「あけろ!あーけーろ!!」

手を後ろで拘束されて自由が利かないため、足で扉をたたいて小屋から出すように要求する犬夜叉。
なぜ拘束されているかわかっているのだろうか、と密かに七宝は思った。
現在妖怪封じの札が貼ってある小屋に犬夜叉と七宝とは閉じ込められ、
さらに外では弥勒と楓が結界を作り、狼野干――奈落から居場所を突き止められないようにしている。

「もー煩いよ犬夜叉。まだ怪我人なんだからね?」
「俺は平気だっつうの!」
「無駄じゃ犬夜叉。妖怪封じの札がしこたま貼られているからな。」
「なんで俺が封印されなきゃならねえんだよ!奈落を探し出してぶっつぶす!」
「お願い犬夜叉、おとなしく寝てて。」

いるはずのない人の声がして、はぎょっとして声のした方を見ると、かごめがいた。
目を見開いてしばし固まる。

「まだ傷口が塞がってないんでしょ?」
「か、かごめ…。」

犬夜叉も呆然とする。
が、彼女の後ろについている尻尾に気付き、一気に怪しげな笑みを浮かべた。

「一緒に寝ててあげようか?」
「七宝てめぇ…。」

どうやら七宝が変化しているらしい。
なんとまあ性質の悪いイタズラだ、とは思いつつは先刻別れてしまった幼馴染を思った。



今頃どうしてるんだろう。
確かに一緒に居ては危険だろう。でもかごめがいなくては四魂のかけらを見つけるのは困難を極めるし、
何より雰囲気が寂しい。やはりかごめは自分にとって必要だし、それはみんなにとっても同じだろう。
大切に思うが故、彼女の幸せのため犬夜叉は安全なところへと強制した。
生きていてくれればいい、という願いをこめて。

けれど果たしてかごめにとって、幸せとは危険から逃れることだったのだろうか。

それはきっと違うと思う。かごめはそういう女ではない。
危険だとしても、死ぬかもしれなくても、最後まで旅を続けるだろう。犬夜叉の行動はひどく一方的だ。
でも、自分が犬夜叉の立場だったら同じようなことをしたかもしれない。
守りきれなくて傷ついてしまうなんて悲しすぎる。一方的だが優しい、彼にとっての守り方なのだろう。

と、思案に耽っていて、急に我に返る。すると目の前では弥勒が犬夜叉のことをげしげしと踏んづけていた。

「み、弥勒…?」

恐る恐る名を呼んでみると、弥勒がやけに爽やかな笑顔で「おお、考え事は終わりましたか。」
とあくまでのことについて言ってくる。
そうじゃない、今の状況の説明を、と言おうとしたが、そんなこと聞いたところで理由はなんとなくわかるのでやめた。
(差し詰め犬夜叉におとなしくしてろ、と身体で訴えているのだろう。)

「犬夜叉。」

腕の拘束がとれ、着物を着なおしているを犬夜叉を見る。どうやら楓が塗り薬を塗ったみたいだ。

「んだよ…」
「大人しくしてよ。犬夜叉の怪我が治らないと嫌だよ。」

真摯に訴えれば、犬夜叉はバツの悪そうな顔をして視線をそらした。
彼にだって治らないとどうにもならないことぐらい自覚があるのだろう。

「わぁったよ…。」

ごろんと寝返りを打ってに背を向けた。




狼野干は犬夜叉を狙って必ずまたやってくるだろう。弥勒と楓は夜通しで結界を貼り続けるらしい。

「わたしもそばに居ようか?」
「いえ、は中にいなさい。ここは私たちだけで大丈夫です。
 それに、犬夜叉が心配です。あやつのそばにいてあげてください。」
「そうじゃぞ。遠慮は無用。ゆっくり休んでおれ。」

二人の優しさが胸に染み入る。は「わかった。」と申し訳なさげに微笑み、「お願いします。」と頭を下げた。
小屋を出て行く二人の背中を見守りながら、この状況で自分のできることは一体なんだろう。
と考えたが何も浮かばなかった。





暴れん坊とわたしの役割