かごめは模試のため現代へ戻り、残った犬夜叉一行は、かごめの不在ではあるが
四魂のかけら探しをすることになった。
犬夜叉と弥勒がの両隣りを歩き、楓の村周辺をふらふらと歩きながら、
かごめが帰ってくるまで暇を潰していた。(犬夜叉に言わせれば四魂のかけら探し)
「犬夜叉、ほんとに休まなくていいの?」
「ちっと腕が痛いだけでい」
人間では骨が折れたのに、妖怪では腕が痛い程度なのだから、
やはり身体の差は歴然だった。桃果人が妖怪にあこがれるのも少し、わかる気がした。
そのために人を殺したことは理解できないが。
「でもほんとに無事でよかった……」
「ったりめーだろっつーの。」
「、私がもし死にかけたらあのように泣いてくれますか?」
「縁起でもないこと言わないでよ。」
じろりと睨むが、弥勒はニコニコと微笑み「嬉しいな〜が私のために泣いてくれるなんて。」
とへらへらしている。
「おい、」
弥勒から視線をスライドさせて犬夜叉に向けると、彼はまっすぐ前を向いていた。
「その……ありがとよ、俺のために、泣いてくれて。」
ちらりとに視線をやった犬夜叉はまぎれもなく照れていて、
なんだか可愛くて、は胸がキュンと締め付けられた。
「……いま犬夜叉に一瞬心を持ってかれましたね?」
この世の終わりを目の当たりにしたような顔で弥勒が言ったので、
いい気味だと思い「うん。」と笑った。すると犬夜叉がすごい勢いでを見た。
「ほんとうか?!」
「えっ、う……ん?」
「じゃあ……俺のことを――――」
「、前方に蛇が。」
「うそっ!?やだ、助けて!!」
犬夜叉の言葉を聞く前にすぐさま弥勒にしがみついてぎゅっと目をつぶる。
「蛇なんていねぇじゃねえか。」
「え?」
弥勒から離れて前方を見ると、確かに何もなかった。
「……?どういうこと、弥勒。」
「冗談というものです。をからかってみました。」
「はああ!?ゆ、許せない!」
「きっとがしがみついてきてくれると思ったので、つい出来心で。」
「次やったら絶交だからね。」
「おおそれは怖い。では今後はやりません。」
弥勒の策略はがしがみついてくることともう一つ、
犬夜叉の言葉をさえぎるためであった。そのことに気付いていた犬夜叉は
不機嫌そうに睨み「このくそアマが……。」と目で言う。すると弥勒も口角を釣り上げて
なんとも悪者っぽい笑顔で「させるかよ。」と目で言った。
彼らよりも背の低いはそのやりとりに気付くことなく、前方の景色に何かしらの面白さを探していた。
結局、四魂のかけらの気配を感じられないたちに探し出せるわけもなく、何も見つからず散策を終えた。
今は夜で、野宿の最中であった。
「ところで犬夜叉、四魂のかけらをすべて集めたらどうするつもりです?」
先ほど弥勒が生け捕りにした魚を火で炙っていたとき、不意に弥勒が犬夜叉に問うた。
「妖怪になりてえに決まってるじゃねえか。」
「はあ……そんなもんですか。」
桃果人の一件のあとであるが、犬夜叉の意思は変わらないようだった。は心の中で少し落胆した。
「弱くちゃなんにも出来ねえからな。」
「でもいまのままでも十分強いと思うんだけどな。半妖のままでいい、に一票。」
「人間になっちまったらおしまいだ。」
自分の意見を容赦なく切り捨てられ、少し落ち込む。
「桃果人には人間のままで勝ったではないか。それではいけないか?」
「てめえ、俺がどれだけ苦労したか……」
「やっぱりいけませんか。」
正直なところそこまで力にこだわる犬夜叉の気持ちがにはよくわからなかった。
彼は十分強い。人間になってしまったってそれはゆるぎない。なのになぜそこまで力を欲するのか。
「―――しかし犬夜叉、おまえが四魂の玉の力で妖怪になっても、おまえはおまえのままでいられるでしょうか。」
「どういうことでい。」
「犬夜叉、お前、四魂のかけらの妖力を使っていいことをしているものを見たことがありますか?」
「ねえよ。」
「私は思うのです。四魂のかけらで妖力を得たものは引き換えに心を失うのだと。」
なるほど、と納得した。
それは現代の社会でも言えることで、大きすぎる力は心を欲にまみれさせてしまう。たとえばお金、たとえば権力。
「けっ、俺は別にいい妖怪になろうなんて言った覚えはねえぞ。」
「だがお前はかごめさまを、そしてを守りたいと思っている。そのためには力がほしい。しかし」
風が吹いて、火を揺らした。
「四魂の玉を使って妖怪になったお前は、やかごめさまを喰い殺すかもしれません。」
ぞわりと悪寒がしたのは弥勒の言葉か、犬夜叉に向けられている真剣なまなざしか、
それとも妖怪となった犬夜叉に殺される自分が頭に浮かんだからか、あるいはその全部か。
にはわからなかった。
「けっ。」
犬夜叉は決まりが悪そうに視線をそらした。
「………あ、魚が焼けたみたい。」
でも、きっと。
妖怪になったって変わらないものだって あるよね。
変わらないもの