむ。」

すると今までの隣にいた弥勒がふらっと珊瑚のほうへと向かう。

「珊瑚も……それでいいですか?」

岩に座っている珊瑚の前に跪く。

「一刻も早く仇を討ちたいだろうが……。」
「うん。悔しいけど……。」
「わかります、おまえの気持ち。」

犬夜叉とかごめと目を合わせる。

「法師さま……なんで話しながら撫でまわすの?」
「あのスケベ野郎、やっぱり狙ってやがったのか。」
「珊瑚ちゃんのけがが治るまで我慢してたのよ。」
「くそ野郎だね、くそ野郎。七宝はあんな大人になっちゃだめだよ。」

は抱えている七宝にそう囁きかけた。

「おら、絶対に弥勒や犬夜叉のようにはならん!」
「あん!?」
「ひゃあ!ー!!」
「小っちゃい子に手を上げない!!」

七宝を抱きかかえながら、きっと眉を吊り上げて犬夜叉を制した。
犬夜叉の七宝に拳骨を喰らわせるために振りかぶった手が空中で宙ぶらりんになる。
おすわり並みのの言葉の効力に、犬夜叉はばつの悪い顔をした。




水神にたたられし村




「ああ……生贄の輿が通る。」
「今度の大水はひどかったからな。」

降参を表す白旗を輿の前後に配置し、行列をなして道を歩いていく。

「今度はどこの子だ?」
「なんでもとうとう名主様のとこに、水神様の白羽の矢が立ったそうだ。」
「……そうだべなあ。」
「村で十歳の子供は、あらかた生贄に差し出されてしまっとる。」

こんな村人たちの会話を盗み聞きしていた犬夜叉一行。

「水神様だって……神様がいらっしゃるんだ。」
「でも生贄って……。」

神様という存在にが目を丸くする。が、かごめのいうとおり、神が生贄を取るとは。

「名主様おいたわしい……。」
「何を言うか、村を水神様のたたりから守るため。我が子を差し出すのは当然のことじゃ。」

眉がきりっとした名主が悲しそうに目を伏せた。

「水神とか言ってよー。実は変な妖怪じゃねえの?」

犬夜叉が口をはさむ。

「なんじゃこいつ!?」
「怪しいものではございません。お話は伺いました。」

こういうときに袈裟をまとった弥勒は初対面で人の信頼をつかむのに適している。

「よろしければお祓いをいたしましょう。」
「えっ、そんなことできるだかね、法師様?」
「皆の衆惑わされるな!!インチキにきまっとる!!」
「で、でも名主様……話だけでも。」
「ふん。こんな胡散臭い連中に頼って、水神様のお怒りに触れでもしたら、それこそ村は滅ぼされてしまうぞ。
 そうでなくとも、わしの子の番にかぎってお祓いにすがるなど、今まで生贄になった村の子供たちに合わす
 顔がないわ!!」

なんて人間ができてる人なんだろう。そう思ったのはだけだったのはのちに明らかになる。
ふと、輿の中から騒ぎが聞こえてきたのか、生贄の子が顔をのぞかせた。

「こだま!!!」

その姿が日本の有名なアニメーション映画に出てくるキャラクターにそっくりだったため、
思わずは叫んでしまった。

「行くぞ皆の衆!日暮れ前に湖のお堂にお届けするんじゃ!!」

生贄の輿を運ぶ一行は、せっせか湖へ向かって歩いて行った。



その日の夜、結局屋根のあるところへたどり着けず、野宿をすることになった。

「おかしいよあの名主。まるで自分の子を生贄にしたがってるみたいな……。」

えっ、そうかな?
が反論しようとしたが、弥勒が続けざまに「思いっきり迷惑そうでしたなー。」
といったので、すぐに反論をしまいこんだ。

「あの……変なこと言うようだけど、あの輿の中……なんか変なものが……。」
「ああ、こだま!」
「お面でしょ。」

興奮気味のとは正反対に、珊瑚はけろっといった。

「生贄の儀式の一つでしょう。」
「あ、なんだ。」
「へえ……勉強になるね。」
「で、どうする。放っとくか?」

犬夜叉が石を投げてもてあそんでいたのだが、それをひゅっと茂みに投げつける。
すると茂みから「あでっ!」という悲鳴が聞こえてきた。

「なんだてめえ、さっきからおれたちの跡をつけてたろ。」

藁をかぶっている人物が茂みから現れて、おもむろに何かを投げつける。
するとそこからは、お金だとか、茶器だとか、様々値の張るようなものが出てきた。

「拾え!くれてやる!!」

藁を脱ぎ捨てたらそこには少年がいた。

「ほお、これはなかなか高級な。」
「この反物も値が張るよ。」

弥勒と珊瑚が拾い上げて品定めをする。

「拾ったな。よし。貴様らを雇ってやる。俺と一緒に水神を退治するんだ。」

堂々言い放った少年を、犬夜叉がじーっと見つめる。なんだか嫌な予感がする。
するとその予感はすぐに的中した。犬夜叉は何も言わずにげんこつを喰らわせる。
何度も何度も。

「こら、相手は子供よ!」
「どっちが偉いかはっきりさせねえとな。」
「お前嘘でもあやまっておけ、犬夜叉は性格がこどもなんじゃ。」
「小っちゃい子に手を上げない!!」

が子供を抱き寄せて、昼間同様きっとにらんだ。やはりひるむ犬夜叉。

「ちびっこの味方、!」

睨みながらしれっと言い放った。