夢の中で再び、と出会った。憂いを帯びた、麗人。
彼の笑顔は、見るとなんでかほっとするものだった。
「……。」
『こんばんは。――今日は、強い思いがあって、私とは夢の中で会うことができました。』
「わたしの……ですよね。」
どうやら無意識にを求めていたようだ。
『ええ。話して御覧なさい。』
わたしの心配していることは、だからこそ話せること、なのかもしれない。
「……わたしは、自分の中にある力が怖くなりました。今までは、なんていうか、力があるということを
誇らしく思っていました。この時代では力が必要……そしてわたしは、それを持っている。」
力あるものが生き、力なきものは死ぬ。
妖怪を相手にしていると猶更そうだ。
「でも、今回弥勒が死んだと思ったとき、自分の中の理性が壊れてしまいました。弥勒を殺したやつを
絶対に許さない、殺してやる。きっとそんなことを考えていたと思うんですけど、その時はそんなこと考える
隙なんてひとつもありませんでした。大きな力は、それだけ周りに大きな影響を及ぼします。それを
今回痛感しました。わたしの中にある力は、あまりに大きすぎて、それをわたしはまだコントロールできない。」
両掌を見つめる。
強い力を持つ者は、強い心が必要だ。そして、その強い力の及ぼす影響もきちんと理解しなければならない。
そしてなにより、それをコントロールできなければいけない。
わたしにそれはまだ備わっていないようだ。
『こんとろーる……?』
はて?といったような顔をした。
そうか、現代では日常的に使われている英語もこの時代では通用しないのだ。
「あっ、なんていうか、うまく自分の思うように操ることを、コントロールといいます。」
『ほう……は物知りですね。勉強になります。そうですね、はまだ、こんとろーるとやらをできていませんね。』
「今回は怒りの矛先が、敵だったからよかったです。けれどこれが何かの間違いで、わたしの大切な人に
向いてしまったら。そう思うと、怖いんです。」
『でもね、自制はなんとか自分で身に着けるしかないのです。怒りや、悲しみに負けぬ強い心を。
力になれなくてごめんね……。』
悲しそうに微笑んだ。
『でも、には力になってくれる仲間がいます。犬夜叉も言ってくれましたね、あなたを守ると。
にはまだ、こんとろーるがありません。でも、それをなんとかしてくれる仲間がいます。
迷惑はかけるかもしれませんが、けれど、いつの日かこんとろーるできる日が来ましょう。』
「仲間が……。」
―――は俺が守る、大丈夫だ。なんも心配はいらねえ。
犬夜叉が言ってくれた言葉。思い出すと、再び心にじーんと響き渡る。悩んでいることを、相談してみよう。
そして、力を貸してもらおう。
「ありがとうございます。」
『いいえ。本当なら私が力になりたかったのですが……。』
拗ねたように眉を寄せた。そんな様子が愛らしくて、少し笑ってしまった。
『?どうかしましたか??』
「ふふ、いいえ。ほんとありがとう。なんか、ちょっとほっとしました……。」
『ならよかった。それではそろそろ時間ですね、また会いましょう。』
愛の張り合い
退治屋の里にて十日が経った。珊瑚はいまだ絶対安静の状態で、暇を持て余した犬夜叉はせっせか
里の瓦礫を取り払っていて、と弥勒は川に水を汲みに行こうとしたのだが、犬夜叉もなぜだかやってきた。
そして水汲みついでに顔を洗おうと思っていたので、ひとまず顔を洗う。
なんともすがすがしい気持ちになった。
「もう十日だねえ、わたしならあんだけ傷を負ったら三か月くらいかかるんだろうなあ……。」
「俺ならあんな傷三日で治るぞ。」
「私ならひと月は寝込みます。」
「犬夜叉の常識でモノを測ってたら大変なことになるね。」
はタオルで顔を拭いたのち、くすっと笑った。
「珊瑚さん、どうするんだろうね。この村はもう暮らしてはいけないだろうし……。一緒にくるかな?」
「それがいいのではないでしょうか。おなごが増えれば華やかさも増えましょう。」
「あーそうだねーはは。犬夜叉、かえろっか。」
「おう。」
「待ってください!冗談です!!」
立ち上がって踵を返そうとしたところで、弥勒に手首をつかまれた。
「おいてめえ弥勒、に触れるんじゃねえ。」
「なんですか、は犬夜叉のものではないのですから、とやかく言われる筋合いはありませんな。」
反対の手首を犬夜叉につかまれて、ばちばちと二人は火花を散らしている。
あら、あらあら、とは首をかしげる。
こんな漫画のような展開、なかなかオイシイ。二人とも中身はどうであれ、外見はイケメンの部類に入るだろう。
弥勒を見る、優顔の、綺麗な顔。犬夜叉を見る、ワイルドな男らしい顔。
こんな二人が同じクラスにいたら、きっと見惚れてしまう。そんな人たちに、取り合いみたいなことをされるとは。
「そ、そんな見つめんじゃねえよ……!」
犬夜叉が恥ずかしそうな、しかし嬉しそうな、そんな顔でから目をそらす。
可愛いなあ、と素直に思う。
「、犬夜叉に惚れているのですか……!」
弥勒が物凄いショックを受けたような顔をした。なんとまあ見当違いなことを言い出すのやら。
「違います。」
きっぱり言い放てば、犬夜叉は一気に暗い顔をして脱力した。よくわからない男だなあとは思う。
桔梗を想っていて、かごめを求めていて、その上の愛情までも欲するとは。
「犬夜叉ったら不届き者だね、浮気者。」
「は!?なんのことだ!?」
「言葉の通りだよ、弥勒のこと言えないんだからね。」
弥勒は所謂オープンチャラい。犬夜叉はいうなれば隠れチャラいといったところか。
「俺は浮気なんてしてないぞ!大体誰ともそういう関係じゃねえし、今は!」
「はいはい。さ、水くんでかえろっか。」
二人の手をぱっと振り払って、水を汲んでその手に桶を持たせる。
「さ、ちゃっちゃといきましょ。」
が先頭を切って歩き出した。
その後ろで弥勒が勝ち誇ったような、犬夜叉が苦虫をかみつぶしたような顔でにらみ合っているのをは
知らない。