「なんだ……この匂い。甘ったるい、香みてえな」

犬夜叉が何かの匂いを感知したと思ったら、ぼんやりとすぐそばで何かが光った。
反射的に見てみると、肩から血を流した巫女がいつのまにやらそこにいた。
かごめに似た巫女だ。まさか彼女が、

「犬夜叉……おまえがここに来るのを待っていた。」
「き、桔梗!?」
「おねえさま!?」

やはり彼女がかごめが生まれ変わりだと言われている桔梗だった。
綺麗な女性だが、表情が人間のものとは思えなく、寧ろ人間味を全くといっていいほど感じさせなかった。

「犬夜叉……おまえさえいなければ私は死なずにすんだ……おまえも早く、地獄に来い……」

何かを突く音がして、桔梗は淡い光となりやがて消えた。

「つまらぬまやかしだ。」

どうやら弥勒がトカゲを仕留めたらしかった。

「トカゲの腹に幻術の香を仕込んだものですな。」
「わたしたちがここにくるってわかってたの?」
「そのようです。」
「くっ……!」

犬夜叉が悔しそうに顔を顰め、洞穴を飛び出す。

「もってまわった嫌がらせしやがって!!出てきやがれ!!なんで直接襲ってこねえ!!」

犬夜叉の叫び声がの耳に悲痛に響き渡る。



なんて汚い奴。
ひとの心を弄ぶ最低なやつだ。



静かな怒りがこみあげる。

「もはや間違いない。鬼蜘蛛の邪悪な心が妖怪、奈落と結び付いたのだ。」

洞穴をあとにし、屋敷へ戻る。

「そして四魂の玉を手に入れるために、ついには桔梗お姉さまを死なせた。」

と、言い終えたところで向こうから何かが走ってくるのが見えた。

「七宝!!」
「い、犬夜叉〜!!」

七宝が何匹もの三つ目の狼に追い掛けられていた。
犬夜叉が七宝をおそいかけた狼を散魂鉄爪でなぎ払い、飛んできた七宝を抱き抱える。

「犬夜叉、血が!」
「くっ」

いまの動きで犬夜叉の腹の傷が開いてしまった。
衣に滲む血を見て、の体が騒ついた。

(犬夜叉………。)

……さま……?!」

覚醒を始めたを見て、楓が驚く。

「きさまが、犬夜叉か!」

大きな、鎧を装備した狼が犬夜叉の背後に立ちはだかる。

「なんだてめえは!」
「地獄の狼、狼野干!とどめをさしにきた!」

狼野干の口が大きく開かれ、無数の狼が放出され、犬夜叉に襲い掛かる。
弥勒が風穴を開き、犬夜叉の前に躍り出る前にが飛んできて、
犬夜叉を護るように両手を大きく広げたと思いきや、空(くう)を切り裂いた。
するとそれだけで狼たちはすべて切り裂かれた。狼野干は驚き、の目の前で立ち止まった。

……?」
「言いなさい、誰に頼まれたの?」

黄色い瞳が鋭く細められ、狼野干を見上げる。
すると狼野干は恐怖に顔を歪めたと思ったら、一歩退いた瞬間、小さく音を立てて姿を消した。
緊張の糸が緩み、が覚醒から徐々に戻っていく。

「奈落の手先かな。」

振り向き、弥勒に問うと、彼は賛同した。

「そうとしかかんがえられませんな。」
「さっきのトカゲにしても、いまのろうなんとかにしても、まるで見張られてるみたい。気色悪い。変態だよ。」

"いつもの"が顔を思い切り顰めてはき捨てた。




まやかしの香り