わたしは再びいつもの場所にいた。
『こんにちは』
どことなく厳しい表情の。
「こんにちは、お久しぶりです。」
『久しいですね。今日はどうしても伝えなくてはならないことを伝えに来ました。』
が切羽詰まったように話を切り出すのは初めてだった。真剣な表情。
わたしは何かよからぬことを言われるのではないかと内心焦った。
『新月をご存知ですよね。』
「月が見えない夜のことですよね。」
『はい。その日を朔の日というのですが、その日の夜から日の出にかけての妖力が
不安定なものになってしまうのです。』
「不安定……?」
『妖怪に変化できなくなるときもあれば、物凄い妖力を発揮するときもあるようになるのです。
ですから危機が迫ったとしても変化しないかもしれないですし、普通に歩いていても変化してしまうかもしれない。』
それは困った話だ。
その、朔の日の夜中の間中わたしは忙しなく変化したり戻ったりを繰り返すのか。
『その際妖怪に攻撃されてしまい、運悪く変化できずにもろに受けてしまった場合は妖怪のときよりも
多大な傷を負うことになります。』
「なるほど……気をつけろってことですね。」
『十分にお願いします。黎明牙も妖力のないではただの刀になってしまいますので。』
これはみんなに言っておかなければ、とわたしは堅く思った。
そして平常時の自分の強化の必要性も感じた。自らの身を護れなければ、死んでしまう。
『更に困ったことに、犬夜叉も実は朔の日には妖力を完全に失ってしまうのです。』
「え……一緒の日なんですか。それって、かなり厳しいですよね。」
『半妖は月に一度そうなるのです。そしてその日を知られることは危険そのもの。
でもは妖力を失わないだけまだましですよ。』
つまり、わたしたちの戦力が格段に下がるわけだ。しかも危険なほどだ。
「そういう日はおとなしくするのに限りますね。」
『お願いしますね。私も先程知ったので焦りました。』
「知ったって、誰に聞いたんですか?」
ていうかってどこにいるんだろうか。
……脳のなか?わたしの体のなか?不思議。
わたしの一挙一動からわたしの周りの様子まで全部見えてるのだろうか。
『誰と言いますか、急によくわからない何かに頭のなかに知識をたたき込まれるたんです。』
「謎、ですねぇ。」
いろんな意味で。
は心とか読めるのだろうか。わたしは不思議に思った。もし読めたら教えて、とテレパシーを送る。
『もしかしたら四魂の玉からの通達かもしれないね。』
……どうやら読めないみたいだ。
でもいつもの優しい、穏やかな笑顔が見れてなんだか嬉しい。
「そうですね。」
『…私もなんとか妖力の均衡を保てるように足掻くので、頑張りましょうね。』
「はい。引き続き、話し掛けるのも頑張ってください!」
『承知しました。ではそろそろおいとましますね。では、』
逢瀬とも思えるとの時間がおわり、夢のなかに引きずり込まれた。
寂しい気持ちは一緒に呑まれていった。
とまどう世界