「…そ、じゃなくて、犬夜叉の立場で桔梗さんとかごめをどっちって」

びっくりするくらい早鐘を打つ心臓。
しかしあくまで平静を装う。視線はうろうろとさ迷い、結局足下で止まった。

「どちらにせよ、を選びます」

頭が真っ白で、何もわからなくなった。
そばに七宝がいることも、いまかごめたちと犬夜叉が険悪なことも。
ただひとつ、弥勒が自分の心を揺さ振っていること以外。

「もしがおぞましい姿であっても、それがであるならば私を選びます。かつて将来を誓った、
 愛した人が現われたとしても、を選びます。」

この答えは、の心を暖かさで満たした。
そして不覚にも、わたしは弥勒が好きかもしれない、と思ってしまった。

「いずれにとって私も、そのような存在になれたらいいと思います。」

おそるおそる顔をあげ、弥勒の顔を見ればとても穏やかな表情だった。

「…うん。」

精一杯、返事をする。どきどき、心臓の音が煩くて、顔も熱くて、今すぐ走り去りたい衝動に駆られる。
しかし手首を掴む弥勒の手の感触がそれを踏みとどませる。

「私が、の幸せでありたい。」

自分へ向けてはっせられる優しくて、暖かくて、心臓を心地よく締め付ける言葉が胸にしみこんでくる。

「……弥勒といると、安心するよ。隣にいてくれなきゃ、嫌だよ。」

隣にいることが当たり前になっている今。この当たり前が、いつまでも続けばいい、そう感じる。
言えなかった素直な気持ちがあふれてくる。

「いつだってわたしのことを支えてくれる大事な人だと思ってる。」
「それはよかったです。今のは、とても素直ですね。」
「確かに、なんでだろ。」
「私の愛の力でしょうか」
「はいはい」
「軽く流しましたね」
「うん」

なんと穏やかな気持ちなんだろう。

「…二人きりというのは、よいものですね。」
「そだね」

すっかり存在を忘れられた七宝であるが、七宝は二人を邪魔するわけにもいかず、
何か言おうと口を開いたが、結局言葉を呑んだ。

「ずっとこうしていたいものです。」
「…あ、そう…へぇ…ふうん…」

照れ臭くて意味もなく何種類も相槌を打つ。

は、どうですか?」
「わたし?そこ、聞くかな」
「ええ、聞きたいです。」
「や、だ!」
「聞かせてくれませんか?」

首をかしげ、穏やかに細められた瞳に見つめられ、の心から弥勒の求めている言葉が出ていきそうになる。
――今までになくいい雰囲気になったそのとき、突如地鳴りが聞こえてきた。
音のしたほうを見ると、土煙のなか、犬夜叉が地面に伏せていた。隣にはかごめがいて、表現が険しい。
一瞬にして状況をなんとなく呑んだ。

「お、かえり」

気まずさを紛らわすべく、ひとまず基本的な挨拶をすると、かごめが目を見開いた。

「手、どしたの?」
「え?……あ!な、なんでめない!!」

見れば、弥勒のつかまれたままであった。急いで剥がし、間に合わせの笑顔を貼りつけた。
すると犬夜叉がむくりと立ち上がり、土だらけの姿があらわになった。

「犬夜叉、…大丈夫?」
「おう。」
「あたし、帰る。」

すたすた、かごめが歩きだす。

「かごめ?どしたのー?」

もついていき、そのあとに弥勒、七宝、犬夜叉も続く。

「そこのそいつのせいよ。気にしないで」

ちら、と犬夜叉に目をやり、また向き直る。足の動きは止めない。

「犬夜叉、なにしたの?」
「なにって…その、」

非常に言いにくそうだった。
は悪い予想を立て、ため息を吐いた。

「さしずめ桔梗さまと何かあったのでしょう」
「……、」

無言は肯定。図星なようだ。

「何があったのです。」
「…おめぇがいつも女とやってることだよ。」

弥勒が衝撃を受けた顔をした。

「お、おまえ…そんな淫らなことをかごめさまの前で…」
「なんか別のこと考えてんだろコラ!」
「いつも、何してるのかな?」

頬をつねり、笑顔を浮かべ尋ねれば、「、ゆるひてくだひゃい」と謝った。そのとき、
かごめが足を止め、くるっと振り返った。

「ついてこないで!だいっきらい!!!」

かごめの迫力に、までビクッとしてしまった。頬をつねる手から力が抜けた。
犬夜叉は辛抱ならなかったのか、こぶしを握り喧嘩腰に、

「てめえいい加減に…」

と、啖呵を切ったのだが、弥勒が思い切り錫杖で犬夜叉の頭をひっぱき、
更に足で犬夜叉を踏ん付けた。

「かごめさまのご機嫌が治るまでお待ちなさい。」

と、目を回している犬夜叉にいったが、たぶん聞こえていないだろう。

「弥勒って、足長いね」

が目の前で起こったことに呆然としながらも、思ったことをつぶやいた。




伝えたい気持ち