「きたぞ犬夜叉!昨日の狼野干とやらじゃ」
の肩に乗った七宝が叫ぶ。
「狼野干?あの平面顔の狼妖怪か。」
「弥勒と楓ばあちゃんが結界張ってるけど…犬夜叉、間違っても暴れようと思わないでね。」
窓の格子に手をかけ外の様子を見ていたがふいにこちらを見てびしっと言った。
「へーへー。」
犬夜叉はつまらなそうな顔でそっぽをむいた。
「でもなんか様子がおかしい…。」
狼野干は血眼で、視線も定かでない。ただひたすら「犬夜叉ー」と亡者のように叫んでいる。
すると突然、槍がこちらに向かって飛んでくる。
結界を張っているから妖怪は中に入ってくることはできないのだが、槍となると話は別だ。
まるでこちらが見えているかのような正確さで楓のところへと向かってきている。
「危ない楓さま!」
「いかん法師殿動いては!」
弥勒が見かねて立ち上がり、錫杖で槍を払った。
弥勒が動いてしまったため、結界は破れてしまった。
「見える…見えるぞ!!犬夜叉そこか!!」
狼野干が小屋を襲う。
は咄嗟に頭を隠ししゃがみこむ。
すると黎明牙が淡い光を放ち見事に家屋の倒壊からの被害は防がれた。
「!!」
弥勒の叫び声ののち、何かがのそばから飛び立って、狼野干に斬りかかった。
「外に出してくれてありがとうよ狼野干。」
犬夜叉だ。
小屋の倒壊とともに妖怪封じの札も破れたため、犬夜叉が見事小屋から出ることができたのだ。
「、怪我はないか?」
弥勒はをすみからすみへと目をやり怪我がないか確認し、
何もないことを確認するとほっと息をついた。
「わたしは大丈夫。ありがとう」
無事を知らせるように笑いかけると、すぐに犬夜叉たちのほうへ向き直った。
「おとなしく死ねええええ!!!!」
「やかましい!!!」
犬夜叉が鉄砕牙で切りかかろうとすると、寸前で狼野干が鉄砕牙に平手をかます。
「くっ」
その勢いで弾き飛ばされた犬夜叉はそのまま地面へと崩れこんだ。
まだ傷は完治していないため、力も元に戻っていないのだろう。
刹那、きらりと光るものが犬夜叉から出てきて地面に落ちた。
「四魂のかけら!?」
「でっかい四魂のかけらだああ!」
狼野干が四魂のかけらに飛びつくが、すかさず七宝がそれをとり、逃げる。
「わ、渡さぬ!」
「逃がさぬ!!」
狼野干が口から無数の狼を吐き、それに七宝を追わせる。
「七宝伏せなさい!風穴を開きます!」
弥勒が風穴を開けようとしたそのとき、奈落の毒虫がどこからともなく現れる。
なんともタイミングのいい登場だった。
「七宝!!」
すかさずが追いかける。
ああ、こんなとき変化できたら…と心底思う。
今の自分はただの人間で、七宝を追いかける足だって遅いし、力だってない。
どんどん離される七宝との距離に歯がゆさを感じる。
「あっ!」
足が縺れ地面に思いきり倒れこむ。
全身に痛みが走り、静寂が訪れた。力ない自分が悔しくて涙があふれ出てくる。
「もういやだ…!」
非力な人間であることが嫌だった。
なんの力にもなれない、ただの足手まとい。それでも――
「立て、立つんだ…!」
涙をごしごしと拭いながら立ち上がる。
膝頭から血が出ているが、そんなことにかまっていられない。
再びは走り出した。膝が痛い、肩が痛い、腕が痛い、もう全身が痛い。
それでも走り続ける。たぶん七宝は骨喰い井戸へ行ったのだろう。
この道に見覚えがあった。犬夜叉と一度来たことがある。暫く走り続けると、狼がうろうろとしているのが見えた。
黎明牙を抜き取り握り締める。いざとなったらこの刀で戦うしかない。白刃をじっと見つめ、意を決して突撃した。
「こっちだあああ!!!」
一刻も早く七宝から注目をそらさねば、と思い、むちゃくちゃな大声を出す。
すると狼がいっせいにこちらを見る。その瞬間怯み、生命の危険を感じる。
(やばい…)
立ち止まり再び硬く刀を握りなおすが、がくがくと身体が震えてしまう。
逃げたい、怖い、でもここで逃げるわけにはいかない。狼たちはに向かって駆け出した。
身体が熱くなる。ああ、この感じを知っている。これは、そうだ
「、ありがとう」
悲しき非力な人間よ