「ひとまず村人に一通り声をかけてみましょう。早くここから抜け出さなければ。」
「そうだね。じゃあわたしあっちのほうを…っ!?」
どくん、と深く身体が脈打ち、ざわつく。自分の中が何かが変わってしまうような妙な感覚。
本能でわかった。これが、妖力が不安定になると言うこと―――。とうとう始まってしまった。
「あれ、、また耳が……」
かごめに指摘され、耳に手をやると尖っていた。やっぱりな、と納得する。
「たぶん、夜になったと思う…。前にいったとおり、妖力が不安定なってると思うんだ。」
ということは犬夜叉も今頃――という考えに皆が行きつく。
犬夜叉が手際よく桃果人を倒し、すでに崖を下っているならいいのだが、いま犬夜叉が
どんな状態かもわからない上に、箱庭の世界に入り込んでしまった状態。
ひとまず箱庭からでるしかない。
「じゃあわたし、あっちいくね。」
先ほど途切れてしまった言葉を今度はしっかりと告げ、手がかりを探しには上の方へ歩き出した。
七宝が先ほどいってたとおり、木の下にいっぱい人が集って、ぐてんとしていた。
「あのー」
控えめに声をかけるが、誰一人として反応をしてくれない。
「あのーー!!」
今度は大きめに。けれどやはり誰も反応してくれない。なんだか空しくなる。
結局誰も反応してくれず、くてっと横たわっていたり、水をのんだり、木の実を食べているだけであった。
遠くで弥勒と七宝がいたので、合流すべく走るが、いつもより格段足が速い。
どうやらいま、少なくとも足は妖怪の状態らしい。
「弥勒、どうだった?」
あっという間に弥勒の隣にたどり着きたずねると、首を横に振った。
「だめです。誰も返事をなさらない。」
「、弥勒さま、どうだった?」
かごめも合流した。と弥勒は首を横に振った。
「やっぱり…。なんだかみんな抜け殻みたいにぼうっとしてて……。」
「仙術にかかってるんじゃろか?」
「けど、わたしたちは平気だよ?」
なにが原因で皆、魂が抜けたようなことになっているのだろう。
と思案をめぐらせていると、弥勒が「なるほど。」と隣で呟いた。
「おそらく、この箱庭のなかにある水や食べ物を口にすると、考える力を奪われるのでしょう。」
「ああ、なるほど…。だからみんな手に木の実を持ってるんだ。」
弥勒の賢さに感服する。
年は少し上ぐらいのはずなのに、この頭の違いはどこから生まれているのだろう。
「飲み食いしなければ大丈夫じゃな!」
「そうね。」
いつのまにやらの肩にやってきていた七宝がいかにも名案のようにいい、かごめも同意するが、
「飲まず食わずではいずれ死にます。」
「そうね。」
弥勒が正論を言ってのけ、かごめも同意した。
思わず持っているものの確認をしてみる。
黎明牙、手鏡、ハンカチ。食べ物は何一つなくて、ため息をついた。
「あれは…?」
かごめの声に、かごめを見ると、空を見上げていた。
も見上げると、まるで台風を上空から見ているかのような
渦巻状の雲ができていた。なんだろうあれは、と思い見ていると、渦の中心から大きな手が現れた。
「一か八かつかまってみましょ!」
「え!?」
「ですな!」
「ええ!?」
と七宝が二人の行動に心底信じられないように悲鳴のような声を上げるが、
二人が走りだした手前とどまり続けることもできなくて、も走り出した。
今度のスピードはいつもより少し速いぐらい。
大きな手が、の少し前で数人を握り締めた。間一髪間に合わず、どうしよう、と一瞬迷ったが、
次の瞬間には着物の裾に飛びついた。弥勒も入らなかったのか、すぐそばで裾にしがみついていた。
「大丈夫ですか!」
「うん!だいじょ、ぶ!」
とはいうものの、普通の女の子であるは腕力はそんなについていない。
すぐに腕が辛くなった。こういうときに妖怪になってくれれば助かるのだが、
気持ちに反して一向に腕に力が入る気配がしない。七宝が気を遣って弥勒の方へ移動した。
「頑張って!もうすこしの辛抱です!」
腕がすごい勢いで上へ戻って行く。残酷なほどの重力がを襲う。
「む、りぃ……。」
もうだめだ、助けて―――そう思ったそのとき、奇跡が起こる。
力が沸いてくるのだ。裾を掴む手に力をこめる。
「なんとかいけそうですね。」
弥勒がほっとしたように微笑んでくれて、も微笑み返す。
問題は、いつまでこの状態がつづくかだ。
「おおっ!若い娘だ!!」
突如頭上から声が聞こえてくると思ったら、
人がどんどんと手のひらから零れ落ちていった。
「こんなうまそうなの捕まえた覚えがないが…。今日はいい日だ。珍しい半妖も手にはいったし。」
「犬夜叉にあったの!?」
かごめの声だ。若い娘と言うのはかごめらしい。
「ん〜おまえはあの妖怪小僧の仲間かぁ?」
ずいぶんとゆったりした喋り方が印象的だ。
顔を見ると、人間と言えば人間、のような顔をしていたが、なんだか怖かった。
人形のようにも見えて、その無表情が恐ろしかった。これが、たぶん桃果人なのだろう。
「ちょっと!犬夜叉は無事なんでしょうね!?」
対するかごめは威圧的に怒鳴りつける。すごい、と感服する。
には到底できないわざだった。怖くてすくんでしまう。
「なんかあったら許さないんだから!!」
ああ恐ろしい。
この子は怖いもの知らずだ。
「すごいなかごめは。フツーに会話しとる…。」
七宝も同じことを思っていたらしく、感心したように言った。
「場慣れしているんでしょうなぁ。」
「するものなの……?」
「さぁ…。」
と弥勒は苦笑いした。さすがかごめだ。
「へへへ、イキがいいなぁ。小さいまま食うのはもったいない。」
「きゃあ!」
「かごめ!!」
桃果人がかごめをぎゅっと握りしめた。
七宝の悲痛な声空しく、かごめは気を失い、身体から力が抜けた。
桃果人はそのまま歩き出した。
「、このまま桃果人についていけば元に戻れるかもしれません。」
「そうだね。犬夜叉にも会えるかな…?」
「おそらく。それまでが持てばいいのですが。」
「そればっかりはなんとも…はぁ。今日は厄日だ。」
階段を下りているらしく、一段おりるたびに振動が伝わってくる。落ちたら間違いなく、死だ。
裾を握る力を強くした。、もう少しだけ頑張って。
ふしぎな箱庭