その日の夜は運良く村にたどり着けたので宿がとれた。(いつも通り不吉な雲が偶数にもあらわれたのだ。)
荷物を置き、それぞれがそれぞれの行動をしはじめる。
弥勒はお祓いに、七宝はかごめと一緒に探索へ繰り出している。と犬夜叉は二人で川沿いへやってきていた。

「水が綺麗だねー」
「きたねぇ川なんてないだろ」
「わたしの住んでる場所は、汚いとこばっかだよ」

ああそうか、と改めて認識する。
少し先を歩いていて、振り返って笑いかけてくれたは本当はこの時代にいてはならない人。
急に遥か遠くに感じた。

「……いまは、ここにいる」
「そうだね。当分は帰れないし、もしかしたらずっとここにいるかも。」

川辺で立ち止まったの横へ行き、表情を見てみれば、そこに悲しみはあまり感じられなかった。
そのことにホッとする。一緒にいることを許されたような気持ちになった。

「家族にも友達にも会えないけど、みんながいるから淋しくないよ」

と言いながら座ったので、犬夜叉もそれに倣う。
水のせせらぎと、風の音と、の声しか聞こえない。

「俺も、がいるから毎日楽しい。」

すらすらと気恥ずかしい本音が出てくるのは、穏やかなこの世界のお陰だろう。

「役に立ててるようでよかった。」
「あたりまえだ、すっげぇ役立ってる。」
「……戦える力は有り難いことにあるけど、それを進んで使おうって思えないから守ってもらってばっかで、
 いつも犬夜叉ばっか傷ついちゃってるよね。」

の言葉に犬夜叉の頭のなかは反論で一杯になった。

「いいんだ!は戦わなくっていい。自分を守ることだけ考えてりゃいいんだ。俺が守るからよ。」
「……ありがとう。やっぱり犬夜叉は優しいね。」

――桔梗が大切だ。それは今も昔も変わらなくて、かごめも大切にしたい、と思う気持ちも確かにある。
でも、のことは――

最初はの生まれ変わりってことで、嬉しかった。どんな形であれ再び巡り合えたのだから。
しかしとは違う、のよさというのも沢山見つけて、という人間の魅力に魅了された。
弥勒に攫われたときはどうしようもなく怖かった。もしなにかあったら、と考えるだけでぞっとした。
そしての大切さを改めて知った。弥勒と仲良さそうにするたびに胸が張り裂けそうになって、
彼女を独占したいという欲が働く。

が自分を好きだったらいいのに、と何度も願った。


「犬夜叉、わたしね、犬夜叉のことを…」

きた――
昼間の言葉の続きだ。その先の言葉がもしも自分が想像したとおりだったら……。

にね、よろしくいわれたんだ。」
「……に?」
「うん。支えてあげてくださいって、夢の中で。」
「それが、昼間いいかけたことか?」
「うん。や、に面識ない人ばっかだから二人の時に言おうかななんて。」

随分と朗らかに言った。

「…それだけ?」
「うん!」

これまた朗らかに言った。

「…………はぁ。」
「え、ため息?ご、ごめん!犬夜叉は好きだから、喜ぶかなって…ごめんなさい。」

打って変わってしゅんとなってしまった
犬夜叉はがしがしと頭を撫で、「違う違う」と小さく笑った。

「俺が勝手に思い上がっただけだ。」
「思い上がった?」
「気にするな。俺こそその、ごめんな。」

誰かに謝ったのはいつぶりだろうか。
それよりどうやら、自分の勘繰りすぎだったらしい。情けない、穴があったら入りたい。でも、

の代わりにはなれないかもしれないけど…何かあったらなんでもいってね。」

の笑顔を見ていたら、そんなことどうでもよくなった。

が傍にいてくれれば、それでいい。」




犬夜叉の眩暈