黎明牙で奈落の体を切り裂いていき、その切り裂いた肉片を足場に、本体へと器用に飛んで
上り詰めていっているところだった。
「!!!」
弥勒の声が聞こえた。
その声だけがすっと耳に入ってきて、はバランスを崩してそのまま地面へ落ちた。
「弥勒の声……?」
すかさず立ち上がり、声のしたほうへ走っていく。
そのに襲い掛かろうとする奈落の手を犬夜叉が斬りかかる。
「!わたしは生きています!!」
「弥勒……!よかった……!!」
弥勒のそばで泣き崩れる。本当によかったと、安堵が心を包み込む。
自分のために弥勒が死んだら、きっと後悔ばかりが残る。寧ろ弥勒が死ぬなんて、どんな理由であれ
いやだ。生きていてくれて本当によかった。
「すまんな。」
頭を撫でられて、弥勒の胸元へぐっと持っていかれた。
ぬくもりが感じられて、確かに生きていることを感じられた。
「犬夜叉……生きていたのか。珊瑚は貴様を仕留め損ねたのだな。」
「奈落、てめえだな!妖怪を退治屋の里に差し向けて全滅させたのは!」
犬夜叉の声に、は弥勒からそっと離れて奈落と犬夜叉の会話に耳を傾ける。
「ふっ。わしはただ、妖怪たちに”退治屋の手練れたちは城に呼ばれて、守りが手薄だ。”と伝えただけ。」
「里にある四魂のかけらが狙いだったのか?」
「ほう、よく知っているな、そう、あれだけの騒ぎのなか、とるのは簡単だった。」
「それだけのために……なんてことするの!」
もはや奈落には怒りしか抱けない。
「城の妖怪は……あれも罠だったのか!!」
声のしたほうを向くと、遠くにかごめと珊瑚がいて、声を発したのは珊瑚だった。
遠目からでもわかるくらい珊瑚の体はボロボロだった。
「むろん、貴様ら退治屋を呼び出すための口実。そしてそのあと邪魔になる退治屋どもを始末するため……。」
「……っ!!貴様あ!!!!」
珊瑚が飛来骨とともに飛び出した。血が彼女の全身から滴り落ちる。血の臭いがの鼻にまで届く。
しかし、勢いよく飛び出したからか、彼女の背から四魂のかけらが出てしまった。
途端、地面の崩れ落ちる珊瑚。
「畜生……!」
四魂のかけらで痛みを止めていたのか、珊瑚は痛みに顔を顰めて動けずにいた。
すかさずかごめが珊瑚を支えようとする。
「ふっ。犬夜叉を仇だと信じて討ち果たして満足しながら死にゆけばよかったものを……。」
の頭に、桔梗と犬夜叉の末路がよぎる。
犬夜叉に成りすまし桔梗を傷つけ、犬夜叉を憎みながら死んでいった桔梗。
急に桔梗に矢を射られ、裏切られたと思いながら封印された犬夜叉。
悲しすぎる、二人の結末。
「てめえはいつもそうやって!人の心を……!」
犬夜叉が奈落のもとに飛んでいく。
「どうした犬夜叉。桔梗でも思い出したか。」
「黙れこの外道が!!」
奈落の首を、鉄砕牙で切り落とした。
終結
「なんだか……あっけない気がするな。これが、奈落なの?」
犬夜叉の隣に赴いて、ともに奈落の頭を眺める。本当にこれが奈落なのだろうか。
ただ賢い妖怪、というだけではここまでできないと思うのだが、それでもここで果てたのだろうか。
「……わからねえ。でも、ツラをおがませてもらうぜ。」
奈落の鼻から上を覆っていた獣の面をはがすと、そこには何もなかった。鼻から下の顔しか存在していなかったのだ。
何か可笑しい。と、そのとき、何かが動く音がして振り返ると、奈落の下半身が再び形成されていた。もちろん顔はない。
すかさず奈落の下半身がと犬夜叉のもとへ物凄い勢いで襲い掛かる。
犬夜叉はを抱きしめてその場から飛び退く。
「くくく、わしは死なぬ。」
着地したところで犬夜叉から離れて様子をうかがうと、首のほうも、生きている。
「首も生きている……!どういうこと?」
「意味がわかんねえ!!」
襲い掛かってくる奈落の下半身。は犬夜叉に正面を、弥勒に背後を守られる。
鉄砕牙で斬り、錫杖で切断するが、いくら斬ってもやはり再びくっついて、永遠に襲い掛かってくる。
「そうか、胸を狙え!!」
「おのれ、気づきおったか……。」
珊瑚の声に、犬夜叉が飛び立ち言われた通り奈落の核のような部分、胸に斬りかかった。
すると急に奈落の下半身は、ぼろぼろと地面に落ちていき、首も、もはや首の形を成さず、地面に崩れていった。
奈落の跡には、人形がぽつんとあった。それを弥勒は拾い上げた。
「髪の毛が結んであります……。これは傀儡の術。この髪はおそらく奈落のもの。我々が戦っていたのは偽物の
奈落。おそらく本物の奈落は今頃安全な場所でこいつを操っているのでしょう。」
「どうりで……呆気がなかったわけだね。なんだよ、傀儡って……正々堂々戦え!!」
がここにはいない奈落に悪態をつく。
「あーむしゃくしゃする!奈落むかつく!!!次会ったらただじゃおかない!!」
「そうだな。とにかく……無事でよかったぜ。」
犬夜叉がほっとしたような顔をした。