影で見守っていたたちであったが、これには黙っていられない。すぐさま飛び出し、井戸へ駆け寄る。

「犬夜叉おまえなにを!」
「突き落とすなんてなに考えて……!?」

 井戸の中には妖怪の骨しかなかった。

「井戸の向こうが……あいつの本当の居場所なんだ。、お前も」

 井戸の中を覗いていた背中を犬夜叉に押されも呆気なく井戸の中に落とされる。迫り来る井戸底に目をぎゅっと瞑る。どさ、と言う鈍い音とともに鈍痛が身体を襲う。目をうっすら開けると、目の前に白い骨があった。

「……あれ?」

 遙か上から、間抜けな声が聞こえてくる。先ほどを突き落とした張本人、犬夜叉の声。

は帰れないみたいですな」
「……そうだった」

 弥勒の声を聞きながら上体を起こし、頭上を見上げる。犬夜叉のばつの悪そうな顔と、弥勒の笑顔。
は不機嫌そうに言った。

「犬夜叉、ここから出して」

を井戸から出すと、犬夜叉は近くにあった木を抜き、井戸に突き刺した。

「何をするんじゃ! 井戸をつぶしたらかごめが帰ってこれないではないか!」

 慌てて犬夜叉の足に捕まって、なんとか止めようとする七宝。だが非力な七宝では止める事ができない。犬夜叉はかごめが危ない目にあうのを回避するためにやったことだろう。不器用ながら、そのことがわかる。なので、と弥勒は黙ってことを見守っている。

「うるせえ」
「かごめに会えなくても良いのか!?」
「あいつがいると俺が思うように闘えないんだよ。本当はも、帰すつもりだったけど」
「もう、このまえ試したじゃん」

 唇を尖らせると、犬夜叉はばつが悪そうに目を逸らし頭を掻いた。

は、ここに残れ」
「わたしは、一緒に行く。役に立ちたい」

 強い意志を篭めて犬夜叉を見据える。自分だって多少は戦える。役にたたないかもしれないが、が行けといってくれている気がするのだ。

「……私からもお願いします犬夜叉。はこれからの旅に必要不可欠な存在だと思うのですが」

 弥勒の援護に、は心の中でお礼を述べた。ちらと弥勒を見れば、彼の笑顔が今までで一番輝いて見えた。次に犬夜叉を見ると、むすっとした顔をして、やはりそっぽを向いている。

「……確かに。がいないと駄目なコトなのは悔しいけど認める。でも!」

 抗議じみた瞳でを見る。

「俺は、危険な目にあってほしくないんだよ」
「その気持ちはわかります。ですが、果たしてなしで平気なのですか? いろいろな意味で」
「いろいろな意味って、なんだよ」
「耳を貸しなさい」

 の目の前で、男二人がコソコソ話をする。あまりいい光景とは思えなかった。弥勒が顔を離すと、犬夜叉は顔を真っ赤にして頭を掻いた。弥勒は涼しい顔での隣に立つ。はなに言ったの?と目で訴えると、

「秘密です」

 と、今までで一番腹が立つ笑顔を浮かべて、人差し指を立てて口元に添えた。

「……いくぞ!」

 犬夜叉は顔の赤みをそのままに、歩き出した。

「どこへ?」

 同じく歩き出した弥勒の問いに、犬夜叉は顔だけこちらに向ける。

「決まってるだろ。奈落のところだ」

 弥勒は黙り、足を止めて少し考え込むように視線を地面に落とした。は一向に井戸から離れない七宝を気遣い気に見やる。

「七宝?」

 犬夜叉も歩む足を止めて、ちらりと七宝を見る。

「知らん! ……犬夜叉なんて嫌いじゃ」

 手でごしごし涙をふき取るしぐさをしながら、震える声でそう呟いた。

「けっ、いくぞ」

 再び歩き出した。黙って弥勒も続いた。はどうしようか迷っていたが、弥勒から名前を呼ばれ、後ろ髪を引かれる思いながらも犬夜叉に続いた。




彼女の必要性