退治屋を呼び出したという城へ乗り込もうとしたのだが、どうやら珊瑚は何も覚えていないようだった。
城の場所も、退治屋を呼んだ怪しげな若殿の場所も。なので、いったん退治屋の里に戻って、
珊瑚の治療をかごめの持ってきた救急セットで済ませる。すっかり寝込んだので、あとは時間が解決してくれるだろう。

というわけで、退治屋の里に帰還したその日の夕暮れ。
犬夜叉と弥勒は崩壊した里の後片付けを、かごめは付きっきりで珊瑚の面倒を見ていた。
はというと、里のはずれでぼんやりとたたずんでいた。

「はあ……。」

自分の手を眺める。
弥勒が自分をかばって死んだと思ったとき、自分の中の妖怪が、一気に自分の理性を食い尽くした。
それから、気づいたら刀を抜いて、奈落の下半身を斬っていた。

そんな自分が、怖かった。

怒りで自らをなくし、敵を傷つける。これがもし、妖怪になることだというならば、いずれ自分の
大切な人までも傷つけてしまうのではないのだろうか。いつの日か弥勒が犬夜叉に言っていたように。

(そんな風になっちゃうなら……妖怪になんかなりたくないよ。)

ギュッと自分の膝小僧を抱える。
自らの内に秘められた強大な力の恐ろしさが、無情にもに押し寄せる。

「こんなところにいたのか。」

ぱっと声のほうを見ると、犬夜叉だった。夕日に彩られ、彼の綺麗な銀髪が夕日色に染められていた。

「犬夜叉、どうかした?」
「おめーがいないからよ、探したんだ。」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。」
「そうか。」

すとん、と犬夜叉も横に腰掛けた。
それきり何も言わない犬夜叉。きっと彼は、が何を考えているかを見透かしている。
それに気づいて、急に、彼にすべてを打ち明けたくなった。

「犬夜叉―――」

けれど、名を呼んだところで、これまた急にそれが怖くなった。
なので名を呼んだはいいが、それきり黙ってしまった。

「なんだよ?」
「んーと……なんでもない。」
「な!なんだよ!」

まさかここでなんでもないといわれるとは思わなかったのだろう。
犬夜叉が、がっかりしたように言った。
悩みにもいろいろと種類があるが、いざとなるというのが怖くなってしまう、そんな種類の悩みも存在する。
今の悩みはそれで、悩みを打ち明けるには、少し勇気がいった。

「もしも……もし、わたしが暴走したら、そのときは犬夜叉、犬夜叉がわたしを止めて。」

真っ直ぐと犬夜叉を見る。
悩みは打ち明けられなかったが、恐れていることを遠回しに打ち明けた。

は俺が守る。大丈夫だ、何の心配もいらねえ。」

犬夜叉も真っ直ぐとを見返した。
実に頼りがいのある、どこまでも真っ直ぐな瞳だ。

の悩み、全部くれよ。全部がだめなら半分くれよ。俺、の悩み、ほしいんだ。」

ふいに、涙がこみ上げてきた。

「おっおい泣くな!!」

突然の涙に狼狽えた犬夜叉が、わたわたとどうしようか迷っている。
犬夜叉なりにの力になろうとしている。それが嬉しかった。
自分は自分で、本当はいろいろ抱えてくせに、の分まで抱えようとしてくれるなんて、なんていい人なのだろう。

「……なぜが泣いてるんだ、てめえ。」

顔を上げると、弥勒がすごい顔で犬夜叉を見下ろしていた。

「あっ!?俺じゃねえよ!」
「いいから退きなさい。俺がを慰めるから。」
「うるせーお前はどっかいけ!!」
「あん?のこと泣かせといてなんつーこといいやがる。」
「だから俺は泣かせてねえ!でも俺がの話を聞くから、てめーはどっかいけ!!」
「……ふふっ、ありがとう。ふたりとも大好き。」

二人の会話を聞いてたら、なんだか悩んでることがばかばかしくなって、涙はすぐに引いて、笑顔になれた。
犬夜叉と弥勒は顔を合わせて、次の瞬間にはふっとほほ笑み合った。

「ふたりとも最高だよ、もう、ありがとう。」

ごしごしと涙を拭いて、二人に抱き着いた。

……。(くそ、本当に犬夜叉どっかにいってくれねえかな。独占したい。)」
「……。(邪魔くせーな弥勒。さっきまで俺と二人っきりだったのによ。)」
「(こんないい人たちと、仲間でほんとよかったよ。)」

それぞれがそれぞれの想いを抱いた。




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