(わたしは本当に、ここにいていいのかな?)

先刻は役に立ちたいなどと言って無理を押し切ったが、何の取り柄もない自分に一体何ができると言うのだろうか。
覚醒すれば戦力になるかもしれない。でも、いつだって覚醒するとは限らないし、
そのほかの面で何の役にも立っていない気さえする。ただの人間なんだ、と思いしる。
せめて四魂のかけらを瞳に写しだすことができたらかごめの代わりにもなれただろう。
自分の無力さがどうしようもなく悲しくて、無性に泣きたくなった。

「…どうしたんだ?」
「あ、んー…なんでもないよ。」

いつの間にやら犬夜叉がこちらを向いていた。あわてては笑顔を繕ってなんでもないように装う。

「なんでもないなら、なんでそんな顔してんだよ。」

上体を起こし、真剣な顔でを見つめる。
そのまっすぐな瞳に心の中が読み透かされそうで、思わず視線をずらした。

「どんな顔してる?」
「悲しそうだ。」
「おら、のそんな顔見たくない。」

七宝の訴えにいよいよ涙が出そうになる。泣き出したいときにそんなことを言われてしまっては涙を助長する。
こらえ切れなくて一粒涙をこぼすと、七宝が飛んできてあたふたと涙をぬぐってくれた。
小さなてのひらから伝わってくるぬくもりが暖かかった。

「す、すまん!おらが泣かせてしまったか??」
「てめぇ七宝!!」
「違う違う、なんか心配してくれるのが嬉しくて。」

へら、と笑うと二人はほっとした様子になった。
――ああそうだ。

「なんかもう外真っ暗だねぇ。」

笑っていよう。
わたしにできることは笑って、明るくいること。ひら社員のわたしにできることはきっとそれぐらい。
みんなが希望を失わないようにわたしだけは"大丈夫だよ。"と笑いかけなきゃ。

「おらもう眠い。」
「そろそろ寝ようか。ねえ犬夜叉、隣で寝ていい?」
「ばっ、いちいちんなこと聞いてくんなよ!」
「あれ、照れちゃったかな?」
「照れてねぇ!」
「照れとるな。」
「あだー!!」

ごつん、と犬夜叉の拳が見るも鮮やかな動きで上体を起こしてしなやかに七宝の頭に降りかかった。
七宝を殴るたびに思うのだが、犬夜叉は七宝を殴るときの動きはどんな犬夜叉の攻撃よりも鮮やかだ。

「七宝、今度から犬夜叉のゲンコツを避ける練習してみなよ。」
「た、他人事だと思って無茶なことを…!」
「これを避けられたらもう七宝は最強の称号を受け取ったも同然だよ。」
「そ、そうかの?ちょっとやってみよっかのう…。」
「やってみろってんだ。」

そういって再び七宝に拳骨を喰らわす犬夜叉の動きは鮮やかだった。



うつらうつらとまどろみの中を彷徨っていると、ふと咳き込む音がした。
次に血の匂いがした。うすく目を開けて、横にいる犬夜叉を見ると、彼はこちらに背を向け、
片肘をついて上体を起こしていた。

「いぬ、やしゃ?」

少し擦れた声で呼ぶと、彼はびくっと体を揺らした。

「あ、ああまだ起きてたのか」

すっと体をおこし、手のひらを地面になびりながらかなり焦ったような声色で言った。

「血、でたの?」

も体を起こして犬夜叉を見る。

「別に」

犬夜叉はふいと顔を背ける。
口元には血がついていた。そこへそっと人差し指を持っていき、ゆっくりと血を拭う。
犬夜叉は驚いたように体を小さく揺らしたが、の腕をやさしく握った。

「きたねぇだろ」

そういって自分の着物で拭おうとしたので、は人差し指を引っ込めて拳をにぎる。

「汚くないよ。」

犬夜叉の横顔は思い詰めたような、悲しそうな、そんな顔だった。

「すまねえ、心配かけちまって。」
「あのねえ、そんなこと気にしないの。わたしたちは仲間なんだから。もうちょっと頼ってほしいな。」

犬夜叉はふっと口角を上げ、微笑んだ。

「ありがとよ」

そういってを見た犬夜叉は穏やかな顔をしていた。

「おら、もう寝ろ。明日もはえーんだから。」

犬夜叉はつかんでいたの腕をに返し、ごろんと寝転がった。も横たわる。

「おやすみなさい。」
「おう。」

窓から見える夜空はとても綺麗だった。
真っ黒な世界にちりばめられた光り輝く命に願いをこめて目を閉じた。

(早く治りますように。)



星に願いを