少し経つと、瘴気が空へと逃げていった。
後に残ったのは衣がボロボロになった犬夜叉だけ。先程まで草で生い茂っていた場所は何もなくなってしまった。

「犬夜叉!」

が叫び駆け寄る。そのあとに弥勒、かごめ、七宝、楓も続いた。

「無事?」
「ああ、心配するな。…それより、奈落の背中に火傷の後があったんだ。蜘蛛、みてえな…」
「蜘蛛の…ねえ弥勒、もしかしたら」
「ええ、鬼蜘蛛の名残かもしれません。」

つまりそれが奈落の目印。奈落はさまざまな姿に化けるといっていたが、それを見つけられれば判別できる。
と、そのとき、呼吸音のようなものが聞こえた。音のするほうへ目をやれば、狼野干がいた。
狼野干は先ほど犬夜叉に放り込まれた木を食い千切ると、急にかっと目を見開いた。

「あ、頭が…割れる〜!」

頭を抑えて、身悶えはじめる。なんだか恐ろしくて思わず弥勒の後ろに隠れた。
すると、かごめが弥勒対犬夜叉のときを彷彿させるかのような不振な動きをする。
なんと狼野干に向かって駆け出したのだ。弥勒のときは風穴に吸いこまれに行ったのだが、相変わらずだ。

「無鉄砲だなあ…」
「私もそれは感じました。」

犬夜叉がひょいと飛んでかごめの前に立ちはだかった。

「死にてえのか!」
「あのう、取っていい?」
「無駄だ、これは奈落にしか取れな…」

狼野干の言葉を無視してわさわさと頭の生えた草の中に手をいれ何かを取り出す。

「あっ」
「弥勒、あれ…」
「四魂のかけらのようです。」

四魂のかけらを取りのぞかれたと同時に狼野干から草が徐々に剥がれていき、生き生きした様子だ。

「た、助かった!いろいろすまなかった!じゃっ!」

無駄に爽やかな狼野干が足取り軽やかに森へ帰っていった。

「ってこら!そんなことで済むとでも…!」
「やめなさい犬夜叉。奈落に操られていただけなのですから。」
「可哀相だよ…」
「ちっ」

弥勒との静止を受け、犬夜叉は思い止まった。

さて問題は、犬夜叉とかごめだ。

「ねえ、かごめはどうするのかな。」
「どうでしょう。かごめ様というより寧ろ犬夜叉の問題でしょうな。」
「でもかごめ、きてくれたんだよ。きっと何度も井戸に入って試したと思うの。」
「すべては犬夜叉次第…歯痒いですなあ。」

七宝がかけらを持って井戸のなかへ逃げ込んだから、かごめもこちらへくることができた。
かごめはやっぱり危険だとしてもこちらへきたかったのだ。
犬夜叉はどうするのか。

楓が屋敷に戻り、犬夜叉は木に登り空を眺めている。
たぶん、桔梗のことを想っているのだろう。

「犬夜叉」

が呼び掛けると、ぼんやりとした瞳がを捉えた。

「おう。」
「ねえ、降りてきて。そんな高いとこにいられたら首が痛くなるよ」

犬夜叉はおとなしく降りてきて、の目の前に立った。二人は座り込んだ。

「犬夜叉の気持ちはわかるよ。でも、いいの?かごめと一緒にいたいんじゃないの?」
「……でも、もう危険な目に合わせたくねえんだ」
「わたしはかごめと一緒にいきたい。」

ほろほろと涙が出てきた。
何の脈絡もなく突然流れた涙は、きっとかごめがいない旅への悲哀だろう。

「おい、泣くな!」
「犬夜叉だけじゃないんだよ。わたしも弥勒も七宝もいるんだから、なんとかなるよ。だから…」
「ああわかったよ!おら、いくぞ」

犬夜叉に手を引かれ、かごめのところへ向かった。かごめは井戸のふちに腰かけていた。

「もう、いくのか?」
「うん…ってあんた、何泣かせてんのよ」
「ち、ちげえ!俺じゃなくてかごめのせいでい!」
「かごめ…いかないでよ。かごめの代わりなんて、いないんだよ」
「…。」
「あのな、遠くにいてもいいとおもってた。…でもやっぱり、近くにいてほしい。」
「犬夜叉……」

守りたいものがあると弱くなるけれど、守りたいものがなければ強くはなれない。
かごめの存在はやはりかけがえのないのだ。




かごめの存在