夜も耽り、かごめとと七宝はすっかり眠りに就いた時、弥勒が小さく犬夜叉の名を呼ぶ。
「…ん?」
弥勒の予想どおり起きていた犬夜叉。
「になんていわれたんだ?」
「……おめえに関係ねえだろ」
「確かに私には犬夜叉の恋愛事情なんて興味もないが、そこにが関われば話が変わってくる。」
口を開けて幸せそうな顔で夢を見ているであろうという少女――
彼女と犬夜叉が先程、宿についた後で二人きりになったのを知っている。
その間に何があったのか、そして昼間の言葉の続きの正体をお祓いをやりながら、そして今まで終始考え続けた。
聞くのは怖かったが、聞かないままずっと何も知らずにいるのはもっと無理だった。
ようやくして決意し、聞いたのだが、彼は沈黙したまま。
「言えないようなことなのか?」
桔梗やかごめに未練があるようでは嫌だとでも言われたのだろうか。
「によろしくされたって言われただけだ。変な勘違いするんじゃねぇよ。」
「……それだけですか?」
「そうだっつーの。もう寝ろ。」
なんだ、よかった。
自分が仮定した最悪なことにはならなかったみたいだった。今夜はよく寝れそうだ。
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「我が名はであるー!余の顔を見忘れたかぁー!」
「……。」
「我をと知っての狼藉か!?無礼者ーっ斬鉄剣で切り捨ててみせよう!斬鉄剣のサビとなれ!…」
木の棒を振り回しいかにも楽しげに、延々と叫びつづけるを、犬夜叉は対照的に白い目で見ている。
明らかに時代劇を意識している。
「いっつもあんな感じなのよ」
「今宵の斬鉄剣は血に飢えて…」
「楽しそうですな」
少しはなれたところでの台詞を耳に流しながらかごめと弥勒が談義をする。
「ほんと、一緒にいて飽きないわよ」
「おらも一緒にいて楽しいと思う」
「わかります。あ、台詞終わったみたいです。」
が木の棒(曰く斬鉄剣)を振りかざし、犬夜叉に突撃していく。斬鉄剣で犬夜叉に何度も斬り掛かるが、
まるで動きにキレがない。の攻撃を涼しい顔で鉄砕牙の鞘で受けとめていた犬夜叉は、
「覚醒してないとだめみたいだな。」
と、判定を下した。
からん、と妙に虚しい響きを残して斬鉄剣がの手から地面に落ちた。
「……使えないってことですか」
「俺がいるからいいじゃねえか。」
覚醒していないときの自分はどれぐらい戦えるのか試してほしい、
と今朝方が犬夜叉に申し込み始まったこのテストの判定は、不可。は複雑な顔をした。
「でも、犬夜叉がもし風邪ひいたらどうするの。」
「俺は風邪なんてひかねぇっつーの!」
「確かに馬鹿は風邪引かないって聞きましたが、それは間違いで、馬鹿は風邪を引いたことに気付かないと
聞きました。」
「俺は馬鹿じゃねぇ!」
「ま、それは冗談だけど、実際何があるかわからないでしょ?
だからせめて、自分の身を護るくらいの力があればと思ったんだけど…」
は先日の狼野干の件が気掛かりだった。
負傷した犬夜叉の支援、とまではいかなくてもせめて心配がかからないように自分の身くらい自分で護りたかった。
朔の日の夜に危機が迫れば、いつでも覚醒できるとも限らないのだから。
「犬夜叉、わたしね、朔の日の夜から日が昇るまで妖力が不安定になるらしいの。
だから覚醒できないときがあるんだって。犬夜叉も、人間になるんでしょ?」
「…に聞いたのか?」
ひどく動揺しているのが見て取れた。
半妖にとって妖力を失う日を知られるのは命取り、とは本当らしい。
「うん。だからわたしはね、自分がどれくらい戦えるのか知りたくて。」
「…心配ねぇよ。がそんとき厄介ごとに首を突っ込まなかったらな。」
「やだなぁ、厄介ごとに首を突っ込むのはかごめだよ。」
「それもそうだな。」
心配いらない、か。
確かにそういわれるとそんな気もしてきた。弥勒もいる。かごめもいる。七宝もいる。
一人じゃない、仲間がいる。自分達が戦力にならずとも十分にやっていける気がする。
(もっとも、戦力にならないのは自分だけで、犬夜叉は人間でも十分に健闘できそうだ。)
「二人で何はなしてるのよ?」
いつの間にかかごめと弥勒、七宝がすぐそばにいた。
「、犬夜叉にたぶらかされているのですか。」
「ばっ、ちげぇよ!俺たちは重要な会議をしてたんでぃ。どっかいけっての。」
「なーに言ってるの。わたしたちみんなのことじゃん。」
が笑いかけると、犬夜叉はばつの悪そうにそっぽを向いた。
「実はね、」
は昨夜に告げられた、妖力が不安定になることを話した。
「なるほど…それは困ったわね」
「迷惑をかけるけど、ごめんね」
「犬夜叉がいるのですから、大丈夫ですよ」
「実は犬夜叉もその日妖力を失うのよ…」
「そうでしたか…。まあしかし、それを知っていれば事前に対策も練りやすい。
それにいざとなったら私がこの身に変えても。」
「どーもー」
「……はぁ。」
軽く流された弥勒はため息をつく。
「おらがいるから安心せい!」
「ありがとう七宝!」
「ぎゃー!」
七宝をぎゅっと抱き締めた。弥勒が嫉妬したのは言うまでもない。
ちからだめし