騒ぐ。血が騒ぎ、たぎるのだ。
力ない自分に、という自分のなかに眠る妖怪が力を貸してくれたのだ。
ありがとう。妖怪の生まれ変わりと言うのも悪くはない、と感じる。
先ほどまで怖くてたまらなかった狼が、今では一抹の不安すらない。

「かかってきなさい!」

襲いかかる狼を軽やかな身のこなしで切り倒していく。
はじめて刀で何かを切ったのだが、身体が勝手に動いていくのだ。
頭はまるで無の状態で、ただただ自然の流れに身を任せている。
ようやくしてすべての狼を倒した。刀を鞘に戻し、ふうと一息つく。

「よーし…。」

骨喰い井戸に走る。前へ前へと出る足が人間のときよりもずいぶんと軽い。
あっという間に井戸前にたどり着き、井戸をのぞきこむが犬夜叉が突っ込んだ木が邪魔して何も見えない。

「七宝、いるかなー?」
!おらは無事じゃ!かごめが!!」
!!!」

かごめの声が聞こえてきた。かごめがいる、そう思い太い木の幹に腕を回してなんとか井戸から
木を抜こうとするが腕が回らないし、それよりも、今まで漲っていた力が少しも感じられない。
はっとして手を見れば、普通の爪であった。どうやら覚醒状態から戻ってしまったらしい。

、ちっと退いてくれ。」

後ろから声がかかり振りかえれば、いつの間にやら犬夜叉がいた。
言われたとおり退くと犬夜叉は難なく木を抜き取った。

「犬夜叉ああ!!!」

犬夜叉に遅れてやってきた狼野干が犬夜叉に襲いかかろうとしたが、
抜き取った木を狼野干に投げとばして気絶させた。

「犬夜叉…!」

かごめが井戸から出てきた。

「バカ野郎!なんで戻って…!!」

そして抱きついた。

「死んじゃったかと思った…ぜんぜん迎えにこないから!」

犬夜叉とかごめの会話が繰り広げられる中、弥勒と楓がやってきた。

!!無事か!?」
「弥勒!」

足取り軽やかに弥勒の元へと駆け寄る。
見たところ彼も怪我がないようで、はほっと胸をなでおろす。

「怪我はないか?」

肩をつかまれたかと思ったら、深刻な顔での全身を見渡す。

「どうしたんだ!」

たぶん、先ほど転んだときに怪我した場所を見つけたのだろう。

「なんてことないよ、さっき転んじゃって。それより弥勒は?」
「私は無事だ。…本当に、本当に無事なのだな?」
「本当だよ、心配しないで。」
「よかった…!」

ぎゅっと抱きしめられた。突然のことに戸惑い、頭が真っ白になった。
はじめて男性に抱きしめられた。弥勒は――震えていた。

「お前にもし何かあったら俺は…」
「み、ろく…?」

こんなにも心配してくれる人が居る。そのことがの胸を暖かくした。嬉しかった。

「無事で、なによりです。」
「うん…」
「おい弥勒!離れろ!」

かごめとのやり取りを終えたらしい犬夜叉がから弥勒を引き剥がした。

「あー、法師殿…妙だとは思わんか?」

少し気まずそうに楓が話を切り出した。

「はい?」
「あれだけ群れていた毒虫が姿を消した。」
「言われてみれば…。」

奈落があつらえたであろう毒虫が忽然と姿を消している。確かに妙だった。

「誰か居る!四魂のかけらを持ってる!!」

突然かごめが言い放つ。犬夜叉がさっと飛び立ち、弥勒も後を追う。
そのあとをとかごめと楓が追いかける。

「近くに居るのはわかってたんだ。」

犬夜叉が呼びかけた先には、狒狒の被り物をした男が居た。
(狒狒の男…ちっちゃい妖怪が言ってたっけ…確かそいつの正体は、)

「てめえが奈落だな。」

そう、奈落だ。
五十年前に犬夜叉と桔梗を憎しみの渦に巻き込み、弥勒の一族に風穴を植えつけた非道な妖怪。

「息の根止める前に聞かせてもらうぜ。」

犬夜叉が手を鳴らす。

「てめえ一体、俺に何の恨みがある。」
「恨み…か。教えてやろう、五十年前、この奈落が生まれた日のことを。」




奈落との対峙