「ちょっと、血だらけじゃないの!」
裸のままかごめが犬夜叉のもとに駆け寄る。
「こんなのかすり傷でい!」
犬夜叉は火鼠の衣を脱ぎ、かごめに放った。
「それ着てろ。血だらけで気味悪いだろうけどな。」
「ううん…犬夜叉の血だもん。」
しばしの静寂の後、かごめは衣を羽織った。
「かごめ、逃げなきゃ」
かごめが着替え終えた後、が言う。
「?そんなとこにいたのね。弥勒さまに七宝ちゃんまで。」
「朝がこなくては私達に勝ち目はありません。こんなに小さくては風穴も役に立ちませんし…」
「そうね…。じゃああたし、外にでられそうなところ探してくるわ。」
駆け出そうとしたかごめを待て!と犬夜叉は止める。
「危険だ、あいつに見つかったら食われちまうぞ」
「けどここにいたんじゃいずれ見つかるわ。」
「ともかく場所は移した方がいいかもね、かごめの様子を見に来るかもしれないし。」
「そうですね。では少し場所を変えましょう。犬夜叉、歩けますか。」
「俺をみくびんじゃねぇ。いくぞ」
犬夜叉はふらつきながらも立ち上がり、階段をあがる。
少しいったところで枝分かれになった階段を最初通った方とは違う方をいき、やがて犬夜叉は座り込んだ。
「じゃあ探してくるわ。」
「わたしもいく。」
ひとりで行動するのは危険なうえ、かごめに執心してる様子だったので尚更だ。
「わかった、一緒にいきましょ。」
「、かごめさまを頼みますよ」
「ガッテンショウチだよ!」
にっと笑みを浮かべ、差し出されたてのひらに乗り込んで弥勒と七宝に手を振った。
かごめと二人、道なりに階段を上ってくと、しばらくして小さな部屋に出た。
そこを通り抜けると、外へ出れる場所―――現代で言うベランダ的なところ―――へでた。
「ここから逃げられるかしら……」
「ど、どうかなぁ。七宝が小さいいま、丸いのになってそれに乗って降りることもできないし……うーん。」
「ひとまず、犬夜叉に知らせましょうか。」
「うんうん。」
ここで二人で議論をしていても仕方ない。二人は再び先ほどの場所へ戻った。
相変わらず犬夜叉は重症だし、肩に乗っている弥勒と七宝も小さいままだ。
「外に出れそうなところを見つけたわ。歩ける?」
「外……出れるのか。朝は?」
「まだ真っ暗よ。とにかく、あんたの妖力が戻るまで逃げるしかないわ。」
よろよろと立ちあがった犬夜叉を先ほどの場所へ案内すると、犬夜叉はぼうっとした瞳を外へやった。
「……ここか、外へ出れそうな場所って。」
「だめ?」
犬夜叉は顔を手で覆うと、
「よし、」と何かを提案しようとしたのだが、かごめがすぐに打ち消した。
「いやよ。」
「まだなんもいってねぇ。」
「どうせあたしたちを逃がすつもりでしょ。い、や!」
「――だれか、いるのか?」
ひどくしわがれた声が部屋の中から聞こえてきた。一同の視線が声のしたほうへそそがれる。
桃果人かと思い皆構えるが、そこには、プランターがあり、老人の顔が薄い花弁の中央に生えている、
人面花のようなものが育っていた。
「人の声を聞くのは何年ぶりか……」
かごめが老人のもとへ歩み寄り、しゃがみこんだ。
「あの、おじいさんも桃果人に食べられたんですか?」
近くで見ると老人の顔は深い悲しみに沈んでいるように見えた。
「不覚であった……あのようなものに我が仙術を……」
「えっ!?じゃあ、まさかおじいさん、仙人……?」
「恥ずかしながら、桃果人の師匠であった……」
「てめえ!」
犬夜叉が仙人の花の茎を掴んで怒りをあらわにした。
「仙人が聞いてあきれるぜ!なんであんな人喰い妖怪に仙術を教えた!?」
「やつは…桃果人は……妖怪ではない。本当はただの人間だったのだ。」
と仙人がいったところで、ドタドタとせわしない足音が聞こえてきた。いやな予感がする。
そしていやな予感というものは、えてしてあたるもので。
「へへへ……てめえら、こんなところまで逃げ込みやがって」
もはや人でもなんでもない。
身体が岩のように堅くなっていて、先ほどよりもグレードをアップしたようだった。
エスケープ