ここは迷いの森か何かなのだろうか。
先程からかごめと犬夜叉の静かな追いかけっこがたびたび目の前を通っていく。
もう何度目だろうか。七回目?

「いつおわるのかなー」

先ほど弥勒が捕まえた魚が焼かれているのを見ながら、は呆れたようにつぶやく。
最初こそどうなるかとハラハラしていたが、もうこの、険しい表情のかごめのあとを、
これまた険しい表情の犬夜叉が追い掛けるという不毛なやりとりにもそろそろ飽きてきた。
はやく仲直りをしてしまえばよいのだ。

「まあこればっかりはかごめさまの気持ち次第ですからね」
「うーん、キスシーン…ねぇ」

確かに、嫌かもしれない。
彼がかつて愛した女性の生まれ変わりとしては、複雑なことこの上ない。
しかし複雑なだけでそう怒るだろうか。
とそこまで考え、突然とある結論に至った。

「かごめって、もしかして…」
「どうかしました?」
「犬夜叉のこと好きなのかな」

それしか考えられない。
そうでもなかったら普通怒らないだろう。

「そりゃそうでしょう」
「それしか考えられまい。まさか、気付かなかったのか?」

両者さも当然かのように言った。自分の鈍感さに呆れた。

「……気付かなかった。」
「鈍感ですなあ。」

あれ、と思うことならあったような気がしないでもない。
でもそれはあくまで今思えば。

「そっかそっか…青春だねえ」
「ですね。では私たちも…」

近くへ来ようとする弥勒。

「なぜそうなります!さわやかな笑顔で言わないでよ」
「おらなら気にするな。」
「それ以前に、べつに弥勒とわたしは何もないんだから、根本が間違ってるでしょ。」
「何もないとはひどい。」
「あ、またきた」

泣く振りをする弥勒を無視して、またやってきたかごめと犬夜叉に注目する。
相変わらず怖い顔をしている。

「もう五回くらい通ってるのう」
「あれ、七回じゃない?」
「八回ですよ」

あ、惜しい。と多少悔しがりつつ、再度、埒のあかなさを嘆く。(冗談抜きに日が暮れちゃうよ?)

「さあ、魚が焼けましたよ」

弥勒に魚を渡され受け取るが、疑問が生じた。

「どうやって食べるの?」

現代っ子には魚を箸無しで食べたことがない。

「こうです」

といって魚の腹あたりにかぷっと食い付いて、もぐもぐしている。
この時代からしてみれば、外で魚を食すならば当たり前なのだが、にはワイルド以外なんでもない。

「……骨は?」
「食べながら抜いていけばよかろう。喉に刺さっては痛いからのう。」

よかった、そこは今も昔も共通らしい。は意を決して、食べてみる。
普段家で食べていた魚よりもとても美味しかった。

「そろそろあの二人もお腹が空くくらいでしょうから、じきにおわるでしょう。」
「そうだね。」

舌で捜し出した骨を取りぬきつつ、頷く。
腹が減っては戦はできぬ、というくらいだし、そのうち和平交渉か停戦協定が結ばれることだろう。

「犬夜叉とかごめかぁ」

改めて二人の関係を考えてみた。
かごめはきっと、確定だろう。犬夜叉はどうだろう。近くにいてほしいといっていた。
しかし桔梗にキスをしたといっていた。キスという行為は、好きでないとできないことだ。
(少なくともにとっては。)

「ぜひとも幸せになっていただきたいですな。」
「だね。あ、弥勒口元汚れてるよ。」

といって自らの顔を使い「ここ」と示すのだが、弥勒は微笑を湛えつつ、

「とってください」

と言った。

「きもちわるい」

顔をしかめて言い放つと、「ひどいです」と眉を下げた。
もうこのような他愛ない(といったら弥勒は怒るだろうか)やりとりも慣れてきた。

「弥勒の扱いも手慣れたものじゃのう」
「でしょ?」
「扱いって…」




それから程なくして、犬夜叉がかごめをお姫さま抱っこして帰ってきた。
どうやらかごめが寝てしまったため停戦らしい。




譲らぬ乙女心