「けっ、こいつが人間だったって!?笑わせんな!」
「人間が妖怪化することもあるのです。」

弥勒が言う。

「この男、よほど邪念が強かったのでしょう。」
「ごちゃごちゃうるせえな……俺はただ、強くなりたかっただけだよ!」

桃果人は手に持っていた杖を振ると、とげとげとした堅い根のようなものが地面から現われて
、犬夜叉とかごめに襲いかかる。犬夜叉はかごめを抱きすくめ庇いながら飛びのくが、
背中にとげを受けてしまい耐えがたい痛みが犬夜叉を襲った。犬夜叉とかごめは倒れこみ、
その拍子にチビッコ組は吹っ飛び、思い切り地面に落ちてしまった。

「いっ!!」
「だ、だいじょうぶか?」
「オラの心配もしろ弥勒!」

桃果人はゆらりと犬夜叉との距離を詰める。

「人間なんて下らねえよ。朝から晩まで泥だらけになって働いて、年取って死ぬだけなんてよ。
 おやじもおふくろもそうしてくたばった。俺はそんなつまんねえ生き方したくなかった。」

も一応半妖なので、妖怪としての頑丈さや、強さを知ってしまった今では、人間の脆さをひしひしと感じる。
けれど、彼のように人間へ絶望していない。なぜ、なぜこんなことになってしまったのだろう。

「それで、そこのバカ仙人に弟子入りしたわけよ。」

バカ仙人―――の頭にカッと血が上った。
(お前に……お前なんかにバカなんて言える筋合いはないよ!)


「何年か修行して、そこそこ仙術が使えるようになってきたころ、師匠の留守の間に巻物を盗み見てな、
 手っ取り早く仙人になるためには仙術を会得したやつの肉を食べるのが一番だと知ったのよ。だから、殺した。」

せせら笑う桃果人。

「もっとも最後の秘術、不老長寿の薬の正しい作り方だけは、そいつの頭の中にあるらしい。
 だからそうやって頭だけは生かしてるんだ。」
「不老長寿の薬……?」

先ほど木に成っていた老人の言葉を思い出す。
『わしらの首は人面果と称されて桃果人の不老長寿の薬となる…』

「あんた、そんなことのために人を殺してたの?」

倒れた犬夜叉をかごめが抱き寄せて、桃果人を睨んだ。

「同じ人間だったくせに……人間を食べてるの!?」
「強いものが弱いものを食べて何が悪い……?蛇が蛙を食べるのと同じだ。」
「あんた……!」
「よせかごめ、」

かごめのもとでぐったりとしていた犬夜叉が、よろよろと立ち上がろうとする。

「犬夜叉、動いちゃ……」
「こいつにおめえの理屈なんざ通用しねえよ。俺は半妖だからな、人間の体の弱さにはほとほとまいってるし、
 強くなりてえって気持ちもわかる。だけどな、やっぱりおめえには虫唾が走る!」
「あ〜?おまえ俺に説教すんのか?足腰立たないくせに」
「くっ」

言われて、なんとか立ちあがった。
その際掴んだ、近くにあった人骨の入った壺を思い切り桃果人に投げつけた。

「てめえなんかに言ってやる言葉はねぇ!!」

桃果人が投げつけられた壺にひるんだ瞬間に、犬夜叉は彼に突っ込み、
お腹にある四魂のかけらを掴み取ろうとするが、そのまえに桃果人は腕を犬夜叉の首にまわし、
そのまま背後へ押し出した。
さすが妖怪だけあって力は強大で、すさまじい勢いで犬夜叉は後ろにあった壺へ突っ込んだ。
その壺は見事に割れ、中から出てきたものは、人の首だった。

「ちょっとあれ……まさか、不老不死の薬のなんかかな?」
「かもしれませんな。」
「その薬をひとすくい飲まれよ」

頭だけとなってしまった仙人が言った。

「薬…これが薬だと?」
「これは桃果人が作った不老長寿の秘薬のまがいもの。だが、傷をたちどころに治すくらいの効き目はある。
 さあ助かりたかったらそれを―――」

仙人の言っていることは残酷であった。

「飲めるわけ……でも、」
「この状況で傷が治るのは大きいです。」

犬夜叉はどうするのだろう。

「へへへ……飲んでもいいんだぜ。ちっとくらい元気なほうがおもしれえや。」
「………誰が飲むか、こんな眼ざめのわりぃもん。てめえなんぞと一緒にするな!!!」

彼の心はやはり、”人間”であった。
この選択は犬夜叉にとって大変不利だし、ただの意地である。
けれどこの選択はや、他のみんなの心を温かくした。

「へへへ……薬を飲まなかったことを後悔するぜ。半妖が……なぶり殺してやる。」




VS桃果人