話も終わり、鍾乳洞から立ち去ることにした。

「私が気づいてないと思いましたか?」
「え?」

相変わらず手は繋がれたままで、唐突にそう言われた。

「ずっと袈裟の裾をつかんでいるの、気づいていましたってことです。」

なんだか恥ずかしくて、顔に熱が集中する。手を振りほどこうとしたのだが、強く握られているため
ほどけない。どうしよう、このままでは周りのみんなに気づかれてしまう。

「放してよ。」
「いやです。」
「いいから離してって。」

とはいうものの、ここで離されても、まだ暗くて恐ろしい鍾乳洞の中だ。
本当にここで離されたら再び自分から繋いでしまいそうだ。
そう思っていたら、手は惜しげもなくぱっと離された。まるで心を見透かされているかのようだ。
しかし思い通りにはいかせないぞ、と思い離された手を繋ぎなおすことはせず、自分の両手を祈るように組む。

「そうきましたか。」
「意地悪男。性悪男。スケベ。変態。」
「……物凄い言われようですね。」

本当は怖いけど、本当は今すぐにでもすがりつきたいが、プライドが許さなかった。
しかしたまには弥勒の思惑通りにならないのもいいだろう。
そんなことを思いながら鍾乳洞を出た。新鮮な空気を久しぶりに吸ってすがすがしい気分になる。




ふたりの夜




その日の夜、ご飯を食べて皆が寝静まった頃、むくりと起き上がる。犬夜叉は壁にもたれかかって
目をつぶっている。犬夜叉、と小さく声をかけると、耳をぴくりと動かして、うっすらと目を開けた。

「どした?ねれねーのか??」
「うん……ねえ、お話しない?」
「お、おう、いいぜ。どっかいくか?」
「うん、いこいこ。」

起き上がって犬夜叉と寝泊まりしている家を抜ける。
ちょっと歩いて、見張りやぐらのある小高い丘らへんで腰掛ける。

「どうしたんでい、なんかあったのか?あのミイラが怖かったか?」
「わ、あの映像忘れかけてたのに今ので思い出した!もー。」
「怖くてますます寝れなくなったな。」

寝付くまでそばにいて?
犬夜叉の頭の中のが、犬夜叉にいう。いわゆる妄想を犬夜叉は咄嗟にしてしまった。
そんな自分に羞恥の念を抱く。

「まったくもう……。ね、犬夜叉、あのさ、こないだ、わたしが暴走したら止めてって言ったでしょ?」
「おう。」
「聞いてもらってもいい?悩み。」
「おう……なんでもいえよ。」

犬夜叉って見かけによらず、包み込んでくれるような優しさがあるよなあ。なんて思う。
そしてこんなところが、桔梗は、かごめは、好きなんだろうな。とも思った。

「わたしさ、自分の力がすごく怖くなっちゃったの。暴走して誰かのことを傷つけちゃうかもしれないと
 思うと本当に怖いんだ……。これがわたしの悩み。もらってくれる?」

の悩み、全部くれよ。全部がだめなら半分くれよ。そうやって犬夜叉がいってくれたので、
それに被せてそんなことをいう。

「もちろんだぜ。もらっていいのか?俺でいいのか??」
「うん犬夜叉、もらって。なんて、いいものでもないけどね。」
「んなことねえよ!本当嬉しいぜ!」

悩みなんてもらっても、嬉しいわけないのに犬夜叉は本当にうれしそうに言う。
それに犬夜叉は人に気を使って嘘をつくようなやからではない。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
けどたまに素直じゃない。そんな半妖。だから本当にうれしいのだろうか。本当にかわいいやつだなあ、と
は胸がちぢこまるのを感じた。

「俺が絶対を守るから、誓う。が誰かを傷つけそうになったとき、俺が止める。誰も傷つけさせねえよ。」
「ひひひっ、ありがとう犬夜叉。ほんとに好きだなあ。」
「へ!?!?」
「わあー星がきれいだなあ……。」

見上げれば満天の星。犬夜叉はの横顔を見て、ふっとほほ笑む。
とても幸せそうに夜空を見上げるの邪魔をするよりも、いまはその横顔を見ていようと思った。
―――のだが。

「あっ!そういや今朝俺に、浮気者っていってたよな?なんでだよ、俺浮気者じゃねえぞ!」

急に今朝方、に唐突に浮気者と言われたことを思い出して、反射的に言ってしまった。

「へ?……ああ、だって犬夜叉浮気者じゃん。」
「だからなんでだよ!」
「ええ……そんなのわたしの口からは言えないよ。」

なんだか桔梗の名を出すのは気が引けて、口を手でふさいで、これ以上何もしゃべりませんよアピールをする。

「ぐっ……教えろよ!」

首を横に振る。

「俺はだなあ!浮気なんかしてねえぞ!!」
「ふふふ。」
「けっ!なんもわかってねえな。」
「まあでも、ちゃんと一人に絞りなよ?」
「だからーなんで何人もいる前提なんでい。いねえっつうの。」
「そうー?ならいいんだけどさ??ねえねえ、流れ星こないかなあーお願い事したいね!」
「流れ星?お願い事ー?なんじゃそりゃ。」

いっそのことこの気持ちをぶつけたら、はどんな顔をするんだろう。
そんなことを考えたけれど、犬夜叉は結局何も言わなかった。がそばにいる。それだけで今はいい。
すべてが終わって、そしたらぶつけたい。そんなことを思いながら、二人の時間を楽しんだ。